鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia:IDA)とは?
鉄欠乏性貧血(IDA)は、鉄不足によってヘモグロビン(Hb)の合成が阻害される貧血の一種です。小球性低色素性貧血に分類され、骨髄ではヘモグロビン不足を補うために過形成が見られます。
鉄欠乏性貧血の疫学
日本では、鉄欠乏性貧血の罹患率は女性で約10〜20%、男性で約2%と推測されています。特に妊娠中や成長期の女性で多く見られる傾向があります。
鉄欠乏性貧血の原因
鉄欠乏性貧血の原因として、以下の3つの要因が挙げられます。
1.鉄の吸収低下
胃切除後や無胃酸症、偏食、萎縮性胃炎などによる鉄吸収不全が原因となる場合があります。
2.鉄の需要増加
成長期、妊娠、授乳期には体内の鉄需要が高まります。
3.鉄の過剰喪失
月経過多、子宮筋腫、慢性消化管出血(消化性潰瘍や痔など)が主な原因です。
病態生理
鉄欠乏が進行すると以下の順序で異常が発生します。
1.血清フェリチン(貯蔵鉄)の減少
2.血清鉄(トランスフェリン結合鉄)の低下
3.骨髄への鉄供給不足
4.ヘモグロビンとヘマトクリットの低下
主な症状
1.貧血による症状
・全身倦怠感
・めまい
・易疲労感
・顔面蒼白
・動悸、息切れ
2.組織鉄欠乏による症状
・舌乳頭萎縮や舌炎
・爪の変形(スプーン状爪)
・Plummer-Vinson症候群(嚥下障害、口角炎)
・異食症(氷や土を摂取する行動)
診断
血液検査のポイント
1.末梢血
・小球性低色素性、赤血球大小不同、奇形赤血球の確認。
2.鉄代謝検査
・血清鉄の低下、TIBC(総鉄結合能)の上昇、血清フェリチンの低下が特徴的。
治療法
1.原因の特定と除去
・子宮筋腫や慢性出血源を精査し、必要に応じて治療を行います。
2.鉄剤の投与
・経口鉄剤が基本ですが、吸収不良や副作用がある場合は静注鉄剤を使用します。
・経口鉄剤:血清フェリチンが正常化するまで継続投与。
・静注鉄剤:副作用(ショックやヘモジデローシス)に注意。
3.食事療法
・鉄分を豊富に含む食品(レバー、赤身肉、緑黄色野菜など)の摂取を促します。ヘム鉄(動物性鉄)は植物性鉄より吸収率が高いため、積極的に摂取すると効果的です。
鉄欠乏性貧血の注意点
・鉄剤投与後に貧血が改善しない場合、診断を見直す必要があります。慢性疾患に伴う貧血(ACD)との鑑別が重要です。
・H.pylori感染が原因で鉄剤不応性のケースもあるため、精査の上で除菌療法を検討します。
まとめ
鉄欠乏性貧血は、適切な診断と治療で改善が見込める疾患です。早期発見と治療が重要であり、原因検索や生活習慣の改善が必要です。貧血の症状が気になる場合は、医療機関での受診をおすすめします。
参考
・鉄分が多い食品:レバー、赤身肉、魚、穀類、緑黄色野菜
・食事の工夫や定期的な検査を通じて、貧血の予防に努めましょう!