THE LAST OF US PART II 感想:なぜ「賛否両論」か?
レビューサイトで軒並み高得点を記録し、絶賛を受ける一方で、「前作を汚した」「クソゲー」「時間の無駄」との声も目立つ話題作、THE LAST OF US PART II(TLOU2)について語ります。
※最初の方はネタバレ無しです。
・この記事で目指すこと
私は本作を「歴史的傑作」であると感じています。ですが世の中には本作をクソゲーと叩き切る人々もちらほらいます。いったいどうしてここまでの隔たりがあるのか? その点に対して、私なりに納得すべく考えたかったのが第一の目的です。
なので、本作を酷評している人たちがこの記事を読んで、「高評価をしている人はこういうところに感じ入ったんだな」という着眼点を提供したいという思いもあります。
また、「これって面白い? やるべき?」という未プレイの人に対しては、ゲーム体験を損なわないよう、ごくごく最小限の導入を入れておきます。ネタバレを避けずに語ることは不可能なので、記事の途中からはクリアした人だけが読んでください。
そして何よりも、プレイした後のこの何とも言えない感情を語りたくて仕方ないので、ネットの海に放流しておきます。
なお本作には、愛、家族、紛争、宗教、ジェンダー、障害等々、社会派なテーマもてんこ盛りですが、そうした部分にフォーカスした批評は他の方に委ねます。私はただのゲームオタクなので、ゲーム部分について熱く語ります。
・未プレイの方へ
Q.前作やらなくても平気?
絶対に前作からやってください。
本作から始めていいことは一つもありません。これは物語の続きです。
そして前作をプレイし終えたなら、自ずと本作にも手が伸びていることでしょう。
Q.ストーリーが面白いって聞いたし、実況動画で十分じゃない?
本当に本当に本当~~~~~にもったいないので考え直すべきです。
これほどまでに、プレイすることに意味のあるゲームはなかなか見ないです。やれば分かります。
人生で一度しかできないゲーム体験を進んで放棄したいというなら止めませんが、ぜひ自分の手で物語を最後まで導いてください。
Q.プレイ時間どのくらい?
前作も本作も、だいたい25~30時間くらいのボリュームかなと思います。
Q.難しくない?
難易度はオプションで下げられるので、全く心配要りません。
Q.面白い?
だいたい高校生以上の年齢層の方には、まず満足してもらえる普遍的な魅力を持っていると思いますが、以下に当てはまる人には更に楽しんでもらえるゲームだと思います。
・「良質な物語が好きだ」「人間ドラマを大事にする」
・「ポストアポカリプス/ゾンビものが好きだ」
・「ステルスアクションが好きだ」「サバイバル系が好きだ」
Q.ちょっと怖くない?
私はホラーやスプラッタの類を一切苦手としているのですが、それでも物語の訴求力でグングンと先に進ませられてしまったので、多分耐性が弱くても何とかなります。それくらい面白いです。
最後に、ネタバレやストーリーの詳細については全力で回避してください。
そもそもこの記事にたどり着いてしまった時点で、何らかのネタバレを踏んでしまっているのではないかと思いますが、GoogleなりYoutubeなりで検索するのは絶対に控えた方がいいです。軽いネタバレなら吹き飛ばす面白さはありますが、用心するに越したことはありません。
無用な検索を避けて購入できるようリンクを貼っておきます。
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プレイし終わったら、また読みに来ていただけるとありがたいです。
==ここから先はネタバレがあります==
==未プレイの方は読まないでください==
それでは始めましょう。
私が本作を評価する理由から語ります。
・評価点①:キャラクターを追体験させる圧倒的な完成度
良いゲームとはどんなゲームか?という問いに対する私の答えは、今のところ「どれだけ心を揺さぶられたか」という一言に集約されます。
その意味において、本作はほぼ満点だと私は感じています。
