![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/76074798/rectangle_large_type_2_b8802498e85f3e8621a6f8bf8d5cd003.png?width=1200)
【人事に効く論文】質的研究の初心者向け分析手法はコレ! → 4ステップコーディングによる質的データ分析手法 SCATの提案
大谷尚. (2007). 4ステップコーディングによる質的データ分析手法 SCAT の提案-着手しやすく小規模データにも適用可能な理論化の手続き. 名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 教育科学, 54(2), 27–44.
1. 30秒で分かる論文の概要
質的データ分析の手法であるSCAT(Steps for Coding and Theorization)について、その分析手順と分析例、実施にあたっての注意点、手法そのものの意義を紹介した論文です。
SCATは他の質的データ分析方法よりも初心者向きと言われており、以下のような”フォーム”を埋めていくことで分析を進めることができる分かりやすさがあります。
→ フォームの最新版は名古屋大学のWebサイトからダウンロードできるようなので、興味のある方は参照してみてください。
2. 分析手順
何らかの研究に必要なインタビューが適切に行われ、その結果が言語データ化されている前提で、以下の手順に沿って分析を行っていきます。
①言語データをテクスト欄にインプット
上記フォームのテクスト欄を用い、一つのセルに一つの発話のデータをインプット。一つの発話に複数の内容が含まれる場合、内容をセグメント化の上、セグメントごとにセルにインプットします。
②4ステップでコーディング
<1>テクスト中の注目すべき語句:テクストから研究トピックに関わる語や、気になる語、疑問に思う語、理解が難しい語をインプット。何でもインプットすることにならないよう、どういった内容に注目するのか、事前に整理が必要です。
<2>テクストの中の語句の言いかえ:<1>でインプットしたことを一般化して言いかえるような、テクストには無い語句をインプット。
<3>左を説明するようなテクスト外の概念:<2>を説明することのできる概念を表す語句や文字列をインプット。そのため、テクストや<1><2>の背景・条件・原因・結果・影響・比較・特性・次元・変化等を考え抜く必要があります。
<4>テーマ・構成概念:<3>の内容からテーマをとらえ、概念化した語句をインプット。
<5>疑問・課題:データの他の部分や他のインタビューとの比較による検討または追加インタビューの必要性、文献調査が必要な点等をインプット。
③ストーリー・ラインの作成
②のコーディング結果に基づいて、小さなストーリー・ライン(データに記述されている出来事に潜在する意味や意義を、主に<4>に記述したテーマを紡ぎ合わせて表現した内容)をインプット。そして、小さなストーリー・ラインを、別の小さなストーリー・ラインと比較したり接続したりしながら、大きなストーリー・ラインへと紡ぎ合わせます。なお、ストーリー・ラインの内容は、出来事に対して記述的なものになります。
④理論の記述
ストーリー・ラインから重要な部分を抜き出すことで、命題や定義のような端的な表現で理論を記述します。理論は、予測的あるいは処方的なものとして記述されることもあります。
⑤さらに追及すべき点・課題の記述
あれば、インプットします。
なお、上記①から④の手順が交互に前後しながら進むことになります (量的研究のように、一方向に進むものではありません)。
3. 実施にあたっての注意点
● コーディングを行う前に、データ全体を何度か読んでおきましょう
● データ全体の見通しを得ながら、各部分のコーディングを行いましょう
● テクストに下線を引くなどの加工をしてはいけません (多様な観点からテクストを読み直すことが困難になるため)
●<1>から<4>へと順に行いましょう。いきなり<3>や<4>が思い浮かんだとしても、あとから<1><2>を記述してください。ただし、4ステップコーディングの主目的は<4>の作成にあるので、<1>から<5>のどれかが欠けてしまっても大丈夫です
●<4>は、その行のテクストや<1>から<3>のコードだけでなく、前後のコードや全体の文脈を考慮の上、インプットしましょう
●<5>をインプットしたら、テクストに戻って、疑問や課題の答えを探しましょう。答えが見つからなければ、他のデータや文献を当たりましょう。それでも無理なら新たにデータを採取しましょう
● コーディングは横・縦どちらに進めてもよいです。インプットできるところから適宜進めていきましょう
● はじめは一人ではなく、協働で作業しましょう
● 異なる分析者の分析結果は全く異なり得ます
● データ採取の完了を待つのではなく、最初のインタビュー結果をデータ化した時点からすぐにでも分析を始めましょう
● そもそも質的データの分析には、対象となる事象への研究的な理解が必要です。十分な文献の研究と引用がなければ、妥当性のある解釈を行って有意味な理論を導き出すことはできません
● 質的研究は、言葉を縦横無尽に操ることができなければ行えません
4. 手法としての意義
①分析手続きの明示化:分析者の頭の中で暗示的になされているプロセスを、明示的なプロセスとして表すことができます。
②分析の初段階への円滑な誘導:作業手続きに従って分析を進めることで、理論化へと円滑に誘導する機能を有しています。
③分析過程の省察可能性と反証可能性の増大:分析と理論化の過程を分析者が振り返り、再検討することが容易になります。また、データと分析過程を明示することで、読者による反証可能性が高まります。
④理論的コーディングと質的データ分析の統合:マトリクスがコード化を促進し、コード化がマトリクスの形成を促進するという相互作用によって、より深い分析を可能とします。
5. 読後の余談
自社の組織風土について、社員にインタビューすることってないでしょうか。ああいったインタビューの結果、どうやって料理しています? SCATを使って真面目に分析すると、単なる感想文みたいな資料作成から脱却できるかもしれませんよ。
2022年4月9日 初稿作成