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イエス様への手紙


実家の掃除をしていた。

母は片付けが苦手なので、部屋がすごいことになっている。

私が掃除をはじめると、必ず「勝手に捨てないでね。私が死んだら捨てていいから」と言う。

以前、勝手に掃除して捨てたことを根に持っているのだろう。

床が見えないくらいモノが積み上げられて足の踏み場もない。空間が死んでいる。それが私には耐えられない。

床ぐらいは見えるようにしよう。

掘り出し物を探すように、これは本、これは服、これは文房具……と、一つ一つ選り分けていく。

すると、一冊の皮の手帳が出てきた。

当時、皮の手帳を持つのが素敵な女性への道のりという風潮が来ていたらしい。
なんなら最近もシステム手帳が女性に流行っている気がする。


今から20年以上前の手帳を開くと、母の予定や気持ちが書かれていた。ペラペラとページをめくり、最後のページをめくると、紙切れが折り返しに挟んであった。

それは、たどたどしく書かれた手紙だった。

いえすさま

おかあさんと おとうさんを
なかなおり しますように
おねがいします


なんとも、健気な手紙である。

いえすさま、と書いているのは、当時キリスト教系の保育園に通っていたのでお願いするときはイエス様宛だったのだろう。

あまり覚えていないが、母曰く、夫婦喧嘩をはじめると、よく泣いて止めていたそうだ。母が本当に家を出て行ってしまうんではないかと不安だった記憶は少しある。


手帳にはもう一枚紙が挟まっていた。

こちらは、母と父の名前が書いてあったので両親宛の手紙だったようだ。


私は、さみしかったらしい。


母は、どんな気持ちでこの手紙を捨てずに、皮の手帳に挟んで持ち歩いていたのだろう。
嫌なことがあっても、手紙を見返して家に帰ってきてくれたんだろうか?

もう何年も手紙を書いていない。今、こんなにストレートに気持ちを伝えられるだろうか。

そんなことを考えているので、今日の掃除はほとんど進まなかった。


#エッセイ #手紙 #手帳 #片付け

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TOMO
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