家庭教師のアルバイト

大学1年の冬頃から、

その少し前から始めていた無料塾でのバイト(詳細は以下記事)と並行して、家庭教師のバイトを始めた。


家庭教師は、
無料塾と違って、
成績を上げなければならないという大きな責任感がある。

僕が今までバイトしていた無料塾の場合、基本的には自習ベース。
公民館で生徒が自習していて、質問が出れば答える。
勉強して成績を上げるというよりは
生徒の居場所づくりが目的なので
なんなら勉強せず雑談しているだけの時間も多い。
だから、こちらとしても気が楽だ。
だが、
家庭教師として家に行くのに
生徒の自習を見守って質問に5個くらい答えて
雑談して終了しているようではいけない。

成績を上げて、志望校合格に導いてやらなければならない。



はじめての授業

僕が初めて担当したのは、中学1年生の男の子だった。

週に1回2時間、数学と英語を教えてくれという依頼だった。

はじめて生徒宅に行った。
緊張した。
初回は私より先に塾の正社員が家に行き、保護者の方とお話をする。
そこに私が後から合流し、打ち合わせの後、生徒に勉強を教える。

私がドキドキしながら家に入ると、社員はケーキを食べていた。

「親御さんから食べ物や飲み物を出してもらえることがあるが、なるべく断るように」と研修で言われていたのだが、
初めて行った家で社員が思いっ切りケーキを頬張っている。

初回でまさかケーキをふるまわれるとは思わなかった。

ケーキを出してもらっておいて
「すみません、ご家庭での差し入れはご遠慮いただいてまして…」というわけにもいかないので、ケーキを食べながら今後の打ち合わせをした。

とにかく、来月の期末テストで良い点をとらなければならないらしい。
1学期のはじめはそこまで悪い点数ではなかったが、そこからどんどん点数が落ちている。
まだ中1なのに、学校の授業も何一つわかっていないみたいだ。

打ち合わせを終え、いよいよ生徒と2人で勉強。

教えてみてまず驚いたのは、生徒のノートの使い方。

新品のノートを開くと、
教科書のページ数も問題番号も何も書かず、
8行目くらいから式を書き始めた。

何故いきなり8行目から書き始めるのだろうか。
確かに私も「ノートは贅沢に使え」と教わってきたし、
無料塾でも生徒に対して
「そんな詰めて書くな。次の行に書きなさい」
「2行くらい、いいじゃないか。単元変わるんだからページ変えなさい」
などと指導したこともある。

しかし、いきなり8行目から書き始めるのは
贅沢にもほどがある。

しかも、いきなり「y=3x」と書いても、
どのページにある何の問題の答えなのかわからない。

彼は中1だが、小学校6年間、ノートの使い方を学ばなかったのだろうか。
問題を解くのをやめさせて、ノートの取り方の説明をした。

1行目の左から順に記述すること、
まずはページ数や問題番号、必要に応じて問題を解いた日付などを書く必要があること、
そうでないと自分がノートを見返したときに何もわからないということなどを説明した。

彼は私の話を頷きながら聞いて納得した様子であったが、
次の問題を解かせると、
今度はノートの右下に式を書き始めた。

「ストップ!ストップ!ストップ!え?どういうこと?」
私は慌てて止めた。

「左上から書けよって言ったじゃん。まず1問目のところにページ数書いて、(1)って書いて、その下にこの問題書くのよ。さっき言ったじゃん」

「そっかぁ~」

「そっかぁ~、じゃねえよ!」


「ノートはどこから使う?」
「左上〜。」
「じゃあ、なんで左上から使うの?」
私は彼に質問して、説明させた。
理解度を確認して、次に進んだ。

研修で散々
「先生側が説明した後、必ず生徒に説明させてください。それをするかどうかで理解度が大きく変わってきます」と何度も言われたが、
まさかノートの取り方まで説明させて理解度を確認しなければいけないとは思わなかった。


