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マギアレコード6周年記念! ピュエラ・ヒストリア総括


ごあいさつ

皆さんは「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」というスマートフォン用アプリゲームをご存知でしょうか。
文字通り「魔法少女まどか☆マギカ」というアニメと設定・世界観を共有しており、同作品のキャラクターもたまに登場します。そんな「マギアレコード」は2023年8月22日をもってサービス開始6周年を迎えます。

マギアレコードさん、本当におめでとうございます!!!

周年を祝して、またその魅力を少しでも世間に喧伝すべく本稿を書いています。さて、今年のマギアレコード……これが本当にとんでもないことになってるんです。
マギアレコードといえば深すぎるキャラクターの造形・描写で有名ですが、今年はその集大成とでも言うべきストーリーである「ピュエラ・ヒストリア」というシリーズが徐々に公開されていきました。
「ピュエラ・ヒストリア」とは、本編とは異なる時代に生きた魔法少女たちの物語で、全6弾にわたるオムニバス形式で世界各地の過去の出来事が描かれます。
これが公開されるたび、私たちマギアレコーダーはあまりの衝撃にのたうち回ることしかできませんでした。
それはまったく新しいマギアレコード体験でありながら、本質的には完全にマギアレコードそのものであったのです。
もう少し理性的な評価をすると、「メイン・イベントを問わず本編ストーリーで年に1回あるかないか」レベルのクオリティのシナリオが毎月供給されてきたのです。
いや、一部については誇張でもなんでもなく「マギアレコード史上最高」と評しても過言ではないかもしれません。
そういうわけなので、今回は「ピュエラ・ヒストリア」の話をメインにお送りします。駄文ですがお付き合いいただけますと幸いです。

ピュエラ・ヒストリアの功績

マギアレコードの魅力

「ピュエラ・ヒストリア」がなぜすごいのかを説明するためには、まずマギアレコードそのものの魅力を簡単に提示しておく必要があります。
以前のnoteでもちらっと書きましたが、ざっくり言うと「少女たちの社会との衝突と、その中でそれぞれの抱く心情や葛藤」がマギアレコードの真髄であると言えます。
具体的な話をすると、登場キャラクターはほとんどが魔法少女なので、みんな契約時になにかしらの「願い」を叶えています。
何が欠落していて「願い」で何を得たのか、というドラマ的なフォーマットを各キャラクターがある程度共通して持っているのは、作品ならではの強みと言えるでしょう。
家庭や学校での人間関係に悩み、「願い」を使って表面的な解決を図るもののうまくいかず結局話がこじれていく……というのが王道パターンですね。
特にミクロな視点での人間の利己的・独善的な部分や差別的な思想の描写に定評があり、息苦しくなるようなリアリティがあるのが特徴です。

また第二部までのメインストーリーは、「魔法少女の宿命(願いの代償として魔女と戦い、やがて自身が魔女となるシステム)からの解放」というテーマを軸として進行し、その過程で魔法少女たちの対立や魔女(キモチ)との戦いが描かれていきます。
この「魔法少女の宿命」という前提によって作品世界に常に一定の緊張感が漂っていることも、先述のリアリティをより強固なものにしています。

改めてまとめると、まず「つらく険しい環境」があり、その中で描かれる「追い詰められた人間の心理状態」こそがマギアレコードの真骨頂なのです。
前者の密度が高いほど後者の輝きが増す、という比例関係にあるのがポイントです。
以上を踏まえて「ピュエラ・ヒストリア」の功績を見ていきます。

ピュエラ・ヒストリアだからできること

まず「ピュエラ・ヒストリア」の何が革新的かと言うと、「従来のマギアレコードではできなかったことを実現している」という点に他なりません。
具体的には大きく分けて二つあります。

第一に、物語の舞台としてより過酷な環境をもたらしたことです。
従来では身近な人間社会・人間関係の負の側面を丁寧に描いてきましたが、それは裏を返せば現代に特有の社会構造に起因するものが多く、あまり普遍性を持たない場合があります。
また、魔法少女の世界の話といえど舞台はあくまで現代社会であり、言動や思想にはどうしても倫理的な規範による制約がかかってしまいます。
先述の通り魔法少女は自らを取り巻く環境が苦しいほど輝くので、メインストーリー第二部で割とやりきった感のあるマギアレコードにとってこれは喫緊の課題でした。
ちなみに第二部を経ていったん「魔法少女の宿命」から解放されているので緊張感もやや失われています。
そこで運営はひらめきました。現代でできないことがあるなら舞台を古代~中世にしてしまえば良いのです。
このコペルニクス的転回により、侵略戦争や奴隷制度、大規模な天災などの真実本当に厳しい状況に身を置く魔法少女が登場するに至りました。
またそれらの環境的要因は人類の半恒久的課題とも言えるものであり、そこで描かれるテーマも必然的に普遍性を獲得しました。
これが「ピュエラ・ヒストリア」第一の功績です。

