【人事に効く論文】新人を職場に定着させる「埋め込み」とは?
1. 3分で分かる論文の概要
組織における新人(新卒とは限りません)への社会化施策(Socialization Tactics)と「埋め込み(Embeddedness)」、そして離職との関係について研究した論文です。米国の大手金融サービス企業の従業員222名(勤続1年未満)へのアンケートの結果およびアンケート実施1年後の離職データ(55名が自発的に離職)を元に、以下の仮説が検証されました。
→ 結論だけ知りたい人は「2.私的な解説/感想」に飛んでください。
仮説① 集団的(collective)・公式的(formal)・段階的(sequential)・定型的(fixed)・垂直的(serial)・任用的(investing)な社会化施策は、新人の離職と負の相関がある
→ 部分的に支持された。垂直的・任用的な社会化施策が離職と負の相関があった
仮説② 埋め込みは、新人への社会化施策と離職の関係を部分的に媒介する
→ 部分的に支持された
仮説③a 集団的・公式的・段階的・定型的・垂直的・任用的な社会化施策は、新人の埋め込みと正の相関がある。
→ 部分的に支持された。集団的・定型的・任用的な社会化施策が仕事上での埋め込みと正の相関があった
仮説③b 社会化施策は、仕事外での埋め込みよりも、仕事上での埋め込みに強く相関している
→ 支持された。社会化施策は仕事上での埋め込みと有意な正の相関を示したが、仕事外での埋め込みとは有意な相関を示さなかった
仮説④a 埋め込みは離職と負の相関がある
→ 部分的に支持された。仕事上での埋め込みは離職と有意な負の相関を示したが、仕事外での埋め込みは有意な相関を示さなかった(下記の④bと同様)
仮説④b 仕事上での埋め込みは、仕事外での埋め込みよりも、離職との強い負の相関がある
→ 支持された。仕事上での埋め込みは離職と有意な負の相関を示したが、仕事外での埋め込みは有意な相関を示さなかった
2. 私的な解説/感想
人材マネジメントに活かせそうなポイントをシンプルにザックリと分かりやすく箇条書きにすると以下の通りです。(但し、いずれも断言はできませんのでご注意ください)
垂直的・任用的な社会化施策が、新人の離職防止につながる
集団的・定型的・任用的な社会化施策が、仕事上での埋め込みに効果がある。そして仕事上での埋め込みは、新人の離職防止につながる
仕事外での埋め込みは、新人の離職防止にはつながらない
日本語では聞きなれない用語が出てきましたので、この論文を参考に少し整理してみましょう。
埋め込み(Embeddedness):仕事や組織と個人とを結びつける様々な種類のチカラの網の目に、個人を取り込むこと。
社会化施策(Socialization Tactics):組織が新人の適応を助けるために用いる方法。新組織へのリアリティ・ショックに伴う不確実性や不安感を軽減させ、新人が望ましい態度・行動・知識を習得できるようにする。Schein(1979)によると、以下の6つのタイプに分類できる。
(1)集団的-個人的 (collective-individual)
(2)公式的-非公式的 (formal-informal)
(3)段階的-成り行き的 (sequential-random)
(4)定型的-可変的 (fixed-variable)
(5)垂直的-分割的 (serial-disjunctive)
(6)任用的-剥奪的 (investiture-divestiture)
6つのタイプはいずれも左側の特徴を有する社会化施策が新人にとって良いとされています。それらの中でも特に分かりづらい「垂直的」とは以下のような社会化施策を指します。
垂直的社会化施策:経験豊富な組織メンバーを新人のロールモデルやメンターとして設定する方法。新人が新しい職場環境を理解する手助けとなり、必要に応じて支援を求められるようになる。また、新人による有能感獲得とタスク習熟を助ける。
なお、「任用的」も分かりづらいですが、そちらは以下の記事の最後の方で紹介しているので、参照してみてください。
3. 読後の余談
6つの社会化施策について、日本の大手企業の新卒入社導入研修および配属後のOJTでは、(6)以外の集団的・公式的・段階的・定型的・垂直的施策がしっかりと行われている傾向にあります。以下のリンク先にある通り、新卒入社の離職は3年3割で推移していますが、この数字は海外に比べれば低めの離職率です。ある意味、新卒入社社員に対する「埋め込み」がしっかりと機能していると言えるかもしれません。
一方、キャリア入社はどうでしょう?キャリア入社者に対する社会化施策をしっかりと行っている、と胸を張れる日本企業は少ないのではないでしょうか。キャリア入社者のお手並みをまずは拝見、というスタンスでは早期離職を招きかねませんよ。
2024年1月27日 初稿作成