白内障(Cataract)について
白内障は、水晶体が混濁し、視力の低下を引き起こす疾患である。水晶体は通常透明で、光を正しく通す役割を持っているが、年齢やその他の要因により構造が変化し、透明性を失うと視覚情報が適切に網膜に届かなくなる。白内障は高齢者に多く見られるが、外傷や糖尿病、遺伝的要因、薬剤(特にステロイド)などにより若年でも発症することがある。
病態生理
白内障の発症メカニズムは、水晶体の蛋白質が変性し、凝集することで混濁が生じることである。これには加齢、紫外線暴露、酸化ストレスが関与している。通常、水晶体は透明な構造を維持するために蛋白質の安定性を保つ仕組みを持つが、加齢や他の要因でこの仕組みが破綻すると蛋白質が変性し、光の透過が妨げられるようになる。
病因
白内障の主な原因は以下である。
1.加齢性白内障(老年性白内障)
・最も一般的で、60歳以上の高齢者に多く見られる。加齢により水晶体の透明性が失われ、徐々に視力が低下する。
2.先天性白内障
・遺伝的要因や、妊娠中の感染症(例:風疹ウイルス)により、出生時や幼少期に発症することがある。
3.外傷性白内障
・外傷による水晶体構造の損傷が原因で、急速に発生する。
4.糖尿病性白内障
・糖尿病患者では血糖コントロール不良により水晶体内にソルビトールが蓄積し、混濁が進む。
5.薬剤性白内障
・長期間のステロイド薬使用や放射線治療がリスク因子となる。
臨床症状
白内障の症状は混濁の進行度や範囲により異なる。主な症状は以下である。
1.視力低下
・最も一般的な症状で、遠くも近くも見えにくくなり、日常生活に支障をきたす。
2.羞明(グレア)
・夜間の車のヘッドライトや強い光に対して強いまぶしさを感じる。
3.視野のぼやけ
・明るい場所や暗い場所で視野がぼやけ、色がくすんで見えることがある。
4.複視
・混濁が局所的に進行した場合、片目で複視を感じることがある。
5.視力の変動
・初期には視力が時々回復することがあるが、次第に恒常的な視力低下が進行する。
診断
白内障の診断は視覚機能を評価する複数の検査によって行われる。
1.視力検査
・視力低下の程度を測定し、矯正視力がどの程度改善するかを評価する。
2.細隙灯顕微鏡検査
・細隙灯で水晶体の状態を詳細に観察し、混濁の程度や位置を確認する。
3.眼圧測定
・緑内障などの併発疾患の排除のために眼圧を測定する。
4.眼底検査
・白内障が進行すると網膜の状態が確認しにくくなるため、混濁の進行度に応じて眼底の状態を評価する。
鑑別診断
白内障の診断には他の視力低下を引き起こす疾患との鑑別が必要である。以下の疾患が考えられる。
1.緑内障
・視野欠損が進行するが、初期には視力が保たれていることが多い。
2.黄斑変性
・加齢黄斑変性では、中心視力が先に低下し、物がゆがんで見える。
3.角膜疾患
・角膜の混濁や傷による視力低下で、角膜が原因であるかは診察により確認される。
治療
白内障の治療は進行度に応じて異なる。軽度の場合は定期的なフォローアップで経過観察を行うが、視力低下が日常生活に支障をきたす場合は手術が推奨される。
1.初期の治療
・メガネやコンタクトレンズで視力を補正することが有効な場合がある。まぶしさを防ぐためにサングラスの使用も推奨される。
2.手術
・白内障が進行し視力低下が著しい場合、水晶体摘出術が行われる。混濁した水晶体を取り除き、眼内レンズ(IOL:Intraocular Lens)を挿入する。手術には主に超音波乳化吸引術(Phacoemulsification)が用いられ、傷口が小さく回復が早いのが特徴である。
予後
白内障手術の成功率は非常に高く、ほとんどの患者で視力が回復する。手術後に水晶体嚢が混濁し後発白内障が発生することがあるが、これはレーザー治療で簡単に除去可能である。予後は全般的に良好であり、適切な時期に手術を行うことで視力が改善する。
まとめ
白内障は水晶体の混濁によって引き起こされる視力低下の原因であり、特に高齢者に多く見られる。診断には視力検査や細隙灯顕微鏡検査が用いられ、治療は視力低下の程度に応じて眼鏡矯正や手術が選択される。手術後の視力回復率は高く、白内障は適切な治療によりほとんどの患者で良好な予後が期待できる。