インスリン抵抗性(Insulin Resistance)について
定義
インスリン抵抗性とは、インスリンが正常に分泌されているにもかかわらず、体の細胞がインスリンに対する反応が低下し、グルコースの取り込みや利用が不十分になる状態を指す。
病態生理
・インスリン抵抗性は主に筋肉、脂肪組織、肝臓で生じる。
・細胞表面のインスリン受容体の数や感受性の低下、シグナル伝達経路の異常が関与する。
・インスリン抵抗性により、血糖値が上昇し、膵臓のβ細胞は過剰にインスリンを分泌するが、長期的にはβ細胞の機能低下が進行し、2型糖尿病を引き起こす。
原因
1. 肥満:特に内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性を引き起こす。脂肪細胞から分泌されるアディポカインや遊離脂肪酸がインスリンの効果を阻害する。
2. 運動不足:運動はインスリン感受性を高めるため、運動不足はインスリン抵抗性を悪化させる。
3. 遺伝的要因:家族歴や遺伝子異常がインスリン抵抗性の発症に寄与する。
4. 高脂肪食:高脂肪食は体脂肪を増加させ、インスリン抵抗性を悪化させる。
5. ストレス:慢性的なストレスはコルチゾールの分泌を増加させ、インスリン抵抗性を悪化させる。
6. 加齢:加齢に伴いインスリン感受性が低下する。
診断
インスリン抵抗性の診断には以下の方法が用いられる。
1. HOMA-IR(Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance)
・空腹時血糖値と空腹時インスリン値を用いて計算される指標。
2. インスリン感受性試験
・オーラルグルコーストレランステスト(OGTT)やクランプ法が用いられる。
治療と管理
1. 生活習慣の改善
・体重減少:減量により内臓脂肪を減らし、インスリン感受性を改善する。
・運動:有酸素運動やレジスタンス運動がインスリン感受性を向上させる。
・食事療法:バランスの取れた食事、特に低脂肪・高繊維質の食事が推奨される。
2. 薬物療法
・メトホルミン:肝臓での糖新生を抑制し、インスリン感受性を改善する。
・チアゾリジン:インスリン感受性を増加させる。
3. モニタリング
・血糖値の定期的測定:血糖値を管理し、治療の効果を評価する。
・HbA1cの測定:長期的な血糖管理状態を評価する。
合併症
インスリン抵抗性は以下の合併症のリスクを増加させる。
・2型糖尿病:慢性的なインスリン抵抗性により、膵臓のβ細胞が疲弊し、インスリン分泌が低下する。
・メタボリックシンドローム:肥満、高血圧、高脂血症、耐糖能異常が組み合わさる状態。
・心血管疾患:動脈硬化、冠動脈疾患、脳卒中などのリスクが増加する。