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vol.048「趣味も、合理主義で取り組んだ話~『釣りは科学』②後編:記録を取り、検証する。」

なんの実益もないのに打ち込むのを「道楽」と呼ぶなら、ほとんど唯一の道楽が、魚釣りです。

分野を「シーバス(スズキ)の、陸からのルアー釣り」のみに絞る。
高額な設備投資をしない。交通費のかかる遠征はしない。船(有料でポイントまで連れていってくれる)は使わない。
何時間も粘ったり、高度な技術を磨いたりしない。
「電車/徒歩/自転車」で行ける近場+技術(運動神経)不要+リーズナブルな道具のみ で成果を出すための研究に絞って取り組みました。

過去のメモをもとに、前後編2回にわけて、シェアします。
ビジネス的な意味での有益な情報は何もないのですが、当時住んでいた東京の湾奥エリアで、投資対リターン率が高かっただろうという自信はあります。
後編、ご笑覧ください。 


3.記録を取っておく【超重要】

伸びる人とそうでない人。上達する分野としない分野。改善できること、できないこと。テーマを問わず、共通する要素として、「記録をつけているかどうか」ということがあります。
ここでいう記録とは、「そのときの気持ちをつづる」とか「自分自身と向き合う」ことではなくて、「事実を、なるべく定量的に書いておく」ことです。

(1)When:いつ釣れたか

東京湾ルアー釣りでは、2015年シーズンから、釣れた時刻、場所、使用ルアー、そのときの潮を記録していました。特に「ヒットした時刻」と「満潮を基準にした時間」は 役に立ちます【図①】。

図①「いつ釣れたか」記録する。ヒット時刻と満潮の関係


魚がたくさん湾内に入っているかいないか。釣り方。天候。これらは100%の予測はできない。コントロールできない。つまり、計画が立たない。
だけども、「時刻=地球の自転」と「潮=太陽と月の位置関係」は、100%予測が成立する。百年先まで正確に分かっている。データとして無料で手に入る。計画が立つ。つまり「再現性がある」ということです。
 
たまたま同じくルアーマンの知人とその話題になり、「記録を取っている人は、そうでない人よりも、たしかに釣果を出している」という結論でした。
営業、交渉、育成、スポーツ、魚釣り。すべて「再現性」と「改善」です、というと大げさだけど、確実に効果はあります。
「ヒット数」、「キャッチ数」(ヒット数のうち対する釣り上げ数)が大きく向上。並行して道具の充実(より効率のいい設備投資)と経験値の蓄積もあり、「キャッチ率」も2015年は30%前半→2016年は目標値の60%に到達しました。

(2)What:何のルアーで釣れたか。

写真②は、2016、2017シーズンの「どのルアーで釣れたか」の記録です。
こうして時系列で記録しておくと、時季に応じてメインルアーのチェンジ、「今年は夏枯れに入るのが早いな」といった予測も簡単にできます。

図②「何のルアーで釣れたか」を記録する。


 
<2016→2017の比較>

◆量的な事実:総数は2016年比▲13匹。
11月18日時点で計50匹。2016シーズンの計63匹に対して13匹すくない。

データからわかる要因は2つ。
①夏にまったく釣り上げてない。
7月、8月のキャッチ数0匹。昨年は同時期14匹だから、ほぼこの差と見ることもできる。ヒットをすべてバラしたのだけど、計7匹だった。つまりそもそも少なかった。
②10月のベスト時期を逃した。
10月の下旬の大潮の週末が、例年、「年間通算のベストデー」になっている。今シーズンは台風21号の接近で強い雨となり、出撃できなかった。
 
◆ルアーはRapalaとコアマン。
③キャッチしたルアーはすべてRapala製とコアマン製。
 Rapala製:CD9、CD7、コアマン製:IP-13、PB-20、VJ-16

④年間1位と2位が入れ替わり。
 2016 CD9:31匹vs IP-13:15匹、2017 CD9:19匹vsIP-13:24匹
 シチュエーションを「強く濁った河川」に限定すると IP-13の7番(ゴールド)はCD9にも勝っている。"現時点の世界一"と言っても良い。もしくは「隅田川・荒川に持っていくルアーは、CD9とIP-13で足りる」と言っても良い。※釣具店にいくとルアーは何千種類と並んでるけど、2メーカー4種類しか使っていません。
 
◆キャッチ率が下がった。
 ⑤キャッチ率が下がった。最大の課題。
  2016シーズン キャッチ率60.6%(63匹/104匹)
  2017シーズン キャッチ率53.2%(50匹/ 94匹)
 
 
まとめ)
 ルアー釣りはシンプルなゲームで
  キャッチ数=ヒット数×キャッチ率
  ヒット数 =運動量 ×ヒットしやすさ
 ですべてが決まる。
 自分でコントロールしやすいのは、要素の③④当たりルアーと⑤キャッチ率。当たりルアーはほぼ押えができた。次シーズンは「キャッチ率向上(バラさない)」の取り組みをもうすこし強化しよう。

4.分析する、対策を試す

(3)記録を見て、検証する

前シーズンまでの「月別ヒットルアー」がわかっていることで、時期が来たら入れ替えることができます。その入れ替えも、ただ入れ替えるのでなく、検証しながらやる。
 
<あるシーズンの検証>
7月の下旬から、7cmと9cmのルアーを交互に貯める試すようにしていました。
捕食魚の餌となる小魚は、季節ごとに種類と平均的な大きさが変わる。おおまかにいうと、春:3~4cm、夏:5~6cm、秋:10cm~、という感じ。
捕食する側も、その時期ごとによく食べる餌の大きさを覚えています(いるそうです)。それ以外の餌には見向きもしない、ということもあります。

