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偽痛風(Pseudogout)について

偽痛風は、関節内にピロリン酸カルシウム結晶(Calcium Pyrophosphate Dihydrate:CPPD)が沈着し、これが関節炎を引き起こす疾患です。痛風とは異なり、偽痛風では尿酸ではなくピロリン酸カルシウムが関節に沈着し、急性の関節痛や炎症を引き起こします。臨床的な症状は痛風と似ていますが、原因や治療法が異なるため、適切な診断と治療が必要です。

病態生理
CPPD結晶が関節軟骨や滑膜に沈着し、それが免疫反応を引き起こすことで、急性の炎症が発生します。結晶誘発性関節炎と呼ばれるこの状態は、関節内に結晶が認識されることによって白血球が動員され、炎症反応が促進されるというメカニズムを持ちます。
ピロリン酸カルシウムが関節内に沈着する原因は完全には解明されていませんが、以下の因子が関連していると考えられています。
1.加齢
偽痛風は高齢者に多く見られ、加齢に伴い軟骨や関節組織が変性しやすくなり、結晶沈着のリスクが高まります。特に、70歳以上の人に多く発症します。
2.代謝異常
甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシスなどの代謝異常が、偽痛風の発症に関与していることがあります。これらの疾患では、カルシウム代謝異常が引き起こされ、結晶の沈着が促進されます。
3.外傷や手術
外傷や関節手術を受けた関節でCPPD結晶が析出しやすくなることがあります。また、関節内注射などが誘因となることもあります。

症状
偽痛風は、典型的には急性の関節痛や炎症を引き起こします。以下のような症状が見られます。
1.急性関節炎
偽痛風の発作は、痛風と同様に突然の関節痛で始まります。痛みは数時間から数日でピークに達し、関節の腫れや熱感を伴います。痛みの強さは軽度から重度まで様々です。
2.好発部位
最もよく影響を受ける関節は膝関節ですが、手首、肩関節、足首、肘関節などにも影響が及ぶことがあります。多関節にわたって影響を及ぼすこともあり、痛風に比べて発症部位が広い場合があります。
3.関節の腫脹と発赤
炎症によって関節が腫れ、赤くなることが特徴です。痛風と区別が難しいほど、急性の関節炎として現れることがあります。
4.慢性偽痛風
偽痛風が慢性化すると、関節が持続的に痛み、変形が進行することがあります。これは慢性CPPD沈着症と呼ばれ、変形性関節症(osteoarthritis)の一形態として発展することがあります。

診断
偽痛風の診断は、臨床所見、画像検査、および関節液検査によって行われます。
1.関節液検査
偽痛風の確定診断には、関節液を採取してCPPD結晶の存在を確認することが最も有効です。CPPD結晶は、ロムボイド(ひし形)や短い棒状の形をしており、顕微鏡で確認できます。
偏光顕微鏡で見ると、CPPD結晶は弱い複屈折性を示し、痛風で見られる尿酸結晶(強い複屈折性)の特徴とは異なります。
2.血液検査
偽痛風では、血清尿酸値は正常であるため、尿酸値の測定が痛風との鑑別に役立ちます。また、炎症反応を示すCRPや赤血球沈降速度(ESR)が上昇することがありますが、これらは非特異的です。
3.画像検査
X線検査では、関節内に石灰化が確認されることがあります。特に、軟骨内に線状の石灰化が見られることが多く、これを軟骨石灰化症(chondrocalcinosis)と呼びます。軟骨石灰化は偽痛風に特有の所見です。
超音波検査やCTでも、関節内の結晶沈着を確認することができます。

治療
偽痛風の治療は、急性発作の管理と症状のコントロールを目的に行われます。現在のところ、CPPD結晶そのものを除去する治療法はなく、主に症状の緩和が中心となります。
1.急性発作の治療
・NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
偽痛風の急性発作時には、イブプロフェンやナプロキセンなどのNSAIDsが第一選択薬として使用されます。これにより、炎症と痛みが抑えられます。
・コルヒチン
偽痛風においても、コルヒチンが急性発作の抑制に有効です。コルヒチンは、白血球の移動を抑制し、結晶に対する炎症反応を軽減します。通常、低用量で使用されますが、胃腸障害の副作用には注意が必要です。
・ステロイド
重度の発作やNSAIDsが使用できない場合、ステロイド(プレドニゾロン)が経口または関節内注射で使用されます。ステロイドは炎症を迅速に抑制しますが、長期使用には副作用のリスクがあるため、短期間の使用が推奨されます。
2.慢性偽痛風の管理
慢性化した偽痛風では、関節の炎症を抑えるために低用量のコルヒチンや、適切なリハビリテーションが行われます。また、変形性関節症の治療と同様に、体重管理や関節保護が重要です。
3.基礎疾患の治療
偽痛風が代謝異常(甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症など)に関連している場合、その基礎疾患の治療も重要です。代謝異常が改善されれば、偽痛風の発作頻度が減少する可能性があります。

予後
偽痛風は、適切な治療が行われれば、急性発作は数日から数週間で改善します。しかし、慢性的なCPPD沈着症が進行すると、関節の変形や可動域の制限が起こることがあり、特に高齢者では関節機能の低下が懸念されます。適切な管理により、痛みや炎症を抑えつつ、生活の質を維持することが目標です。

まとめ
偽痛風(Pseudogout)は、ピロリン酸カルシウム結晶(CPPD)が関節に沈着して炎症を引き起こす疾患で、痛風と類似した症状を呈しますが、原因や結晶の性質が異なります。偽痛風は、高齢者や代謝異常を抱えた患者に多く見られ、急性の関節痛や炎症を引き起こします。特に膝関節に多く発生しますが、他の関節にも影響が及ぶことがあります。
診断は、関節液中のCPPD結晶の確認によって確定され、画像検査で関節内の石灰化を確認することが診断の助けとなります。治療は、NSAIDsやコルヒチン、ステロイドによる炎症の抑制が中心であり、基礎疾患の治療も重要な役割を果たします。

偽痛風の重要なポイント
1.ピロリン酸カルシウム結晶(CPPD)が原因で、尿酸結晶が原因となる痛風とは異なる。
2.高齢者や代謝異常(甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシスなど)がリスク因子。
3.膝関節を中心に、急性の関節痛と炎症が発生する。
4.関節液検査でCPPD結晶の確認が確定診断に重要。
5.治療は、NSAIDsやコルヒチン、ステロイドによる症状の緩和が基本。

予後と管理
偽痛風は、適切な治療によって症状をコントロールできるものの、慢性的なCPPD沈着症が進行する場合、関節の変形や機能障害が残ることがあります。したがって、定期的なフォローアップと適切なリハビリテーションが必要です。

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