TLOU(=前作&本作)はそのストーリーの素晴らしさを以て傑作と称えられることが多いですが、実はストーリーラインは比較的単純で、それ自体はそこまで秀逸な訳ではないと私は考えています。多分、小説や映画で同じストーリーを描いても「面白い作品だったな」という佳作止まりではないかという印象です。
TLOUの優れた点をより厳密に表現するならば、「ゲームプレイを通じたキャラクターへの感情移入のさせ方、プレイヤーの感情の操り方が非常に上手い」ことではないでしょうか。
前作のラストで、ジョエルはエリーを救うためだけに、世界を救えるはずのワクチン製作を止めるべく、ファイアフライのドクターを殺します。客観的に見たら、「たかだか数か月預かった小娘のために何をそこまで?」と思われてもおかしくありません。
ですが、前作をプレイしてきた我々は違います。あの場面で医者を殺すことにためらいを覚えた人は果たしているのでしょうか? おそらくいないでしょう。それは、ジョエルとエリーの旅路を通じて、我々の想いが完全にジョエルそのものと化しているからです。
その境地に至ることができたのは、まさにTLOUがゲームというメディアだからなのではないか、と考えます。
海外産RPGにおいては、どちらかというとキャラクターの行動の選択権をプレイヤーに委ねることで、プレイヤーがキャラクターに自己投影しやすくする、というデザインの作品が多いように感じます。選択肢次第ではサブクエストでモブがバンバン死んだりしますよね。HEAVY RAINやDetroitではプレイアブルキャラクターですら普通に死にます。それくらいゲームにおける「選択」「決断」という要素を重視しているのだと思います。
反面、TLOUは完全に一本道のゲームです。これはどちらかと言うと感情移入をさせづらくするデザインです。ドクターは殺すしかありません。アビーは殺せません。それにもかかわらず、不思議とプレイヤーはその選択を自らがしたかのように感じさせられています。
そこがTLOUのすごいところなのですが、これは何故でしょうか。
一つには、演出面として、インタラクティブなゲームの特質を生かした、キャラクターの追体験のさせ方が極めて秀逸です。
例を挙げると、病院でノラを追い詰めた場面、□ボタンを押す指のあまりの重さ、心の重苦しさに私は震えました。直接的には描かれていないものの(あるいはだからこそ)、悲痛なエリーの表情、くぐもったSE、コントローラーの振動を通じて、プレイヤーをこれでもかと痛めつけてくるシーンです。
他にも例えば、絶対絶命のピンチに颯爽と現れる味方キャラは、自分がどんな立場であったとしても信頼してしまいたくなったりするものです。私はマニーに惚れかけました。レヴもヤーラも、命の恩人です。
こうしたゲームプレイを通じて、完全にエリーと同じ気持ちを抱き、そして好感度最底辺から出発したアビーにでさえ、少しは同情してしまっている自分がいました。サンタバーバラ編で無事にファイアフライ本部に辿り着いてほしいと感じてしまっている自分にはビビりました。
(私は本作の決着には満足していますが、それはアビーに同情したからという訳ではなく(影響はゼロではないでしょうが)、エリーはそうするだろうな、と納得してしまったからです)
また一つには、私はフィクションにおいても、単純接触効果というものがあるんじゃないかと思っています。映画やドラマと比しても、我々がゲームを通じてキャラクターに触れる時間は非常に長いです。ジョエルとエリーの絆は、数多の苦難を乗り越えて培われた関係でもありますが、我々が前作のエリーを愛おしいと思い返すのは案外道中のたわいもない会話であったりします。
こうした細かい会話や演出の積み重ねで、非常に丁寧に人物を描写する姿勢は今作でも健在です。私のお気に入りの一つは、エリーのバックパックに注目していると、ジョエルからもらったスペースシャトルのピンバッジ"だけは"ずっと付け続けていることですね。
まとめると、とにかくゲーム内におけるあらゆるカット、イベント、演出、音楽その他あらゆる要素が、プレイヤーを引き込むべくしてキャラクターの内面に引きずり込んでくる、そうした点が優れているのだろうと考えます。
・評価点②:重苦しい主題
とかく本作のゲーム体験は、辛い。ただただ辛いのです。
これまでプレイヤーをこんな感情に叩き落したゲームがあったでしょうか?