同じ場所で、同じ型の、違うサイズを、同じ回数(距離)流すことで、
①小さめのルアーに反応がある→「水の中はまだ夏である」
②大きめのルアーに反応がある→「水の中は秋に変わってきた」
という検証ができます。
ポイントは、夏の途中から②を開始することです。

春から夏にかけて、①=小さめのルアーで継続的に釣れます。けど、②を織り交ぜないと、秋に向かっていることが感知できない。
「小さめのルアーで1匹釣れたけど、大きめのルアーだったら3匹釣れてた(のに気づかない)」
という事態を防ぐためです。 
①「小さめのルアーに反応がある」と、②「大きめのルアーに反応がある」は、あるときスイッチのように切り替わるのではなくて、確率分布のなだらかな山として重なり合っています。(①が春から夏にかけての山で、②が夏から秋にかけての山)

直近の釣行(※当時)で、今年はじめて大きめのサイズ(9cm)で2匹釣れました。ルアー釣りで2匹以上釣れたとき、そこには理由があります。「再現性がある」と言い換えてもいい。

釣りは遊びだけど、理科であり、算数でもある、というお話でした。

(4)記録を見て、分析する

自宅から最寄りの川。護岸が全長4kmほど連続する。「総時間に占める、釣ってる時間(移動で歩いてない時間)」だけでいうと効率的なコースです。
だけど、経験則的に、最下流の1km以内で釣れている。隅田川だと、そんなことはない。 
調べていて、有力な仮説を見つけました。たぶん当たっていると思う。報告します。

川の水質を表す「BOD(Biochemical oxygen demand)」という指標があります。日本語訳は「生物化学的酸素要求量」。
要約すると、
・水中の有機物を酸化分解するために、微生物が必要とする酸素の量を表した指標。
・必要な酸素の量が多い=有機物の濃度が高い。
・有機物 ≒ 水の汚れ だから、値が大きいほど水質が悪いと言える。

このBODで、最寄りの川は全国ワースト1位になったことがある。つまり、水中でエビや小魚、それらを餌とする捕食者が生きていくのに、ほかの川よりも厳しいということになります。(※現在は水質が改善されつつあるとのこと)
 
これで謎が解けました。
隅田川では、河口から7km上流の浅草付近でも釣れる。
対して、水質ワースト1位(になったことがある)の川では、上流に行くと生活廃水の影響が大きくなるから、生物が激減する。河口近くの、海水が混じる水域でのみ、釣れる。

もう一つ思いついたことがあり、過去3シーズンの実績データを確認すると:
① 最寄り川では、29匹中、11匹が下げ潮(18匹が上げ潮)で釣れている。
② 隅田川では、62匹中、40匹が下げ潮(22匹が上げ潮)で釣れている。
③ 荒川では、18匹中、13匹が下げ潮(5匹が上げ潮)で釣れている。
となっている。

下げ潮と上げ潮の比率が、①と②③では明らかに逆転している。誤差でなく、有意な差と言っていい。
②③は、「川の流れ+下げ潮=流れが最も強くなるときときが釣れる」、という当たり前のことを示している。①は、(本来、下げ潮が有利なのに)「新鮮な海水の入ってくる、上げ潮で釣れる」ことを示している。
 
(まとめ)
最寄り川では
・(一見 効率的な)手広く移動する作戦は、勝算が低い。
・出撃すべきは上げ潮のみであり、下げ潮は隅田川や荒川で釣るべき。
ということが分かりました。
①と、②③は、今回、思いついて集計するまで気づかなかった。
ひと手間かけて検索したり、面倒だけど記録を残しておくと、ときどき役に立ちます、というお話でした。

(5) 「When:いつ釣るか」の補足編。

◆解説:風の向きと潮の向き

テクトロ(てくてくトローリング。壁際をひたすら引きながら歩く)は、水の流れに逆らう向きへ歩くのが鉄則。魚(シーバス)は流れに向かってステイしながら、餌を探している。後背から前方へ通過する=逃げていく獲物に反応するからです。となると、効率よく釣るには、潮の流れと風が、同じ向きのときが一番いい。

この日は、
・潮=海から河へ流れる(赤の矢印)
・風=沖から陸へ吹く (青の矢印)
で、条件を満たしていた【写真③】


写真③ 風向きと潮の向きで釣り方を変える


①まず、潮の流れに逆らう方向へ【手前から奥へ】、引きながら歩いていく。一番奥、つまり河口の突端まで行ったら、ルアーを取り換える。
②次に、河口から上流へ【奥から手前へ】戻りながら、上流へ向かってキャストする。風は海から河へ吹いているから、追い風。ルアーが風に乗って飛びやすい。投げるのは河岸と水平に。つまり行きがけに流したのと同じ、極力壁際を狙う。着水したら手元まで巻く。

テクトロの弱点、「上流に向かって歩き終えたら、帰りは使えない=行程の50%が"釣らない時間"になってしまう」を解消する工夫です。

荒川エリアでは、陸からの強い風はあまり出会わない(オフシーズンの冬を除く)。海からの風が多い。つまり「新鮮な海水の法則」に加えて、「行き帰りの効率の法則」の点からも「上げ潮に出撃するのが正解」ということになる。

★注意!★
②の「岸沿いに投げる」は、誰もいない場所でのみ行なう。例えば隅田川の両岸のように、散歩やジョギング、別の釣行者など、ほかの人がいるときは厳に慎む。怪我をさせると大変です。
釣りで最優先すべきは、釣果よりコスト対効果よりも「安全」です。

以上、「釣りも合理主義(効率重視)で考える」、後編をお届けしました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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