■歌集『入院百葉』（レコ）

001　太陽に　負けて倒るる令五の夏
002　崩れ落ち　友に叱られ　119番
003　迫りくる　サイレンの音　けたたまし
004　サイレン鳴らし　われを運びし　白き勇車よ
　　　　ありがたくもあり　恥ずかしくもあり
005　この夏に　更新せしは　最高体温
006　点滴に　助けられて　生きている　わが命の　儚さよ
007　初めての　病院食の　味の薄さよ
008　いつまでの　入院なのか　不安なり
009　結婚に　興味を持ってる　暇は無し
010　ひょっこりと　現れ出でたる　担当医
　　　　伝言のみにて　去りにけり
011　ひょっこりと　現れ出づべき　担当医
　　　　顔出さずして　友来たる
012　病名を　告げられしレコ　驚くも
　　　　長期入院　覚悟しけり
013　レコちゃんを　「再重病人だ」と　友は言う
014　寝すぎては　疲れが残る　日課かな
015　咳すれば　苦しくて　病人らしく　なりにけり
016　咳しても　同居人は高いびき　聞こえないのか　聞こえぬふりか
017　訪れし　友の土産に　心躍らす
018　水体の　薬師に守られ　日をおくる
019　門前の鶴よ翔べ　いつの日か
020　点滴とれ　回復の実感す
021　リハビリ始まる　いとしんどし
022　左横の　イケメンの姿　見えず恐ろし
023　私の未来を映す新人さん入室　お話したい
024　われのため　調理せられし食を　記録する
025　静けさや　入院したと　再確認
026　羞恥心　あったら出来ない　入院は
027　頼もしや　コールボタンと友の声
028　リセットボタンを押そう　覚悟を持って
029　羞恥ここに極まる　人生初褌
030　娘さん　よく聞けよ　あなたの父さん88
031　初褌にまさる恥辱あり
032　病院に風流無し
033　譫妄に現れし人々に知る人無し
034　塔を出る　令五の秋の　風は夏色
035　退院の日　「旅立ちの日」を　口ずさむ