第二に、人物についてのドキュメンタリー的な観点での完成度の高さが挙げられます。
物語上の制約として、従来では魔法少女の人生が結末まで描かれることはあまりありませんでした。
原則的にキャラクターありきでストーリーが展開されていく都合上、やはり安易に退場はさせられないのでしょう(とはいえソーシャルゲームにしては退場キャラが多い印象はあります)。
一方「ピュエラ・ヒストリア」は、過去の出来事である以上そこに登場する人物の人生は完結しています。
もちろん作中で最期まで描かれるとは限りませんが、少なくとも一編の物語としてしっかり完成しているのです。
メインストーリーが基本的に一本道であるため、こうした「読み切り感」は今までになく新鮮なものでした。
これが「ピュエラ・ヒストリア」第二の功績となります。

あくまで一側面ではありますが、以上のことから、「ピュエラ・ヒストリア」がいかに画期的なアイデアであったかがおわかりいただけたかと思います。

ピュエラ・ヒストリア各論

では実際に各編がどのようなものか、要点を絞って簡潔に紹介していきます。ネタバレを大量に含むため、今後プレイする予定のある方はご注意ください。
ゲーム的には本編キャラクターがタイムスリップするようなかたちとなっており、基本的に彼女らの視点から物語が進行します。
そのため、歴史を改編しない程度に助力したり、タイムパラドックスを解消するために奔走したりといったタイムスリップ系エンタメ作品の要素も描かれています。
また時代考証がしっかりされていて、史実とのリンク具合の確認や登場キャラクターのモデルとなった人物の推測なども楽しみ方の一つです。
なお、各地に派遣されるキャラクターは、ある程度派遣先で出会うキャラクターと似通った境遇の場合が多いですが、今回このあたりの解釈は割愛します(例えばエジプトのエボニーは静香とかなり重なる部分があるものの、思ったほど静香側へのフィードバックが無かったので今後補完されないかと期待していますが、これは欲張りというものかもしれません……)。

神浜の戦神子編

マギアレコードの主な舞台である神浜は、東西住民の関係が悪く対立や確執が絶えません。
これは戦国時代から続く根が深い問題なのですが、当編ではおよそ1540年頃の東西の対立と、「水名露」と「千鶴」という渦中の魔法少女2人の交流を描いています。
この2人については過去のイベントでもそこそこ語られており、今回はその総まとめのような位置づけに感じられました。
唯一舞台となった土地が完全にフィクションですが、領主や役人のいやらしさにはやはり一定のリアリティがあります。

アレクサンドリアの蜃気楼編

古代エジプトのプトレマイオス朝末期、クレオパトラの時代に王朝を陰で支えてきた一族の魔法少女「エボニー」のお話です。
内容としては、ほぼ期間限定イベント「深碧の巫」のエジプト版と言って差し支えない内容です。
なお「深碧の巫」は時女一族にとって、ひいてはマギアレコード第二部にとって極めて重要なエピソードにもかかわらず、なぜか期間限定イベントとなっています。
ともすれば「深碧の巫」未読のユーザーのために焼き直しを用意したのかな? とまで考えられます(一応過去のイベントストーリーを解放するアイテムはありますが)。

ヴィークのワルキューレ編

ヴァイキングの奴隷だった「オルガ」が団長になってのし上がっていくので実質「鉄血のオルフェンズ」です。
武力担当はオルガの妹の「ガンヒルト」で、真の自由を求めたガンヒルトの願いによって2人は闘争の道を歩むことになります。
俺たちにはたどりつく場所なんていらねぇ……止まるんじゃねぇぞ……。

チベットのラクシャーシー編

13世紀、モンゴル帝国の侵略を受けているチベットが舞台で、ラクシャーシー(魔法少女を指す語)となる「ヘルカ」と、ヘルカの親友である「ドルマ」の2人の少女の生き様が描かれます。

まずもってチベットという土地の選定が秀逸です。
山脈に囲まれた高原地域で大国に翻弄される運命にある……未だかつてこれほど地政学的にマギアレコードに適した土地があったでしょうか。
また本編で仏教的な要素が登場することもあり、宗教的な親和性も高いと言えます。

ヘルカはとても聡明で達観している部分があるため、初めから武力ではモンゴルに勝てないことがわかっています。
ただし、親友のドルマだけは自分の身を挺してでも守りたいと願っており、救世主となる道を選びます。
一方ドルマは、ヘルカが救世主として犠牲にならないように守りたいと思いつつも、次第に自らの無力を痛感し結局救世主としてのヘルカにすがりつくことになってしまいます。
この2人のお互いを想い合う心が当編の核心であることは論を待たないでしょう。
物語的な結末については……つらすぎてここには書けません。

ちなみにヘルカは、普段はマイペースで割とおっとりしていますが、有事の際は勘が鋭く頭が回る切れ者になります。
序盤の何気ない描写に見られるような萌え仕草はもちろんですが、知恵を働かせて窮地を切り抜けるクレバーな一面も印象的でした。
名実ともにマギアレコード史上最高の魔法少女の一人と言っても過言ではないでしょう。

