【人事に効く論文】ジョブディスクリプションが従業員の職務満足度を下げる、ですって? それってどういうこと?
1. 45秒で分かる論文の概要
”The impact of job description and career prospect on job satisfaction”というタイトルが示す通り、ジョブディスクリプションとキャリア展望(career prospect)が従業員の職務満足度にどのような影響を及ぼすのか、定量的に研究した論文です。有名な論文では全くないのですが、面白そうなので読んでみました。モーリシャスにある多国籍企業の従業員132名からのアンケート回答結果を元に、以下の仮説が検証されました。
仮説①:ジョブディスクリプションは従業員の職務満足度にマイナスの影響を与える (モーリシャスの雇用環境において)
→ 支持された
仮説②:キャリア展望は従業員の職務満足度にマイナスの影響を与える (モーリシャスの雇用環境において)
→ 支持された
上記は、論文に記載のあった仮説のほぼ直訳です。ただし、これでは、「え、ジョブディスクリプションって、従業員の職務満足度を下げてしまうの!? ジョブ型雇用、ダメじゃん」「やっぱり、メンバーシップ型雇用のほうがいいんじゃね?」との誤解を招きそうなので、以下の「2.私的な解説/感想」で少し追加説明します。
2. 私的な解説/感想
この論文においてジョブディスクリプションは「従業員が行うべき職務のリスト、引き受けるべき責任(Dessler, 2013, p.105)、そして従業員への組織の期待(Marsden, Caffrey, & McCaffery, 2013)を明示するもの」とされています。しかし、ジョブディスクリプションですべての職務を詳述することは困難であり、多くのジョブディスクリプションには「その他の関連する職務」といった記述が職務内容として付記されています。そのため、従業員は時としてジョブディスクリプションに明確な記載のない職務にも取り組まなければなりません。この状況を「これって私の仕事なの?」と好ましく思わない従業員が多く、これが”ジョブディスクリプションは従業員の職務満足度にマイナスの影響を与える”の意味するところです。
また、”キャリア展望は従業員の職務満足度にマイナスの影響を与える”については、「将来昇進したいのにどうやらその機会が無さそうだという展望が、従業員の職務満足を下げる」という意味でこの論文では説明されていました。
3. 読後の余談
日本のようなメンバーシップ型雇用の社会において、多くのビジネスパーソンは、自分が担うポジションのジョブディスクリプションが無い状態で職務に従事しています。「これって私の仕事なの?」と感じる状況は、ジョブ型雇用の国々よりも遥かに多く発生しているのではないでしょうか。従来は職能資格制度による「昇格」によって報いてきましたが、そうすることも難しい日本企業が増えています。上記の仮説➀②が正しいとしたら、日本企業はどのような人材マネジメントを展開すべきなのでしょうか。そんなことを考えさせられる論文でした。
2024年3月3日 初稿作成
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