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【人事に効く論文】リーダーシップ研修なんて、本当に意味があるの? → あります、だけど…

Lacerenza, C. N., Reyes, D. L., Marlow, S. L., Joseph, D. L., & Salas, E. (2017). Leadership training design, delivery, and implementation: A meta-analysis. The Journal of Applied Psychology, 102(12), 1686–1718.

1. 10分で分かる論文の概要

「リーダーシップ研修はどの程度効果があるのか」「リーダーシップ研修をどのように設計・実施すれば、その効果を最大化できるか」を明らかにすることを目的にした論文です。リーダーシップ研修に関する20,742の先行研究論文から335本を抽出し、カークパトリックモデルの「反応」「学習」「転移」「結果」を評価基準とするメタ分析によって以下の仮説が検証されました。

仮説1a:リーダーシップ研修は、受講者の「反応」にポジティブな効果をもたらす
仮説1b:リーダーシップ研修は、受講者の情緒的・認知的・技能的な「学習」にポジティブな効果をもたらす
仮説1c:リーダーシップ研修は、情緒的・認知的・技能的な訓練結果を受講者の行動に「転移」させる
仮説1d:リーダーシップ研修は、受講者が属する組織と部下の「結果(アウトカム)」にポジティブな影響を与える
→ すべて支持された。転移に最も強い効果が見られ、次いで学習→結果→反応の順だった。但し、互いに有意な差はなく、リーダーシップ研修は基準間で等しく効果があることを示している

仮説2:ニーズ分析に基づくリーダーシップ研修は、ニーズ分析に基づかない研修よりも、 受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 学習(b)と転移(c)において支持された

仮説3:自主参加型(手上げ式)リーダーシップ研修は、強制参加型(指名必須式)研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 転移(c)において支持された。一方、結果(d)では、仮説とは逆に強制参加型が自主参加型よりも優位に強い効果を示した

仮説4:数回のセッションにまたがるリーダーシップ研修は、大量の内容を1回で行う研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 転移(c)と結果(d)において支持された

仮説5:下位レベルのリーダーに実施するリーダーシップ研修は、中位または上位レベルのリーダーに実施する研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 転移(c)において支持された

仮説6:受講者による自己管理型のリーダーシップ研修は、内部または外部の講師によって進行される研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に小さな効果を示す
→ 内部講師による研修は、自己管理型よりも学習(b)で有意に強い効果を示した。しかし、外部講師と内部講師、自己管理型と外部講師による研修の間では、学習(b)における有意な差はなかった。また、外部講師による研修は、自己管理型よりも転移(c)で有意に強い効果を示した。が、外部講師と内部講師、自己管理型と内部講師による研修の間では、転移(c)における有意な差はなかった。結果(d)については、すべての研修の間で有意な差はなかった

仮説7:実践ベースの手法のみを取り入れるリーダーシップ研修は、情報ベースや デモンストレーションベースの手法のみを取り入れる研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 情報ベースのみの研修は、実践ベースのみよりも、学習(b)で有意に強い効果を示した。一方、結果(d)では逆となった。転移(c)については有意差は見られなかった

仮説8:情報ベース、デモンストレーションベース、実践ベースの手法をすべて取り入れるリーダーシップ研修は、1つの手法(例:情報のみ)または2つの手法(例:デモンストレーションと情報)のみを取り入れる研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ すべての手法に基づく研修は、情報のみや実践のみの研修よりも、学習(b)で有意に強い効果を示した。同様に、すべての手法に基づく研修は、情報と実践の2つに基づく研修よりも、学習(b)で有意に強い効果を示した。しかし、すべての手法に基づく研修を、情報とデモンストレーションの2つに基づく研修と比較した場合、学習(b)での有意差は見られなかった。転移(c)に関しては、すべての手法に基づく研修は、実践や情報のみの研修よりも、有意に強い効果を示した。また、情報と実践の2つに基づく研修、デモンストレーションと実践に基づく研修との比較においても同様の結果だった。結果(d)では、すべての手法に基づく研修は、情報のみの研修よりも有意に強い効果を示した。しかし、情報と実践の2つに基づく研修と有意差はなく、実践のみの研修とも同様だった

仮説9:フィードバックを含むリーダーシップ研修は、フィードバックがない研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ フィードバックを含む研修は、フィードバックがない研修よりも、転移(c)で有意に強い効果を示した

仮説10:360度フィードバックは、単一情報源のフィードバックよりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 支持されなかった(有意な差がなかった)

仮説11:社内で開催されるリーダシップ研修は、社外で開催される研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 社内開催の研修は、社外開催の研修に比べ、結果(d)で有意に強い効果を示した

仮説12:対面式のリーダーシップ研修は、バーチャルの研修よりも、受講者の反応(a)、学習(b)、転移(c)、結果(d)に大きな効果を示す
→ 対面式研修の方が、バーチャル研修よりも転移(c)で有意に強い効果を示した

2. 私的な解説/感想

上記の仮説検証結果を一見するだけでは、企業におけるリーダーシップ研修にどのような示唆があるのか分かりにくいかもしれません。私なりにまとめると、以下のような感じです。

仮説1 → リーダーシップ研修は効果がある!

仮説2 → どうせリーダーシップ研修を実施するなら、自社のニーズを分析し、ニーズに即した研修を企画したほうがよい

仮説3 → 受講者の行動変容を重視する場合、自主参加型(手上げ式)。組織パフォーマンス向上を目指す場合、強制参加型(指名必須式)

仮説4 → 受講者の行動変容と組織パフォーマンス向上を目指すなら、数回のセッションに分けて研修を開催する。とりあえずは知識を詰め込みたいなら、1回の開催でもOK

仮説5 → リーダーシップ研修は、管理職初心者の行動変容において効果が大きい。但し、学習という意味では、上級管理職にとっても同様に意味はある

仮説6 → 受講者の社内知識学習を重視するなら社内講師、行動変容を促したいなら外部講師がベター

仮説7・8 → 情報提供・デモンストレーション・実践をうまく組み合わせて研修を構成すべき

仮説9・10 → できれば研修とフィードバックを組み合わせる。ただし、フィードバックが360度である必要はない

仮説11 → 汎用的な内容の研修よりも、自社の環境に即した研修の方が効果がある (仮説2とほぼ同じ) → 「汎用的な内容を安く」は避けるべき

仮説12 → 行動変容を促したいなら、Eラーニングよりも対面式の方がよい (学習では差がない)

3. 読後の余談

仮説が多すぎて、読むのもまとめるのも時間がかかりました。この記事もここまでシッカリ読んでいる人は2~3人しかいないと思います。ただ、とても素晴らしい論文なので、リーダーシップ開発に関わる方はオリジナルを精読することを強くオススメします。

2024年11月17日 初稿作成

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