トム・ヤムクン

文系男子。歴史と物語と手帳についてお話しします。

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最近の記事

「素直」という言葉について ~「シューカティズム」シリーズ序論~

僕が嫌いな言葉はいくつかある。「確定申告」とか「バスの遅延」とか、挙げだすとキリがないが、その筆頭格のひとつが「素直」だ。 タイトルに掲げた「シューカティズム」というのは僕の造語であるが、これに関する説明はのちのち別でお話しする。ここではその序論として、この「素直」という言葉がいかに罪深いものか、ということに触れたい。 「素直」の意味 多くの資料の述べるところをまとめると、「素直」という言葉の意味は以下のとおりである。 ①素朴(飾り気がなく、ありの~ままで~あること)

    • 「完結した世界」への憧れ

      なぜオタク文化に「異世界もの」があふれているのかというのがものすごく不思議でした。 一方の僕にはこういう趣味はないものの、RPGを多少はやったことはありますし、日常的にはしないですがモノポリーとかボードゲームの類はちょっと好きだったりします。なぜこの話を持ち出したのかというと、これらは一見、別のもののようでいて、実は共通点があるからです。 それは、「異世界もの」も「ボードゲーム」もそこだけで完結できる世界であり、そこで人は完全に現実の自分の(辛さに満ちた)人生から断絶され

      • 「主人公=筆者」を疑う

        国語教育における謎問題 昔、中学校や高校の国語の、短歌や俳句にまつわる問題でこんなものがあった。 (1) 問.「この句の傍線部で、『氷水』を『うまし』と感じているのは誰か」 正解.「筆者」 これを僕を含め多くの学生が、別になんの違和感もなく受け入れていたわけだが、この正解はよく考えるとおかしくないだろうか? 以下の例をみてほしい。 (2) 問.「この小説の傍線部で、『激怒した』ため王を暗殺しようとして捕えられたのは誰か」 正解.「太宰治」 こんな問題が実際に

        • 「笑顔」礼賛時代の恐怖

          「笑顔」という言葉への違和感 ここ数年、「笑顔」という言葉がもてはやされているように感じる。一般的に、あるいは一般的なあらゆる場面を扱ったメディアに、この言葉は散見されるのだが、労働の現場における使用が「お客様の笑顔」という形でことさら多いのも気になるところだ。 もちろん「笑顔」という言葉はそれこそ遠い昔からあったわけだが、現代では単なる「表情のひとつ」という意味を超え、「心から満足を感じている状態」「幸福を得ている状態」の意味で使われ、まるで「すなわち人生における理想の状

        「素直」という言葉について ~「シューカティズム」シリーズ序論~

          【ネタバレあり】SWEP9を観た当日の雑感(後編)

          『スター・ウォーズ エピソード9 スカイウォーカーの夜明け』を見た当初の雑感を書いている。 タトゥイーン登場の意味 ラストシーンでレイが、ルークとレイアのライトセイバーを葬る場所が、砂に埋もれたルークの実家(ルークの義理のおじ・おばであるオーウェンとベルーの家)だ。タトゥイーンはアナキンとルークの故郷であり、まさしく9部作を締めくくるにふさわしい場所と一応は言えそうだ。しかし、このシーンに僕はひっかかるものを覚えた。 この場面において僕が気にしているのは次の2点である。

          【ネタバレあり】SWEP9を観た当日の雑感(後編)

          【ネタバレあり】SWEP9を観た当日の雑感(中編)

          さて、前回に引き続き、SWEP9を鑑賞した際の雑感を綴っていく。 前編で、「旧シリーズへのオマージュ的要素のうち、気になったもの」を挙げたが、 ・Xウィングを海からフォースで引き揚げるルーク を忘れていた。言うまでもなくこれは、エピソード5でルークがヨーダから課せられた課題のひとつ。「No. Try not. Do or do not. There is no try.(やってみる、のではなく、やるのだ)」という名言が生まれたシーンだった。 血統主義からの脱却と先人の継

          【ネタバレあり】SWEP9を観た当日の雑感(中編)

          【ネタバレあり】SWEP9を観た当日の雑感(前編)

          『スター・ウォーズエピソード9 スカイウォーカーの夜明け』を遅ればせながら鑑賞したので、ひとまずの感想を綴りたい。 面白いが、期待ハズレ 面白いが、期待はずれだった。まあ、つまらなくはない。タガー、ウェイファインダーなどのマクガフィンを追いかけながら、最終的には皇帝に迫る、というわかりやすい構成でもあった。 まず印象に残ったのがパルパティーンの意外な登場のしかたである。僕は、てっきり中盤辺りで「実はパルパティーンは生きていた。衝撃ですよね~みなさん」のような扱いで彼が登場

          【ネタバレあり】SWEP9を観た当日の雑感(前編)

          某職場教養系雑誌にありそうな話を捏造してみた

          黒という色には、みなさんどのようなイメージを持つでしょうか? 一般には「闇」や「悪魔」など悪いものを思い浮かべる人が多いでしょうが、実は黒は古来、高貴な色としても扱われてきました。 高級ブランドの革製のバッグにも、黒色のものは多いですよね。 新卒で今の会社に入社したA子さんは、上司であるF課長から、たびたび服装や見た目に関して注意をもらってきました。 「髪はもうすこし短いほうがいいよ」 「女子社員はやはりハイヒールじゃなきゃね」 しぶしぶA子さんはそれに従おうと、休日