寝坊するヘルカ。ちなみに全然間に合っていない。


邪馬台国の跡目編

女王ヒミコが治める3世紀の日本で、ヒミコの後継者になろうと奮闘する「トヨ」の物語です。

トヨ初登場の様子

トヨは生まれや生い立ちから祟り神の子として人々から疎まれており、それを仕方ないものとして受け入れて生きていました。
ですが、魔法少女になったトヨは「魔法は自分を変える力だ」とレナに教えられ、「祟り」に負けない強い自分に生まれ変わります。
ここで言う「祟り」とは、社会の悪意を古代特有の呪術的な観念に落とし込んだ表現であり、周囲の人々から受ける謂われなき差別や誹謗中傷を意味します。
つまり、マギアレコードで幾多の魔法少女たちを苦しめてきたものを「祟り」と名付けた上で、それを真っ向からはね除ける強さを持った人物を描いてみせたのです。

物語終盤、トヨが「祟りなどに人が負けてなるものか!」と叫んだ瞬間、比喩でなく私は泣き崩れました。
そのセリフがあまりにも力強くて、誇らしくて、なにより嬉しくて涙が止まりませんでした。
なんというか、これまでのマギアレコードがため込んできた負の感情やマイナスのエネルギーををまとめて吹き飛ばしてくれたような、圧倒的な爽快感があったんですよね。
「祟り」に負けずに歯を食い縛って生きたトヨに、私は敬意を表します。
トヨは、マギアレコードの血と汗と涙の結晶であり希望の星なのです。

パクス・ロマーナの恋人編

舞台は1世紀後半の古代ローマ、ベスビオ火山の噴火で壊滅したポンペイを救うために魔法少女になった「アマリュリス」が主役となります。

「パクス・ロマーナの恋人」に込められた真意とは……?

アマリュリスは一度、史実とは異なるポンペイの完全な終焉に直面しており、数年前の過去の世界に戻って住民に避難の準備をさせるために魔法少女になります。
避難の準備のためには街の有力者を動かす必要がありますが、そこには政略結婚が深く関わっていて、結果的にアマリュリスは元の世界線での恋人を姉に奪われるかたちになってしまいます。
2週目の世界ではアマリュリスの恋心はバレてはいけないので、物語の展開と並行して密かな三角関係が描かれていくのですが、実はこの三角関係がユーザーにも最後まで伏せられているというのが最大のポイントです。
魔法少女は願いと引き換えに「命」と「魂」を差し出しますが、アマリュリスはそれらのみならず「恋心」まで捧げていたことが最終章で明らかになるのです。
ポンペイ市民を、なにより愛する人を救うために「恋心」を手放さなければならなかった彼女は、「自分はパクス・ロマーナの恋人だ」と自嘲気味に語るのでした……。

ちょっと人の心がなさすぎますね。
叙述トリック的なギミックが巧みに施されていて芸術点は非常に高いのですが、最後につらみが一気に襲ってきて危うく気を失うところでした。
またマギアレコードには大変珍しいことに、当編にはいわゆる悪い人がまったく出て来ません。
アマリュリスがやろうとしたこともほぼすべてがうまくいきます。
すべてがうまくいったはずなのにどうしてこんなに悲しいのでしょうか???
ともあれ、これもまた新しいマギアレコードの可能性を見せてくれた傑作と言えるでしょう。

まとめ

「ピュエラ・ヒストリア」全体に言えることですが、ある程度歴史の知識があるユーザーなら、基本的に「ハッピーエンドにはならなさそう」という悪い予感と隣り合わせでシナリオを読むことになります。
この先入観がゲーム体験における心理誘導・揺さぶりに一役買っています。
前提に不安があるおかげで希望も絶望も三割増し(体感)になるし、ほんのわずかに平和なシーンが挿入されただけで必要以上に尊いもののように感じられてしまうのです。
もっとも、それで感情移入しやすくなるのは訓練されたマギアレコーダーに限られるのかもしれませんが……。

まあともかく、「歴史上の出来事・人物」×「マギアレコード」の化学反応は想像を遙かに超える成果をもたらすものだったのです。

終わりに

いかがでしたか?
「ピュエラ・ヒストリア」の魅力が少しでも伝わっていれば幸いです。
個人的には、今後もマギアレコードには挑戦する姿勢を続けてほしく思います。

一応前フリ(?)として『魔法少女たると☆マギカ』とのコラボイベントもあったのですが、あちらは原作付きということでやはり制約が多かったような気がします。
ちなみに『魔法少女たると☆マギカ』はスピンオフ作品の一つで、魔法少女であるジャンヌ・ダルクの活躍が描かれています。
百年戦争について詳細な考証が為されており大変読み応えがある作品なので、未読の方はぜひこちらも手に取ってみることをオススメします。

それでは改めて……6周年おめでとうございます!!!

最後までお読みいただきありがとうございました。


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