短編集 カナリア色の月
短編集 カナリア色の月
もくじ
金魚の娘
おやすみヴィオレッタ
地平線への旅
ポラリスと森の声
なんなんと〜戒めの詩〜
彩魚
カナリア色の月
金魚の娘
大鳳 万
ある立派なお店(おたな)に金魚の娘さんがいました。つぶらな丸い目にツンと小さな唇、紅色の美しい着物が似合う、そんな可愛い金魚の娘さんでした。子供のいない旦那様は大層金魚の娘さんを可愛がり、美しいびいどろの鉢の中で大切に大切に育てていました。美味しいご飯や綺麗な着物を与え、歌も踊りも好きに習わせてやりました。金魚の娘さんは、暑さも寒さも知らない、とても贅沢な暮らしをしていました。
ある日、朝顔があちらこちらの庭先を賑わす朝、金魚の娘さんのいるお店の前をひとりの貧しい青年が通りかかりました。
涼しいびいどろの中で踊りのお稽古をする金魚の娘さんを見て、青年は恋をしてしまいました。金魚の娘さんを一目で好きになってしまったのです。
ここから先は
23,715字
¥ 1,000
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?