#13 シーズンをどう振り返るか:精度を高める二つの思考法
そろそろ主要大会が終わるという意味で、今シーズンが終わる(もしくはすでに終わっている)チームも多いと思う。
チームとしてどのようにシーズンを過ごせたのかを振り返る作業は、次シーズンに向けて非常に重要となる。
この振り返り作業の精度を高めるためには、
「ゲームパフォーマンス分析的思考」
「事例研究的思考」
この二つの思考法が有用であると私自身は考えている。
この記事では二つの思考法と、それぞれの具体的な運用方法について解説していく。
ゲームパフォーマンス分析的思考
ゲームパフォーマンス分析とは、広い意味では実際の試合を分析し評価することであるが、今回の記事ではよりアカデミックな定義である「実際の試合から量的・質的データを取得し評価する」を用いる。
ゲームパフォーマンス分析に求められるのは
具体に大きく左右されない抽象的な知
である。
なぜなら、具体に極度に振り回されると、本質を見失う可能性があるからだ。
例えば、前節はシュート20本打って0点、今節はシュート2本で2点、という結果だったとする。
極端に考えると、シュートは少ない方が良いという結論を出すこともできる。
しかし、2試合をまとめて見ると
シュート22本で2点という結果になり、11本につき1点とれているという現実的な結論になる。
もちろん、より詳細に(例えばシュートの場所なども含めて)分析する必要はあるのだが、まとめて分析することによって、それぞれの状況を薄めた状態でコアとなる結論を導き出しやすい。
つまり、ゲームパフォーマンス分析的思考とは
「シーズンを通して得られたデータを包括的に分析することで、具体に左右されない抽象的な知を導くための思考」
といえる。
より詳細にゲームパフォーマンス分析について知りたい場合は以下の本がおすすめである。
具体的な運用方法
ゲームパフォーマンス分析的思考を現場で実際に行うためには
まずはデータを集める作業が必要になる。
もちろん、詳細な分析項目があるにこしたことはないのだが、
現実的にそんなことができるお金と時間があるチームは限られるだろう。
お金と時間がない場合は、得点と失点にフォーカスすると良い。
結局サッカーは相手より多くの得点を上げることで勝利できるスポーツなので、分析の優先順位も得失点が最上位となる。
例えば
得点場所、失点場所
得点方法、失点方法
これらをシーズン全試合で見るだけでも客観的な視点を一つ入れることができる。
より精度を高めたい場合は
シュートと被シュートまで対象を広げると良い。
(というより個人的にはここまでやることを強く勧める。)
ともかく、
この試合はこうだった、あの試合はこうだった
と一つ一つの事情を考慮することから一旦離れると違うものが見えてくることが多い。
事例研究的思考
この記事でいう事例研究とは
具体的な事例に焦点を絞り、その変化などの要因を分析しその対応法などについて論ずるものである。
臨床心理や医療、コーチング分野など、自然科学的手法による分析では扱えなかったり、一般化を目的としない場合に行われる。
先ほど解説したゲームパフォーマンス分析的思考とは対照的な思考法といえる。
なぜ事例研究的思考が必要なのかというと、
ゲームパフォーマンス分析的思考は良くも悪くも抽象的であるからである。
抽象化することで観察できる本質もあるが、個々の事例の解決にまでは手が届かないこともある。
そのため、具体例についてより詳細に分析するために、事例研究的思考が必要となる。
具体的な運用方法
シーズンを通して、パフォーマンスに変化が起きないということはないだろう。
何かしらの変化が、個人やチームには起きているはずだ。
全ての事例について検討していると時間がいくらあっても足りないので、自身で重要だと思う事例に着目することがおすすめである。
例えば、ある選手がシュートを突然決められるようになったとする。
その場合、指導者自身がどのような指導を行なったか、トレーニングメニューや声かけなど、様々な観点から分析する。
そして、最ももっともらしい要因を探す。
これによって、次シーズン、シュートが入らない選手がシュートを決められるようにするための指導に役立つ可能性がある。
事例研究的分析に必要なのは、詳細に振り返ることだ。
まず対象の選手やチームのプロフィール。
性格や身長、体重、趣味嗜好なども指導の助けになるかもしれない。
そして指導者自身がどのように感じたかなどの主観的な記録も重要となる。指導者と指導対象について詳細に明らかにしておくことが後々必ず役に立つ。
大事なのは併用すること
以上のような
ゲームパフォーマンス分析的思考と事例研究的思考を併用すると
抽象的な知(傾向としてのチームや個人の特性・特徴)
具体的な知(チームや個人の鮮明な課題と解決方法)
を振り返ることができる。
重要なのは併用すること。
抽象・具体の両面からシーズンを振り返らないと精度は高まらない。
順番としては抽象→具体で見ることがおすすめである。
傾向という前提があった方が具体の見方が豊かになる。
おわりに
シーズンを戦い抜くというのはどんなカテゴリー、スポーツにおいても本当にしんどいことである。
心身ともに疲弊している指導者も多いだろう。
その上、シーズンの振り返りは楽な作業ではない。
しかし、次シーズンをより良く戦うためには必須と言っても過言ではない。
この記事が、振り返りを行う指導者の助けになれば幸いである。
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