(オタク君は各種PCノベルゲーとかLisa the painfulとかを挙げてくると思いますが、いったん無視します)
私は基本的にエンタメコンテンツにおいて、ハッピーエンド至上主義者です。後味の悪いバッドエンドの映画は自発的には観に行きません。大衆とはそういうものです。
開発に100億単位を投じるようなコンシューマの超大作で売上を考えたら、ゲームも気持ちのいい終わりを迎えるものでなければいけません。先に挙げたような陰鬱なタイトルを好き好んでプレイする人は少数派でしょう。
これだけの規模のタイトルで、ここまでプレイヤーを苛烈に追い込んでくる(そして別ルートという救済措置が一切存在しない)ゲームが作られるのは相当珍しいということです。開発陣にとってこのシナリオを選んだことは相当勇気のいる決断だったのではないかと思います。
娯楽的な作品が席巻するゲーム市場ですが、悲劇でしか描けないものがあるということも、事実です。
本作のプレイ中は、幾度となく心を抉り取られるような思いをさせられましたが、人間とは不思議なもので、フィクションを通じてそういった感情を味わうことが決して不愉快ではないものです。精神的な自傷とでも言うべきか、胸を引き裂かれるような辛い体験が、振り返ってみると「良いゲームだったな」という感想に繋がっていました。
再度強調しておきますが、基本的に私は「後味の悪い作品」「観ると心が重くなる作品」がむしろ嫌いな方です。それでもやってよかったと思えるのは、本作における痛みや辛さといった要素が、ジョエルの犯した行為の行く末とエリーの人生を描くうえで必要不可欠なものであることが理由だと考えます。
更に本作が優れているのは、まったく身構えていないプレイヤーをそのような体験に突き落とすことができる点です。
仮に、本作が「胸糞悪さを味わうゲーム」という触れ込みであれば、私はプレイすることはなかったと思います。「あの名作の続編が出る」という動機があったからこそ、購入することができました。
あるいは、続きものの映画やドラマだったら、観るのをやめていたかもしれません。ゲームプレイの面白さと、エンディングを観たいという強い気持ちがあればこそ、この物語に立ち向かうことができたのだと考えています。
本作が、ゲームとしては重過ぎるテーマを扱い、圧倒的なクオリティで丁寧に描き切ったことは評価されるべきであると考えます。
(余談:そういえば最近で悲劇"的な"作品というと、FE風花雪月が頭をよぎりましたが、凄惨さやリアリティという面で比較にならない差があると感じてしまいました。他学級のキャラってほとんどNPCみたいなものだからでしょうか、あまり思い入れがないんですよね。育成や戦闘は流石の面白さなんですが、戦争描写はどうしてもペラくなるよなあというのが正直な感想です)
・評価点③:世界観とビジュアル
そのまんまですので、ここではボリュームを割きません。
サバイバル、スカベンジャー要素も探索の原始的なワクワクが詰まっており、前作から色褪せない面白さです。特にフィールド中で拾うメモの数々が、メインストーリーでは語られなかった多くの人々の生き様がにじみ出ていて、非常に素晴らしい世界観を構築していると思います。
ビジュアルは圧巻で、PS4のスペックに恥じないクオリティです。
個人的には、廃墟もとい自然に浸食された文明の遺物というモチーフが大好きなので、とても刺さりました。
・評価点④:自由度の増したバトル
これも書いた通りです。前作はステルスプレイを強要されている節があり、時にはストレスとなっていたのですが、程よく難易度が緩和され、緊張感を保ちつつも多様な戦術を取れるようになっているのは非常によい進化だと感じました。
エリーとアビーで対照的なプレイスタイルを取れる点も、ゲーム的には高評価をしています。
ここまでは手放しで褒めてきました。
では、本作にケチをつけていくとすると何か、という話に移ります。
・残念な点①:アビー編のボリューム過多
「アビー編そのものが致命的なんだよ」という声が聞こえてきそうですが、順を追って語らせてください。
ゲーム全体の構成からも明白ですが、恐らく本作の主人公はエリーではなく、エリーとアビー、2人いるのだと思います。前作が「ジョエルとエリーの物語」だったのに対し、本作は「エリーの物語」と「アビーの物語」です。
製作側がそう提示しているのは理屈としては分かるのですが、どうしたって感情的にはなかなか受け入れ難いものです。
ぽっと出のよく分からん奴、しかもジョエルを殺した宿敵が後半の主人公になるなんて、それはどう考えても反発が起きますよね……?
