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vol.020「聴く技術:この世でもっとも難しいことのひとつ~否定せず最後まで聴き、感謝や見返りを期待しない」
「自分の意見を発信して、フィードバックをもらうこと」の続き、いちばん基本的な「話す」と「聴く」のうち、「聴く」について。話すよりもずっと難しく、話すよりもさらに重要なスキルだと考えています。
しばらく前の、たまたま同時期に、別の場・違う人から、「話しやすいよね」という意味のことを言われた。
指摘されたことを要約すると、
否定しない、意見を押し付けない →結果、話していてストレスがない、
という構造のようだ。
卑下するでなく、ましてや謙遜ではまったくなく、「どんな欠点でも、改善することがあるものだ」(人間って成長するのだなぁ)と、自分ごとながら感心してしまった。
昔から知っている人は、またはごく近年の知人から見ても信じられないだろうけど、「聴き上手」「話しやすい、喋ってしまう」は、これまでの人生で何度か言われたことがある。
すくなくとも学生の頃からだから、(後天的に訓練した)「話が上手/わかりやすい」よりもずっと歴史が長い。
整理してみた。
1.聴く技術編
①さえぎらずに聴く【重要】
ワンセンテンスを、途中でさえぎらずに聴く。最後まで聴く。一文が終わっても、しばし待つ。段落がとぎれるまで聴く。
悩んでいるとき、相談ごとを抱えているときは、考えながら言葉が出るのだ。ひととおり、話が出しきるまで聴く。
②反応する
相づちを打つ。軽くうなずく。
真剣な話にはだまって深くうなずく。
深刻な話にはため息をつく。首を振る。
「あなたの話を受け止めていますよ」というサインを出す。
無言のときにノンバーバルでサインを出すのは、とても重要だし、とても有効な手法だ。
③目を見ながら聞く
話を聴きながら、相手の目を見る。または顔の周辺を見る。
テレビ会議のときは、映像も確認するが、意識してカメラをときどき見る。視線があったように感じる。
2.返す技術編
④間(ま)を取る【重要】
即答しない。沈黙の時間を取る。黙考する。ポーズとして黙るだけでなく、実際に考える。考えているあいだ、黙る。
聴くときは視線を合わせる、考えるとき・話すときは時おり視線をはずす。
⑤否定しない【最重要】
否定しない。頭ごなしに言わない。 茶化さない。軽んじたり、からかったりしない。馬鹿にしない。
異論、反対意見を述べるときは、クッション言葉をはさむ。(例:「言いにくいこと言っていい?」「賛成してもらえるかはわからないけど」)
否定しないことは最優先事項だ。
⑥質問する、確認する
相手の話の内容を、「これこれこういう理解でよいか」質問する。
登場人物、関係性、背景など、不明な点があれば質問する。
特に「誰が言ったのか・思ったのか」(本人なのか相手なのか)、事実なのか推測なのかはきちんと把握する。ただし詰問にならないように留意する。
こちらの言ったことが伝わってるか確認する。
賛成か反対かは別にして、理解が同じかを確認する。
納得感があるか、そこは意見が異なるのか確認する。
⑦我を出さない【重要】
お説教しない。一家言を持ちださない。一席打(ぶ)とうとしない。
「俺に言わせればさぁ」などと言わない。
自分の経験談、過去の話を引用するときは、「自分の話をしてもいい?」と一言ことわる。ずいぶん受け取りがちがう。
とにかく、色気を出さないこと。
聴く場は、私やあなたの承認欲求を満たす場ではない。
3.共通編
⑧「持ち時間」を確認する
はじめる前に今日の持ち時間を確認する。長くなるときは確認を入れる。制限時間になったらいったん終了することを提案する。
相談する側はかならず「時間は大丈夫です」と言うものだ。「そろそろ終わりにしたいです」とは言いにくい立場だ。「彼・彼女とは信頼関係があるから大丈夫だ」というのはいったん忘れて、確認する。
⑨「次回の権利」を伝える
いつでも再開できること、「次回の権利」があることを告げる。進展や結果を知らせてくれれば、何か返せるかもしれない、と伝える。