次の週、
彼は、私が課した宿題をルーズリーフに書いて持ってきた。
彼はルーズリーフを上下逆に使っていた。
上下逆でも文章を書く際に困りはしないが、
私から見ればページ番号や日付を書く欄、No._やdate__が
紙の一番下に逆向きに見えているのが気になって仕方がない。

そして、
途中式が書いていない。
「途中式書いてないけど、どういうこと?答え丸写しした?」と問い詰めると
「他の紙にやった」と言って、式だけ書いた別の紙を見せてくれた。

「なんで別の紙に書くの?」と聞くと
「ノートもったいないから」とのこと。

「結局別の紙に書いているわけだから合計の紙の量は変わらないじゃん。後から見直した時とかに分かりにくいし、そもそも別の紙に書くのも面倒なんだから、普通に1枚の紙に式から答えまで全部書きな。あと、紙の上下逆だよ」

ノートの使い方で教えることがこんなにたくさんあるとは思わなかった。


宿題をやってこない

中2のとある生徒は、全くやる気がない。
「次回までにワークの86〜90ページを解いてきて。」などと宿題を出すのだが、
やってこないことが多い。

「宿題、途中までしかやってないじゃないか!なんでやらなかったんだ!」
「いや、違うんですよ。間に合わなかったんです」
「1週間でワーク4ページやるだけだろ。なんで間に合わないんだ!」
「いや、違うんですよ。先生が来る15分前に始めて、間に合うと思ったんですけど、無理でした」
「なんで15分前に始めてるんだ!」
「いや、でも、5分だけ待って!マジであと5分あれば終わる」

そして、5分時間を取るが、結局10分待たされる。

「10分延長するからな!」と言って、
私は授業を10分延長する。
(もちろん親御さんに許可は取っている。)
夜8時に終わる予定だったが、8時10分まで延長。
10分延長しても、
私のもとに入ってくる給料は同じ。
これは、別に家庭教師センターが悪いわけではない。
正式に延長の申請をすれば給料をもらえないこともないだろうが、
きちんと宿題をやらせるのも家庭教師の役目なので、
その役目を果たせなかった私が悪いのだ。
だから、その10分は私に給料が発生してはならない。
むしろ、生徒への指導がきちんとできていないので減給されてもおかしくない。

宿題をやってきてほしいので、
私はこれまでいろんな工夫を施してきた。

私はいつも
小テストやワークの類題、教科書の穴埋めなどのプリントを作って持っていくのだが、
そこに
【○○さん用のプリント】などと、生徒の名前も書いて印刷した。
なんだか、自分のために作ってくれた感じがあって、
僕が生徒だったらちょっと嬉しい。
(実際は名前のところを書き換えるだけで、生徒数人に使い回すこともあるのだが。)

宿題となるプリントを渡すと、
まんまと引っかかって「俺用なの?」と聞いてきた。
僕は「そうね。生徒によって進み具合違うから、それぞれみんな違うプリントつくってるよ。だから、これは君だけのためのプリント。」と言った。
心なしか、嬉しそうな顔をしていた気がする。

翌週、彼の家に行くと
「先生、宿題のプリントどっか行った~」と言われた。

「やった?やってもない?」
「さっき、やろうと思って探したんですけど、なかったです」
「さっき?さっきって、いつ?」
「20分くらい前」
「だから、なんでそんなギリギリで始めようとするんだ!1週間あるんだから、もっと早くやれ!」


 

あるとき、
彼がとあるアニメが大好きだと知った。
キャラクターのグッズがたくさんある棚を見せてもらった。
僕は名前も聞いたことのないアニメだったが、
家で調べて、彼の好きなキャラクター達の画像をダウンロードし、
英語のプリントに貼り付けて印刷した。

