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ナルコレプシーについて

ナルコレプシーは、日中の過度な眠気と突発的な睡眠発作を特徴とする慢性的な神経疾患です。睡眠と覚醒を調節する脳内の仕組みに異常が生じることで発症します。主に10代後半から20代前半に発症し、一生涯にわたって持続することがあります。

症状と特徴
ナルコレプシーの主な症状は以下の4つです。
1.過度の眠気(Excessive Daytime Sleepiness)
・持続的な日中の眠気:十分な夜間睡眠をとっていても、日中に強い眠気を感じます。
・睡眠発作:会話中、食事中、運転中など、不適切な状況で突然眠りに落ちることがあります。
2.カタプレキシー(Cataplexy)
・筋力の突然の喪失:喜び、笑い、驚きなどの強い感情に伴い、筋肉の力が一時的に失われます。
・部分的から全身的な影響:膝が崩れる、頭が垂れる、物を落とすなどから、全身の脱力まで様々です。
3.睡眠麻痺(いわゆる金縛り)
・一時的な運動不能:入眠時や覚醒時に、意識はあるものの身体を動かせない状態になります。
・持続時間:数秒から数分間続くことが一般的です。
4.入眠時・覚醒時幻覚
・生々しい幻覚:寝入りばなや目覚めた直後に、現実のような鮮明な幻覚を体験します。
・内容:視覚的、聴覚的、触覚的なものが含まれ、恐怖を伴うこともあります。


1.オレキシン(ヒポクレチン)の欠乏
・脳内神経伝達物質の不足:オレキシンは覚醒を維持する役割を持ち、その欠乏がナルコレプシーの主な原因とされています。
・自己免疫反応:免疫系が誤ってオレキシン産生細胞を攻撃することで起こる可能性があります。
2.遺伝的要因
・HLA遺伝子との関連:特定のHLA遺伝子を持つ人は、発症リスクが高まるとされています。
3.環境要因
・感染症やストレス:インフルエンザなどのウイルス感染や、精神的・身体的ストレスが誘因となることがあります。

診断
1.臨床評価
・詳細な問診:症状の出現時期、頻度、生活への影響を確認します。
・エプワース眠気尺度:日中の眠気の程度を評価するためのアンケートを実施します。
2.睡眠検査
ポリソムノグラフィー(PSG)
・夜間の睡眠状態を記録:脳波、眼球運動、筋電図、心拍数、呼吸などを測定します。
多項目睡眠潜時検査(MSLT)
・日中の眠気を客観的に評価:日中に数回の短い睡眠機会を設け、入眠までの時間とレム睡眠の出現を測定します。
3.脳脊髄液中オレキシン濃度の測定
・診断の補助:オレキシンの低下が確認されれば、診断の確定に有用です。
4.鑑別診断
・睡眠時無呼吸症候群:睡眠中の呼吸障害による日中の眠気との区別が必要です。
・うつ病:抑うつ状態による過眠症状との鑑別が重要です。
・他の睡眠障害:レストレスレッグス症候群や周期性四肢運動障害など。

治療と管理
1.薬物療法
過度の眠気に対する薬物
覚醒促進薬
・モダフィニル、アルモダフィニル:日中の眠気を軽減します。
・メチルフェニデート:中枢神経刺激薬で、注意力と覚醒度を向上させます。
カタプレキシー、睡眠麻痺、幻覚に対する薬物
抗うつ薬
・三環系抗うつ薬:クロミプラミンなどが効果的です。
・SSRI、SNRI:セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、症状を軽減します。
ナトリウムオキシベート
・夜間の睡眠の質を改善:カタプレキシーや日中の眠気を軽減します。
2.生活習慣の改善
規則的な睡眠スケジュール
・一定の就寝・起床時間を守ることで、体内時計を整えます。
計画的な昼寝
・短時間の昼寝を日中に取り入れることで、眠気を軽減します。
睡眠衛生の向上
・快適な睡眠環境を整え、カフェインやアルコールの摂取を控えます。
3.心理社会的サポート
カウンセリング
・ストレスや不安の軽減:心理的サポートにより、症状の悪化を防ぎます。
教育と啓発
・家族や職場への理解促進:周囲の理解と協力が、生活の質向上に重要です。

予後
症状の持続性
・慢性的な経過をたどることが多いですが、適切な治療により症状のコントロールが可能です。
生活の質の改善
・治療とサポートにより、学業や仕事でのパフォーマンスが向上します。

注意点
早期診断と治療の重要性
・専門医への相談:症状に気づいたら、早めに精神科医や睡眠専門医に相談してください。
薬物療法の副作用管理
・定期的な受診:薬の効果と副作用をモニタリングし、必要に応じて調整します。
安全対策
・運転や機械操作の制限:眠気が強い場合は、事故防止のために控えましょう。
自己判断の回避

原因
・正確な情報の取得:インターネット情報や自己診断に頼らず、専門的な評価を受けることが重要です。

ナルコレプシーは、日常生活に大きな影響を及ぼす可能性のある睡眠障害ですが、適切な診断と治療、そして生活習慣の改善により、症状のコントロールが可能です。専門医の指導のもとで治療を継続し、家族や職場のサポートを得ることで、生活の質を向上させることが期待できます。


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