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島口大樹が気になる

毎月文芸誌が発売されると、おそるおそるチェックする。
村上春樹みたいな新人作家が出てきたらどうしよう、と常に怯えているからだ。

2021年春、僕が大学を卒業して上京し、出版社のバイトを始めるまでは、文芸誌をちゃんと読んだことがなかった。バイトの業務に雑誌の切り抜きがあったので、そこで自然と目を通すようになった。

2021年の群像で、島口大樹さんが「鳥が僕らは祈り、」で新人賞を取っていた。群像に掲載された小説を読む前に顔写真を見て、若くて好青年だと思った。
受賞のことばで、村上春樹と高橋源一郎を読んだ年齢について書いていた。僕もこの二人が好きなので共感できた。
小説を読むと、内容よりも句読点の位置とかリズムにこだわっているようで、そこが良いなと思った。新人賞の小説でほんの少しでもいいなと思えば、それはだいぶ良いということである。

それから毎月、群像や文学界、その他5、6社から出る文芸誌が楽しみになった。島口さんのような若い作家がまた出ているのではないかと。
ちょうどその時僕は、小説の出版社の編集部の社員が気に入らなくなっていた頃だった。特に女性社員。みんな綺麗で、30歳になる前に結婚し、そうでなくても彼氏がおり、安定して、社交的で……特に喋り方が嫌だった。常に完璧であろうとする姿勢。上司から「頭が悪い女」と思われたくない気持ち。プライドが高く、幼稚に見えた。
彼女たちは作家にへこへこしている。島口さんも、へこへこされる側だ。島口さんには野心があり、編集部の女性社員にはないのだから。
僕はその女性社員のさらに下、月給13万のバイトで、彼女たちの眼中になかった。実際僕はバイトから社員に登用できたら良いなと思っていた。自分が中途半端に思えた。

文芸誌には、若い作家が登場し続けている。九段理江さん、砂川文次さん、美味しいごはんが食べられますようにの作家、井戸川射子?さん、またこの前の文藝新人賞の、クズ女の小説の作家、そして今回の芥川賞の沖縄出身の作家など。
しかし僕が恐れているのは、もっとショッキングな作家である。怖いのは島口さんの次作だが、世の中にはまだまだ野心ある新人がいて、出てくるのは時間の問題なんだろう。

文芸誌を読むのは、そういう不安から一時的に解放されるためである。

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