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頼むから静かにしてくれ


というレイモンド・カーヴァーの短編を読んだ。カーヴァーを読んだのはこれが初めて。村上春樹がやけにこの作家を気に入っているが、同じくお気に入りのフィッツジェラルド、チャンドラー、ドストエフスキーと比べると知名度は低い。いつか読んでみたいと思っていたが、これまで何度かスルーしてきたのは理由がある。カーヴァーは「短編作家」なのだ。

短編はたまに読むけれど、僕はやっぱり長編が好きだ。面白い文体なら短編とは言わず500ページでも1000ページでもずっと読んでいたい。僕がこれまで読んできた短編はまずその作家の長編を何個か読み終え、箸休めとして(ツイッターを見るような感覚で)読んでみようと思って読み始めたものだ。

しかし現在読んでいる長編がなかなか進まず、ちょっと肩の力が抜けるような本が読みたいと思ってしまった。そこで浮かんだのがカーヴァーだった。何度か立ち読みしたことがあったが、その日常をスケッチしたような書き出しはまさに今の僕の読みたいものと一致していた。この中公の縦長でサラサラしたカバーも好きだ。


まず読み始めてすぐ思ったこと。一番近いのはブローティガン。ヘミングウェイ的な部分もあるけれど、もっと日常でハードルが低い。ちょっと休憩にレストランに入り、注文の待ち時間にメモしたみたいな文章だ。読んでいる途中にこれが村上春樹の翻訳であることを忘れていた。「キャッチャー・イン・ザ・ライ」や「ロング・グッドバイ」などはどう考えても村上春樹の文体が原作を侵していて、たまに読んでいて別の訳で読みたいと思うことがある。しかしカーヴァーは元々がひねくれていない文体なのか、情景描写と心理描写を素直に書き下ろしていったという感じがある。

この本の帯に村上春樹のこんなコピーがある

「確立されたスタイル、確かな才能 

カーヴァーはそもそもの最初からまったくのオリジナルだった」


村上春樹のキャッチコピーは良い。その作家のことが好きなことが伝わるからだ。で、どの辺が「まったくのオリジナル」なのかを僕は楽しみに読み進めていった。一番のポイントはここだと思う。

「どこにでもある日常風景を、短編独自の短さと粋なタイトルで綺麗にまとめている」

特に気に入ったタイトルが「でぶ」「そいつらはお前の亭主じゃない」「アラスカに何があるというのか?」だ。

「でぶ」が印象に残ったのは、まあ1本目の話だったからだろう。途中にあったらもう少し霞んでいたと思う。とにかくタイトルに2文字「でぶ」というのはちょっと初めてだ。

「そいつらはお前の亭主じゃない」は、つまりこういうことだ。

「お前が外で何を言われようが気にすることはない。他人のことは放っておけばいい」。こういう姿勢、まさに村上春樹が好みそうである。タイトルがありそうでないところが良い。これはなかなか思い付けない。

「アラスカに何があるというのか?」は、村上春樹の「ラオスに何が・・・」の元になったものだろう。こう見ると村上春樹は結構他のタイトルを引用していることが多い。短編しかり、音楽しかり。


しかしこうカーヴァーの短編を読んでいると、改めてヘミングウェイやサリンジャーの偉大さを思い知らされる。カーヴァーは短編だからこそ成り立っているが、これを原稿用紙何百枚も読まされるとなると話はまた変わってくる。にも関わらず、同じテイストの上記2名作家の本で退屈を感じることなどあり得ない。やはり日常のスケッチには限界があるのだろうか。それとも、カーヴァーがこの感じで原稿用紙500枚書いたとして、意外とそれは読めてしまうのだろうか。多分後者だろう。結局、書いたもの勝ちなのだ。

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