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vol.126「母の一周忌で聴いた話。住職は法話の練習をするか?」

朝起きて、パソコンの日付表示をみて思い出した。今日6月29日は亡くなった母の誕生日。生きていればちょうど80歳でした。


母の一周忌で、三十年ぶりぐらいに地元のお寺で法事に出席したときの話です。読経が終わると恒例、和尚の法話があります。今回は現住職のご子息でした。
※葬儀=ご子息、お盆=住職、一周忌=ご子息、のローテーション。祖母の葬儀は先代の住職=お祖父さんだったから三代にわたってお世話になっている。

◆「縁起」を大事にするということ。

おそらく三十歳前後の若い和尚さん、落ち着いた語り口で、話は始まります。

『皆さん、初詣に行きますか?私は生まれてから初詣したことはありませんが(※お寺さんだから)友人たちについていって見たので様子は知っています。おみくじを引いて、大吉なら「新年から縁起がいい」と喜ぶ。「凶」なら「もう一か所詣でてくじを引こうぜ」と言って移動する。

この「縁起」は、もともとは仏教の言葉です。物事と物事のつながり、事象と事象のつながりを指します。
たとえばお魚を食事でいただく。そのためには漁師さんが魚を獲って、市場に並んで、魚屋さんが仕入れて、それをお店で買ってきて、料理する。
このとき、漁師や市場の人を私たちは直接見ないけど、つながっている。漁師さんが魚を獲らなければ食べられません。

皆さんが初詣するとき、「家内安全」を願ったりします。家族の安全ですから、一見自分勝手ではなく良いことのように聞こえます。太宰府天満宮なら、受験生が全国からきて、自分の合格を祈願します。
このとき、隣の家の山田さんの家内安全まで祈る人はまずいません。職場にいるイヤな上司の一年の健康を祈る人もいない。高校生が「すべての受験生が志望校に通りますように」と願うこともない。ほかの人が合格して自分が落ちたら困りますからね。

「縁起」を円であらわすとしたら、小さい円です。自分の大切な人、または自分にとって有意義な人だけが円の対象になってる。

お寺にお参りにくるときはどうでしょう。今日皆さんが来られたのは一周忌の法事に出るためですよね。そうでなければ今日みたいな天気の悪い日、寒い日に家から出たくない。
先に仏様になった方がいるからお寺に来ている。いなければ来ていない。亡くなった方の「縁起」でつながっている。

この「縁起」を大切にして、たまに集まった方、見えないけどつながっている人へ思いを馳せ、想像し思いやることで、もう少し生きやすくなったり、幸せを感じるようになったりすると思います。
今日は「縁起」のお話でした。皆さま、おつとめご苦労さまでした。』

◆人生初めて、お寺での「質疑タイム」。

法話が終わると、「では、ご質問やご意見をお受けしたいと思います。先ほどの法話について、またまったく関係のないこと、お寺へのお叱りなど、なんでもかまいません」と言われた。
いわゆる「質問タイム」。セミナー、講演会のような展開。たぶん人生で初めての体験です。

せっかくの機会なので、質問してみました。

「先ほどの『縁起』のお話、とても面白く、明日誰かに話したい!と思いました。ご質問ですが、法話の練習、トレーニングをなにかされてますか?参考にお教えください」

長めの髪、あごには少し無精ひげの若い和尚さん。こちらの勝手な予想では「youtubeでスピーチの動画を見てます」でした。

「練習ですか。特にやっていませんが、住職、父の法話を横で数年間、聴いてきました。父は法話が上手いです。影響は受けていると思います。同じようによそのお寺へお邪魔した際も、上手な住職の話を聴いています。あとは場数です。一年中、一日に一回か二回皆さんの前で話しているので、話し方が上達してくるとは思います」

「特にトレーニングはしてないけれど、上手な人の話し方は参考にしている、ということですね。ありがとうございます」

法話は以上で解散したのだけど、帰り際に和尚が、思い出したように話しかけてこられた。

「トレーニングではないのですが、『仏教用語』を使わないようにはしています」
「それってビジネスでの説明と同じですね。『専門用語を使うな』と言われます」
「はい、年配の偉い役職者だと、仏教用語をたくさん使います。『みんなこのぐらいは知ってるだろう』と思っているからです。けれど、寺にくる他所の住職で話の上手な人は、やはり仏教用語を使いません」
「なるほど...!非常に勉強になりました。今日はありがとうございました」
「ありがとうございました。気をつけて帰りください」

私より二十歳くらい若い和尚さん。
説法だとか御仏のありがたい教えだとかの前に、ビジネスパーソンとして、何かの分野・技術で生きている人間どうしとして、非常に大きな教え・気づきをいただいた。


「上手な人の話を聴いて参考にする」「回数をこなす」「専門用語をつかわない」は、分野によらない「プレゼンのコツ」と言えます。「難しい話を難しく話すのは誰でもできる。難しい話を易しく話せるかが大事だ」とつながるテーマです。
『質疑タイムがあったら手を挙げる』、大事な習慣だと改めて思えた、記憶に残るできことでした。

最後までお読みくださりありがとうございます。


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