その場合も強制はせず、判断は任せることを添える。
⑩見返りを求めない【最重要】
金銭や物品はもちろん、お礼の言葉も期待しない。感謝や尊敬を強要しない。チラリとでもにおわせない。
うまく行くこと、解決することを前提にしない。アドバイスを受け入れることも期待しない。アドバイスを採用しなかったら気分を害するぐらいなら、しないほうがマシ。
期待すると、そうならないとき相手のせいにしたくなる。
やりがいの源泉を相手に設定しないこと。最重要その2だ。
⑪状況うかがいの連絡をいれる
相談を受けたあと、基本的には、進展や結果の連絡を強制しない・相手の判断に委ねる、と書いたけども(⑨)、例外ルール(場合わけ)を設けている。「話を聴く技術」というよりは、「相談を受けたときのポイント」といったほうが正確かもしれない。
やり方は、相手によって変える。
(1) 連絡をくれるタイプの場合
長い付き合いがあるなど、相手の性格・気質がわかっていて、(本来は)こまめに連絡をくれるはずのとき。連絡がありそうなのに、間(あいだ)が空いて、無応答のとき。
「便りがないのは悪い便り」と仮定して、「その後、どうですか?」と連絡を入れてみる。
(2) 自分のほうが詳しそうな場合
「詳しい」というとなんだか偉そうだけど、相手よりも経験の種類が多い・調べた量が多い・考える時間が長いテーマのとき。起こりそうな状況を言えたり、対策の選択肢を挙げてみたり、で手伝える可能性があるとき。
「思いついたので追伸です」のように、メッセージを送る。
(3) 相談相手がいないと判った場合
話を聴くなかで、またその後で、「ほかにこの件では相談する相手がいない」と判ったとき。特に、「直接の利害関係がなく、守秘義務を遵守する=心理的安全性の確保される話し相手」がいないとき。
一人で抱えこんで悩むリスクが高いから、不定期連絡を入れてみる。相談相手がほかにいれば、しゃしゃり出る必要はない。
(1)(2)(3)いずれのケースでも、【一方的に・淡々と】メッセージを送る、電話やLINEでなく、【読んだかどうかも含めて相手が選べる】メディアで送る、ことに気をつけている。
「誰かに話を聴いてもらう効果」がまったく生じない人はいない。今までのところ、出会ったことがない。「一人で考えたほうが必ず良い決断ができる人」もいない。聞いたことがない。(※「重大な選択の最終決断はかならず一人でおこなう」はあっていいし、少なくない)
単に喋って確認質問を受けるだけで、状況が好転するか、後悔の少ない決定になるか、先延ばしにせず決めるか、メリットが出る可能性は高い。
「ほうっておくべきだろうか。出しゃばり過ぎかもしれない」
「でも、事態が悪化してから知ると悔いが残りそうだしな」
と、くよくよ悩みながら、それでも時々口出しするようにしている。
「やりがいの源泉を相手に要求しない」と「自分の納得感、後悔の少なさをどう確保するか」のブレンドだ。
人生は、
「それぞれに正しそうな理の中からどれとどれを採用して、そのブレンド比率をどうするか問題」
だと考えている。
常に出来ているという話ではなく、わすれずに意識したとき。紙に書き出して、目の前に置いているとき。
そうやって、よほど気をつけていると、しばしのあいだ持続する。
「話しやすいですね」(喋ってしまった)
「ストレスがないよ」(心理的安全性がある)
となる。
もうひとつが、相性の問題。
もともと相手に好意をもっているとき。敬意を払っているとき。相手の能力(魅力)がそもそも高いとき。考えるのを手伝っているだけのとき。
そういうとき、この事象が起きる。
「おかげで考えがまとまった。整理できた」
となる。
「聴く技術」は、「話す能力」と同じかそれ以上に価値(たとえばお金)を生む、と仮定を立てている。できれば、加齢や老害で衰えさせたくない能力のひとつだ。
実践練習と改良を続けようと考えている。
「聴く技術」も賞味期限の長い、そして終わり(完成)のないテーマ。引き続き考えて、実験を繰り返していきます。
次回は関連して、「場の安全性とネットワークの出力」について書きます。