短い船旅
おそらく海に居た、青い光が充ちていた。さらさらととろとろの合間みたいな質感の空気が、少しこわばりながら停滞している。 音を奏でると綻び、こわばりは音を絡め豊かに雪崩れて、ホールの隅々へと広がっていった。
ここは都会のはず、けれど人の濃すぎる匂いも、煩わしい喧騒も切り離されてしまったみたい。きちんと戻れるだろうか、戻りたくないような気もする。この思い起こせないのに懐かしい何かに抱かれて眠っていたい。ゆりかごに無抵抗にうずまる赤ん坊のような心地でいた。
音は風になって、私達の鼓膜を刺激する。この世界にそぐわない類いの、裸の魂から破裂する歌声に起こされ、悲しみも喜びも表層までたちのぼって、すべてが痛いほど光を求めて疼く。引き剥がされ、本来の輪郭をなぞりながら愛しさで浸され、びしょびしょに濡れた身体が重たくて、このまま沈んでしまいたいと思った。でも、もう帰らないと。きちんと来た道を辿って。
「きみが、うまれたなら、
珊瑚はゆりかご、
貝はシェルター、
海は目溜め、
かぜはうた、」
鳥はめざめて、少女の孤独を慰むように謳っていた。
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