つれづれなるままに #2

気付いたら寝ていた。

もう14:20。

カレンダーをチラッと見ると、「15:00 さえことお昼」と書いてある。

忘れてた。

急いで跳ね起きる。

ベッドの横に散らばっている服をいくつか掴み、手早く着替える。

顔は水洗い、化粧はアイラインとリップだけ。

髪に軽くスプレーを振り、カバンを抱えて家を飛び出す。

駅まで全力疾走。

途中にある駄菓子屋さんのおばちゃんには愛想笑いで会釈する。

ああ、踏切が鳴り出した。

ホームに入ってくる電車と並走しながら改札を通り抜け、閉まる寸前のドアをすり抜けて、セーフ。

間に合った。

静かな車両の中で一人肩を上下させている私は、少し気まずいながらも空いている席を見つけて座った。

息が整ってからスマホを開くと、さえこからLINEが来ていた。

「えみー、東口の改札いるね❤️」

はーい。

心の中で返事をしながら、窓の外を眺める。

女子って何でハートを多用したがるのだろう。

この窓から見える景色、いや、世界中を見ても、自然のままの姿がハートの形をしているものなんて、どこにもないのに。

第一、心臓だってそんな形してない。

そんなことをフツフツ考えている間に、駅に着いていた。

改札を出ると「えみ、またそんな格好してー」とさえこの一言。

私が適当なのではない。

さえこがお洒落すぎるのだ。

と心の中で反抗しながら「お待たせー」と返す。

さえことは高校からの付き合いで、周りから何で仲が良いのか分からないとよく言われる。

それはそれで失礼だなとも思うのだが、あながち間違いではないのが悲しい。

さえこはいつも化粧ばっちり、服装ばっちり、性格ばっちり、と何でも揃っている完璧な美人。

いくつものSNSを巧みに使いこなし、読者モデルも務めている。

カフェで接客のバイトをしていて、もちろん、彼氏もいる。

そんな疲れることばかりして、さえこは何を目指してるのか私にとっては疑問でしかないし、本人にそれをぶつけることもしばしば。

そんな失礼な質問をしてもさえこは怒らず答えてくれる。

「うーん、まあ楽しいし、周りから評価されることが私の気持ちを高めてくれるというか、簡単に言えば認められたいんだろうね、私は」

何十回とこの質問を繰り返し、さえこはその度に真剣に答えてくれるが、やはり理解できない

他己評価というものはそんなに大事なのか。

分からない。

それでもさえこは私のパーソナルスペースの一番近い位置にいると思う。

世間に対して思うところをずばずば述べても受け止めてくれて、彼女の考えを交えて違う視点から新鮮な意見を生み出してくれる。

彼女はカウンセラーに向いているのでは、とよく思う。

#3へつづく

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