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宇宙と骨粗鬆症

Q 骨の基本的な部分


骨は見た目は硬くほとんど変化しないようにみえますが、新陳代謝を行っています。古い骨を破骨細胞が破壊し(骨吸収)、骨芽細胞が新しい骨をつくります(骨形成)。女性ホルモンのエストロゲンや年齢、副甲状腺ホルモン(ステロイドホルモン)、ビタミンD、重力、筋力などが骨吸収と骨形成に関与しています。
骨は成分的としてはミネラルであるハイドロキシアパタイトとコラーゲンなどの有機成分から成り立っています。
鉄筋コンクリートの建物がわかりやすい例としてよく挙げられます。鉄筋がコラーゲン、コンクリートがミネラルと考えてください。建物も老朽化に対応するためにコンクリートを補強していきますよね。一方で台風や海沿いだと修繕が間に合わなかったり、修繕しても再度壊れたりします。その状況が骨が窮地に晒されている状態と似ています。

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Q そもそも骨粗鬆症とは何か


骨の強さのことを骨強度と言います。骨強度は骨質と骨密度=骨量からなっています。3割は骨質(微細構造、骨代謝回転、骨組織の石灰化の程度など)、7割は骨密度で強さが構成されていると考えられています。骨粗鬆症とは、全身的な骨に含まれるカルシウムの減少や骨の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が強まり骨折の危険性が高まった状態のことを言います。
骨粗鬆症は女性に多く、原因として女性ホルモン=エストロゲンの低下が挙げられます。 女性は閉経後急速にエストロゲンが低下し、 結果として骨量が低下するためです。
骨粗鬆症は原発性、続発性に大きく分けることが可能です。加齢や閉経(エストロゲン欠乏)の変化で生じる場合は原発性骨粗鬆症と診断されます。それ以外の要因によるものを続発性骨粗鬆症といいます。続発性の具体的な要因としては生活習慣病、内分泌疾患、膠原病、薬剤性、不動性などがあります。
2015年には日本における原発性骨粗鬆症患者は1280万人と推計されていますが、超高齢社会の現在ではさらに多くなっていると推定されています。続発性骨粗鬆症は2,000万人に上るとされ,合わせて3000万人以上の骨粗鬆症を罹患している人がいるとされています。

Q 宇宙と骨粗鬆症の関係性


ヒトは1Gの中で進化してきました。そのため、宇宙では重力による力学的な負荷が減少し、骨吸収亢進と骨形成の低下を引き起こし、骨塩量の減少が生じます。宇宙飛行は続発性骨粗鬆症の中でも不動性というものに分類されます。
宇宙飛行と似た状態に、地上での寝たきり状態(長期臥床)が挙げられます。実験ではベットを6 度傾け長期臥床し食事・排泄もベッド上で行う「ベットレスト」という環境設定まであるようです。
閉経後骨粗鬆症はエストロゲンの欠乏が原因で50~65歳の閉経期以後の女性に生じ骨量減少率は月経不順期では 2%/年、その後 は老人性骨粗鬆症と同様に1%/年となります。
老人性骨粗鬆症は加齢に伴うカルシウム 吸収能低下などにより 65 歳以上の高齢者に多く、大腿骨 頚部の骨量減少率は 1%/年です。
微小重力の宇宙での骨量減少は、大腿骨近位部で 1~2%/月 (12~ 24%/年)と骨粗鬆症の約 10 倍に相当します。地上で宇宙環境を模擬するベッドレスト研究での骨量減少は 2%/月 (6%/3 か月)です。宇宙飛行の骨吸収更新は地上に帰還後も上昇が継続し、1-4wかけて正常化します。
加えて、紫外線遮断による活性型ビタミンDの低下、骨吸収亢進と骨形成の低下による血中Ca濃度の増加、それに伴うホルモン変動で尿中のCa排泄が上昇します。すると尿路結石がおこしやすい、さらにCa吸収をしなくなるなどの悪循環が生まれます。

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Q宇宙飛行士の骨塩量減少対策


適切な栄養、効果的な運動、有効な薬剤使用が鍵を握っています。
ISSのクルーには1200mgのカルシウムと10μgのビタミンDを含んだ宇宙食とビタミンDのサプリメントが準備されています。
運動については特別な抵抗をかける運動機器で筋力負荷トレーニングと、有酸素運動が行われます。
薬剤使用についてはビスホスホネート製剤(骨粗鬆症の治療薬)で宇宙飛行士の骨量減少と尿路結石のリスクが減少するか研究が行われました。その結果、ビスホスホネート製剤なし群(ビタミンDと運動装置での運動のみ)では骨塩量減少効果はありましたが、骨吸収亢進と尿中カルシウム上昇は抑制できませんでした。一方、ビスホスホネート製剤も予防内服した群では骨塩量維持、骨吸収の抑制、尿中カルシウムの排泄抑制がありました。
これらの三つの対応策は経験値と数少ない研究から創出されている方法であるため、今後の研究で大きな変化が生まれる可能性は十分あります。

Q 最近のニュース


・微小重力下における線虫のインスリンシグナル伝達に異常所見あり。宇宙で生じる代謝異常の原因の一つとして検討。
・プルーンの粉末をかけた食事を食べたマウスに骨粗鬆症予防効果がでた可能性
・微小重力環境での骨粗鬆症のシステマティックレビュー
・火星に行くまでの骨密度の減少予測を出した


【参考,引用文献】
J Bone Miner Metab.27(5),2009,620-8.
HEP 41: 457-464, 2016
宇宙航空医学入門 宇宙飛行の骨量減少
Osteoporosis International. 2013 July; 24(7): 2105-2114.
Biological Sciences in Space. 2018 326-10.
Sci Rep . 2020 Apr 16;10(1):6484.
NPJ Microgravity . 2020 May 5;6:13.
PLoS One . 2020 Jan 22;15(1):e0226434.

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