vol.174「自分はいま、どんなゲームに参加しているのか、と考える(2)『対称か非線対称か』問題。」
「自分はいま 何のゲームに参加しているのか」「そこにはどんなルールが存在してて、どんな特質があるのか」と考えることがすごく重要だと思ってる、というお話、続きです。
ここでいう「ゲーム」とは、「遊び(遊び半分・ふまじめ)」を意味しなくて、「プレイヤーが2人以上いて、全員を支配するルールが存在して、かならず何らかの結果 または状態変化が起こる」「平等(等確率)ではないけども、とにかく参加プレイヤー全員に成功なり勝つ可能性がある」なんらかのシステム全般を指します。
◆なぜ野球だけが、大差で・勝ったり負けたりするのか。
将棋は、プロどうしが戦うと「どちらが一手ミスするか」の勝負になります。常に僅差で勝ち負けがありえる世界です。
どんな名人も勝率10割とはいかない。
羽生さんの年間最高勝率が0.836(46勝9敗,1995,歴代4位)。藤井聡太さんが 0.852(46勝8敗,2023,同2位)。
ちなみに歴代1位は 中原誠さんの0.855(47勝8敗,1967)です。すごい。
ラグビーは得点に大差がつきます。勝ち負けはまずひっくり返らない。強豪チームと普通のチームが試合をすると、ほぼ強豪が勝ります。
日本が過去、アイルランドや南アフリカに勝ったのは、「運・まぐれ」や「流れ」ではなく「総合的な実力が拮抗していたから」です。
野球だけが、大差で勝つ・均衡する・大差で負ける、のそれぞれが起こる。
野球だけが「非対称(asymmetric)なゲーム」だからです。
①配置が非対称である。
木の棒を手に待って、1人ずつ順番にプレイする攻撃側。
革の大きな手袋をはめて、全員に出番があり得る守備側。
攻撃側は打者+走者で1~4人と可変。守備陣は常に9人。
「フィールドに同時に立つプレイヤーが、同人数でない」という珍しい形態です。互いの陣地に攻め込んだり、両軍が入り乱れたりしない。フルコンタクトでぶつかり合ったりもしない。
②攻守が非対称である。
バッターが相手投手から点をよぶんに奪う。
ピッチャーが相手打線を少ない点で抑える。
別の言い方をすると、守備力に関係なく点を取られる(ホームラン、四死球)。クリーンヒットも、例外的なファインプレイを除いて防げない。
「攻守が非対称」のは、メジャーな球技では野球とゴルフだけです。
高校野球だと強豪が勝つ可能性が高い。プロ野球は勝ったり負けたりします。完封勝ちの翌日に、0-12で負ける。
投手がローテーション制で、毎回エースが登板するわけにいかないからです。
だけど本質は、「打線が投手を打ち込めば勝つルール」だから。非対称なゲームだからです。
戦力が非対称で、攻守が非対称で、強豪チームと普通のチームがいて、、、というと、一般のビジネス、仕事に似ている。
だから企業の仕事は、野球に例えられやすいのだと思っています。
◆なぜ、カイシャの仕事は「野球」に例えられやすいか。
企業の仕事は野球に例えられやすい。または、企業の経営者や管理職は、野球に例えたがる。
例えに用いやすい理由を考えてみました。
①「守備位置固定」のスポーツである。
サッカーやバスケットボールに比べて、野球は受け持ちが明確な球技だです。試合中、たとえばレフトとライトが交錯したり、入れ替わることはありません。
サッカーでは前線←→守備、左←→右へと、しじゅう動く。バスケだと、そもそも位置は固定されない。1秒未満で変わります。
野球だけが、受け持ちが定められています。
②「フォーメーション固定」のスポーツである。
野球はフォーメーションが美しく定められています。
サッカーなら、1トップ、2トップ、3バック、4バックとチームによって(試合によって)変えられる。バスケは、オフェンス、ディフェンスのフォーメーションがそれぞれいくつもある。
野球で「今日は外野5人で内野3人」といったことは(ほぼ)ありません。※今年の夏の甲子園、大社―早稲田実業で「レフトがピッチャーの横につく」場面がありました。
③「指示上位」のスポーツである。
野球では、1球ごとに捕手と投手で作戦を相談します。打者はベンチを振り返ってサインを確認します。
サッカーやバスケで、パス1つ毎に指示が飛んだりしません。ベンチにお伺いも立てません。ラグビーにいたっては監督がベンチでなくスタンドに座っています。
野球はほかの球技と比べて、とびぬけて「指示上位」の球技だということです。
④「分業制」のスポーツである。
先発、中継ぎ、ワンポイントリリーフ、クロ―ザー。指名打者、代打専門。
「攻撃重視」「守り固め」という思想は、もちろんほかのスポーツにもあります。しかし、野球のようにポジションが完全固定かつ役割が多彩、というスポーツは珍しい。
送りバントなどは、野球独特のものでしょう。バスケやアメフトでも、味方を有利にするために、体を張ってブロックすることはもちろんあります。
けれども「犠打」は、ほかに似た概念がないように思います。
野球は「高度に分業制が進んだスポーツ」です。
⑤「静的」なスポーツである。
故・野村克也さんが「ボールが動いている時間よりもそれ以外の時間のほうが長い」と指摘されたそうです。
1球ごとに、双方が考え、作戦を立てる時間がある。球技よりもボードゲーム、たとえば将棋に似ています。偶然だけど9×9マスと9人×9回。選手交代、持ち駒(トレード)。試合時間(回数)が固定されてない。共通する要素が多いです。
野球は、動的(dynamic)か静的(static)かでいうと、静的なスポーツです。面白くない、と言いたいのではなくて、図や状態遷移で表現したときにどう記述するか、というニュアンスです。
⑥「手続き処理型」のスポーツである。
投手がボールを投げる。打者がバットを振る。ボールが飛ぶ。内野手が取ると一塁手へ投げる。ヒットでもアウトでも、投手にボールを戻す。
プロセス的、手続き処理的なプレイが多い。
「ボールのあるところで全てが決定されるスポーツ」と言えるかもしれません。あらゆる球技が「試合中にボールは1個」だけど(例外はゴルフ)、野球はその中でもボール優位だということです。
整理すると、
(1) 受け持ち/フォーメーションが固定である
(2) 指示上位、かつ完成度の高い分業制である
(3) 静的状態の方が長く、手続き処理的である
役割分担で、自己犠牲で、静的優位で、情報優位。
企業的、組織的な仕事、管理になじみやすい。というか、たとえやすい。
「指示の意図を確認したのか?」
「チームのために、ワガママは押えろ」
「お前がエースだ」
「今は打率は気にしなくていい」
「まず、打席に立とう」
「ボールはどっちにある?」
野球好きの、プロ野球中継で育ったおじさん(私含む)だから、相乗効果で、話に絡めやすいのだと考えています。
「自分がいま、何のゲームに参加しているのか」という観点は、持っているとものすごく役に立ちます。
そのためには「この瞬間、この場は、どういうルールで動いているか」を観察して、言語化する(抽象化する)する「訓練ごっこ」を、普段からやっておくことだと考えています。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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