          某職場教養系雑誌にありそうな話を捏造してみた

          「縦の民主主義」という幻想

          縦の民主主義とはなにか 「縦の民主主義」なる概念がここ数年、一部でもてはやされているようだ。    東京裁判史観を突破した「縦の民主主義」の歴史力 これは何かといえば、「現在生きている人間の民意だけでなく、これまでに亡くなった先祖や、これから生まれる将来の世代の意向もふまえて政治の方針を決定していこう」というものである。 一見、これは従来の民主主義の欠点を乗り越え、よりよい方向へ世の中を導いてくれる卓見のように聞こえるかもしれない。少なくとも高尚な印象を抱く人はいるだろ

          「縦の民主主義」という幻想

          名前と支配

          名前というのは他者を支配するうえで重要なツールである。他者の名を知ること、あるいは、そもそもその名前をつけることはそのものを支配することを意味する。 かつては女性に名を尋ねることは求婚を意味したし、土地に名をつけることは大王・天皇だけの特権だった。 現代の日常生活のレベルでさえこのメカニズムは生きており、強者が弱者を支配する手法として作用している(カイジみたいな言い方になってしまった)。 支配したい他者の名前ではなく、敬意を向けさせたいものの名前に仕掛けが施されている場

          なぜ側室制度の復活を提唱しないのか

          「日本の国益と尊厳を護る会」なる団体が自民党へ、旧宮家復活を趣旨とする提言をおこなったが、この提言も含め、皇位継承問題の解決策ははだいたい、 ・旧宮家の復活 ・女系天皇容認 の2案に集約されると言ってよい。非常に乱暴に述べるならば、右派は前者を唱え、左派は後者を唱える。 どちらの案を採用するにせよ、懸念材料となるのは、それらの案が 1.本当に皇位の安定継承に寄与するのか(効果があるのか) 2.国民の支持を得られるのか の2点だろう。 2.に関して言えば、旧宮家復活案は国民

          なぜ側室制度の復活を提唱しないのか

          あおり運転擁護派の言う「円滑」の正体

          あおり運転がブーム(笑)だが、実はこれを擁護する人々が一定一いるようだ。 彼らの論法はこうである。 「円滑な交通っつうのも大事なワケっしょ。制限速度守ってトロトロ走ってる奴らは、それを妨げてるっつうわけ。そういうのは周囲をイラつかせるからあおられても仕方なくね?」 そう、あおり運転を擁護する人々がおしなべてその理由にしているのがこの「円滑な交通」だ。 しかし彼らが本当に求めているのは「安全と両立する範囲内での円滑な交通」などではない。「自分が気分よく走れるという、自分

          あおり運転擁護派の言う「円滑」の正体

          期待値を上げすぎたルーカスフィルムとさらなるサプライズ

          「宗教はジェダイです」と迷わず公言する私にとって、いま、まさに書いておかなくてはいけないのが、公開を2日後に控えた“STAR WARS Episode 8”のことである。 7を観て、8も観る人にとっての最大の関心ごとが、「レイは何者なのか」ということであろう。 しかしこの件において、ルーカスフィルムはとにかく、ファンの期待値を上げすぎていると思う。冷静に考えれば、レイのお団子の件とか、機械いじりが得意な件とか、フォースが強い件とかって、もうどう考えてもレイアもしくはルーク

          期待値を上げすぎたルーカスフィルムとさらなるサプライズ

          ファンのくせに全曲聴いてないとかw

          あるアーティスとを「好きだ」と人前で標榜するには、けっこうな勇気をともなう。 以下のようなやりとりが容易に想定できるからだ。    Aさん  「自分も好き。※※※(曲名)とかとくに」    僕    「それは知らないなぁ。○△✕(曲名)は好きだけど」    Aさん  「(はい、こいつ、にわか確定)えー、じゃあ%%%は?」    僕      「タイトルはみたことあるような……」    Aさん    「けっ、おととい来やがれ」 この、「好きなア

          ファンのくせに全曲聴いてないとかw

          ライフハック侍、足掻いて候

          「心がこもっている」ということは、日常生活でも職場でもとにかく礼賛されています。マスプロダクトの製品よりも手作りがよいと人はいい、職場ではとかく「作業思考」はよくない、といわれます。効率が大事な職場ですら、ちょっと効率的なことをしようとするとこのように批判される昨今です。 「ライフハック」というのは究極的には、考えることや無駄なことを減らし、その分を本当に重要なものに振り向けようとする行為です。それは、心や手作りが大事、というこの風潮とは真っ向から対立します。 「手帳」ひ

          ライフハック侍、足掻いて候

          喫茶店をめぐる冒険

          以前、ゴールデンウィークに下田を訪れたとき、ある喫茶店に入った。そこは普通の喫茶店ではなくちょっと異様な空間で、江戸時代の帳簿のようなものとか、船で使っていたような羅針盤とか、そいういう「港町ロマン」をくすぐるような雑多なものが所狭しと並んでいた。店内も遮蔽物が多く、奥まった席に座るとおしゃれな個室居酒屋のような絶妙な密室感が心地よい。 この感覚をどこかで味わったことがある――と思いを巡らせて、それが「ヴィレッジヴァンガード」であることに気づいた。雑多で、どこか怪しげな物に

          喫茶店をめぐる冒険