一応、アビー編の功績としては「ジョエルの独善的な行動を改めて認識させた」「被害者の目線からエリーの復讐劇を描くことで物語に深みが出た」等々の効果は少なからずあるでしょう。
ですが、何よりも「一人称のゲームプレイによる圧倒的な没入感」という本作最大の利点を曇らせていることは確かです。
視点がブレれば、その分それぞれのキャラクターは相対化され、プレイヤーと一体となる感覚は薄まります。この相対化という作用が、前作における局所的なエリー操作パートでは見事にハマっていました。かたや本作では、決定的に相いれない両者に対して、対等な主人公として同じだけのボリュームを割いている点は少し「やりすぎ」と感じなくもありません。
プレイを重ねる中で徐々にアビーに感情移入することはできましたが、劇場でのエリーとの対峙シーンは流石に「エリーを殺したくないのに殺そうとしている」状態にさせられていたと感じます。結果的にプレイヤーは、どうしてもエリーとアビーの間で戸惑うことになります。
そのどっちつかずの状態、「正義なんて、正解なんてないんだ」という気持ちにさせられることが、製作者の意図だったとしても、もう少しエリーに寄せた物語を観たかったという思いは残ります。
アビーの視点を導入すること自体は全く悪くないと思うのですが、一本筋の通った物語の方が、よりプレイヤーの共感を得られたのではないかなと思います。
・残念な点②:ジョエルの使い方がちょっとズルい
かなり噛み砕いて言ってしまうと、要は「陰鬱な復讐劇でプレイヤーが盛り上がることなんて何一つなく、結局ジョエルとの回想シーンが感動のクライマックスになってしまう。もうひと捻りあれば完璧だったな」ということです。
ズルいとはどういうことでしょうか。
本作における感動のクライマックスは、作中の時間軸では本編開始より前にもう終わってしまっています。横軸に作中の時間軸、縦軸に「プレイヤーの気持ちよさ/盛り上がり」のようなグラフを想像してもらえるとわかりやすいと思います。
「博物館の回想」ではハッピーな誕生日プレゼントの演出から始まり、ファイアフライの壊滅を示唆して怪しげな雰囲気が影を落とし、「楽器店」「病院」を通じてエリーとジョエルの溝は深まっていきます。最後に一転「パーティーの夜」で和解に向けて一歩寄り添う、という形でここが作中のクライマックスになっています。プレイヤーの気持ちを高→低→高と持っていく王道のストーリーですね。
ですがここから先の本編では、ただ転げ落ちていくのみです。エリーが心に背負った重荷(=ジョエルの存在や、自分が生きてしまったという罪悪感)を下ろすまでの話なので、当然といえば当然なのですが……。
回想シーンを効果的に挿入することで、一応ゲームプレイ上の時間軸ではいい感じにクライマックスを迎えているのですが、よくよく振り返ってみると、「それって出発する前日のことじゃん」という思いがないわけではありません。
(その決定的シーンが前日だからこそ、ジョエルを許しきれないまま失ってしまったエリーの悔恨、悲痛さが目立つという面もあるわけですが)
結局、本作が悲劇を描く以上、本質的にはプレイしていて気持ちのよくない作品です。
先ほどは散々「ゲームというエンタメ市場にこれだけの悲劇を放り込んできた意欲的な作品だ」と褒めました。そうは言っても、前作という比較対象があるだけに、胸につかえるものがありながらも、爽やかな希望を抱けるような、そんな展開が観たかったなと思ってしまいます。人間とは贅沢なものですね。
やっぱりゲームが基本的にハッピーエンドなのは、ゲームクリアの達成感と物語上のクライマックスがガチっと噛み合うことが最高に気持ちいいからなのです。(UndertaleのPルートラスボス戦とか最高に燃えますよね?)
その意味において、エリーの復讐劇が結局徒労に終わり、内省的な終結を迎えてしまったことで、ゲームプレイとストーリーが噛み合っている気持ちよさとしては、前作にいま一つ及ばないのかなという感想です。
(間違っても、「アビーを殺しておけばスッキリエンドなのに」と言いたい訳ではありません、念のため)
・総括
書き始めたところ、案外欠点もとい本作に対するモヤモヤを長々と書いてしまいましたが、それでも総合的に振り返れば、圧倒的に「やってよかった」と思えるゲームでした。
ゲーム単体での完成度という点では、前作という偉大なハードルを越えたかと言われると怪しいですが、前作にも比肩する素晴らしいゲーム体験を提供してくれることは間違いありません。
「前作に感動した人ほど本作には手を出すべきでない」という意見について、やはりまだ私には分からないところがあるのですが、この物語の続きを受け入れることができないというのは、前作の解釈や見方がどこか歪んでいるか、あるいは視野が狭いのではないかと訝しんでしまいます。違っていたらごめんなさい。
ジョエルはヒーローではありません。やっていることだけ見ればただのテロリストです。それでも我々がジョエルに思いを寄せるのは、それがエリーを守るという極めてピュアな愛情から出た行動であることを分かってしまうからです。
そして冷酷な殺人鬼のようでいて、最後には情に流されてしまう人間でもあります。世界にとっての正義と愛する人を天秤にかけて、どうしてもエゴを捨てきれないという人間臭さにこそ、我々はジョエルに共感してしまうのです。
当然物事には善悪の両面が存在します。エリーを救った愛が他の誰かを傷つけてしまうという、極めて古典的かつ普遍的なテーマを、本作では決して陳腐化させることなく、抉り出すように描き切っています。故に、前作に感動を抱いたのであれば、その決断がもたらした帰結についても見届けるべき義務があると思うのです。重く暗い旅路の果てに、確実にプレイヤーの心に刻み付けられる何かが生まれてくるはずです。
一度は本作を見限った人たちにとって、この記事が少しでも再び向き合うきっかけになれば幸いです。
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