vol.119「良くしてもらいたかったら敬意を払うこと。話の流れに添うこと:魚屋の大将との会話」
食事や買い物でお店に行ったとき、面白い体験をすると、記憶の新しいうちにメモに残す癖(へき)があります。
四年前の昨日のできごとから。
プロに良くしてもらおうと思ったら、一にも二にもとにかく敬意を払うことだ、というお話をシェアします。
◆プロの話の速さと手際の良さ。
自宅最寄りのスーパーの、鮮魚コーナーへ。
ちょっとした記念日で、鯛を探したのだけど、単品の刺し身は見つからない。かわりに鮭やブリやマグロとの豪華な盛り合わせが売られていました。
食べるにはちょっと多すぎる量です。
売り場の奥、ガラスの向こうでは、職人さんたちが忙しく仕込みをしている。しばしためらって、恐る恐る声をかけてみました。
「あの、お忙しいところすみません」
「はい」
眼光鋭い痩身の大将。テレビ番組で見たラーメンの達人にちょっと似て、迫力ある人でした。
「鯛の刺し身を探しているんですけど、出ている以外にはないですよね」
「あー、そこにあるだけですねー」
「これは、一匹まるのまま用ですよね?」
「うん」
「そうですか...」
「半身にさばいて、それでよければどうですか?千円とかになっちゃうけど」
「いいんですか?お願いします!」
乗り出して手を伸ばし、鯛を手元に取ってくれた。
「ふだんは断っちゃうんだけどね」
「そうですよねぇ」
「皮は引いておけばいいんでしょ?」
「引くというのは、皮をはいでもらえるということですよね?」
「お客さんが『要る』というなら残すけど」
「いえ、引いてください。助かります」
「ありがとうございます。めちゃ嬉しいです!」
「そこまで言われたら、頭も持っていく?」
「え!いいんですか?持っていきます!」
バン!バン!とかぶとを割り、背骨を断ち、カマを外す。
素人が褒めては失礼だけど、手際が、見ていて気持ちがいい。
「頭は、すましにすると美味いよ」
「すましですか?」
「塩焼きの要領でばっとあぶって」
「ふむふむ」
「鍋に水を張って、薄味で塩を振る」
「なるほど」
「ネギの青い部分、使わないところあるでしょ」
「ふむ」
「あれ入れとくと臭みが取れるから」
「へぇー、やってみます」
あっという間に解体した半身(と山盛りのアラ)を、奥の機械にかける。
「はい、どうぞ」
ラップされ、値札シールが貼られて、受け取った。
「ありがとうございます!助かりました!」
まるのまま買わないといけないはずの魚の王様は、半身(と山盛りのアラ)に化けた。
自家製カルパッチョ、刺し身、あら炊きの三品へと変身。
すましと迷ったけど、立派なアラ、煮付けてみたくなりプラン変更。
いずれも美味しくいただいた。
◆良くしてもらいたかったら、話の流れに添うこと。
この事件であらためて強く認識したのは、「迷ったら言う」。
お願いごとは、言ってみる。どうせダメで元々なのだ。
そして耳を貸してもらえたなら、会話の流れを断ち切らないこと。
「皮が要るというなら残すけど」
=「引く」も知らないの?または「引いてほしいの?ほしくないの?」という一瞬苛立ち(想像)
→「いえ、引いてください。助かります」引っかかりをすぐ打ち消しにいく+謝意。
「そこまで言われたら、頭も持っていく?」
=裁量権から提案+頭(アラ)も使えるのかい?という問い・お題
→「え!いいんですか?持っていきます!」会話のテンポを止めない+声の大きさ・表情で反応強調。
とにかく相手の話の展開、流れに添うこと。
「相手の気持ちに寄り添いましょう」とか、心がまえのことではなくて、呼吸リズムを合わせに行く。
瞬間、引き出しをフル動員して打ち返しに行く。
こちらの別の知識で対抗したりマウントを取りにいくことはいっさい不要。会話を被せないようにすること。
一言でいうと「まず、敬意を払う」ことだと思います。
◆「敬意を払う」とはなにか。
「敬意を払う」の正確な定義は少し難しいですが、「尊敬すべき部分を尊敬する」、というニュアンスでしょうか。
恐れ奉(たてまつ)る、というのとももちろん違って、相手がプライドを持っている部分を尊重する。英語だと「respect」なのかなと思いますが、日本語で、しっくり該当する一つの単語(動詞)がないようにも思います。※思い出したら追記します。
もうひとつ、「対等に接する」。
何の記事だったか、宮崎駿監督が「掃除のおばちゃんたちにわが社で一番挨拶をしているのは間違いなく私です」と話している記事を読みました。
私も、ビルの守衛さんや受付の人にあいさつをするほうです。すれ違ったり前後して入退館して見たかぎりでは、たぶん一番していると思います。
ネット等で割とメジャーなテーマ「店員さんに対する態度問題」でもそうですが、「1円もお金のかからないことで、害がなく有益なこと(自分に有利なこと)」はやったほうがいい。
対等に挨拶をして礼儀正しい人、にこやかな人と、何も言わない・居ないかのように振る舞う人、横柄な人とで、同じ扱いを受けるはずがない。
挨拶をしない人は、たぶん、「この人(警備員や受付や店員の人)には挨拶する必要があるかどうか」(自分の挨拶というエネルギーを投じる意味があるか)と考えて、判別しているのだろうと想像します。
「挨拶してはいけないのでないかぎり挨拶する」と決めたほうが、時々良いことが起こります。(注:毎回100%出来ているわけではなく、訓練しながらやっています)
敬意を払う、対等に接する。
相手を尊重することは、仕事や生活の基本行動として、常に身につけ実践したいと考えています。
相手を尊重する、というのは当たり前のようで、大事なことだと思います。
ともかく、このときの鯛は手に入った経緯もあって、いっそう美味しく感じました。
臨機応変というかきっぷが良いというか、ちゃきちゃきぶっきらぼうに見えて優しかった、魚屋の大将に感謝しています。
最後までお読みくださりありがとうございます。
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