吹き出しをうまく使って、英語の教科書の会話を、
アニメキャラクターがしているような感じにした。
(本当は権利の関係もあるので勝手にプリントを作るのは良くないが、まぁこのくらいは大目に見てほしい)

このプリントは好評だった。

生徒はきちんと宿題をやってくれた。

しかし、アニメキャラでプリントを作るのは
結構時間がかかるので、毎回はつくっていられないのが難点だ。


通知表

とある生徒は、
そこまで勉強が得意ではないものの、テストでは平均点くらい取れている。
それなのに、なぜか通知表が「2」。

家庭教師センターの社員に連絡しても
「このくらいの点数なら3が貰えるはず」とのこと。


提出物もちゃんと出させている。
返却されたノートを確認しても、普通の評価が貰えている。

特に不備があるわけではない。

テストも提出物も普通。
なのに通知表で3が取れない。
どういうことなのだろうか。


後日、小テストが大量にあることが発覚した。

私は
「小テストとかあったら、いつあるのか教えてね」と言ったはずだ。

彼は「ない」と答えたはずだ。

定期テストについては、
いつ何の科目があって範囲は教科書の何ページ、というプリントを
もらってくるので
それで確認すればいいが、
小テストは授業中に先生が口頭で告知、黒板に内容と日付を書く程度なので
生徒がちゃんとメモをして私に伝えてくれなければ
私は知りようがない。


「先生急に言ってくるもん」
「いや、抜き打ちテストとかじゃないでしょ?前もって告知してくれるでしょ?」
「でもそんなんちょっと言うだけでいつも急にやるし」
「ちょっと言ってくれてるんじゃん!ちゃんとメモして!いつ何のテストあるか教えて!」

彼はいつも小テストの日を把握していない。

いつも私が勉強を教えるときは
学校よりも少し遅れて復習ベースで教えていたが、
夏休みの間に学校よりも先回りして予習ベースに変更した。
学校よりも先回りしてしまえば、
小テストがある頃には
もうその単元は解けるようになっているはずだ、という算段。


彼はプリントをよく無くす。

小テストも、返却されているだろうに
いつも見せてくれない。
学校の授業で使うプリントもほとんど白紙で
「なんで上半分書いてないの?」
「無くして今日もう1枚もらったから」
ということが多い。

何日か経って、しわくちゃのプリントが発掘されたりして
気付けば同じプリントが3枚あったりする。


小テストだけでなく、
授業を振り返って自分なりにまとめて提出する課題や、
パフォーマンステストと呼ばれる口頭のテスト、
1人1台配られるChromeBook(パソコン)でつくるプレゼン資料の課題など、
いろんな課題があることが
数か月かけてわかってきた。

いま、中学校では
「定期試験ばっかりで成績をつけるのをやめよう」という取り組みがなされているらしい。

期末試験は100点満点だが
なぜか中間試験は50点満点で、
いつも不思議に思っていたのだが、
テストの成績における配分を減らすためなのだとわかった。

テスト以外も助けてやらないと
通知表を3にできないのは、
こちらとしては少々面倒だ。



説教されたくない

中3の受験生を担当している。
受験生なので、宿題も多めに出しているし、
授業ペースもはやめ。
復習が不十分だと、生徒を叱らざるを得ないことも多い。

ある日、
私は彼に怒った。
「どういうつもりだ。わざわざプリント作ってきてやったのに。ちゃんと前回ここで勉強した内容を覚えてるうちに解けばできたはずだろ。全く同じ問題を先週ここでできるようにしたじゃないか。テキトーに赤で答えだけ書いて何の意味がある。途中式も書いてないし。プリント無駄にするな。インク代返せ!」
彼は食い気味にこう言った。
「えーっと、3x+4y=6と、6x+7y=12だから…」


ある日、
私は彼に怒った。
「あのさぁ、何回言ったら覚えるの?ここ1か月、全く同じことやってるよね?理解できないわけじゃないでしょ?だって、ここでやってるときは、解けてるじゃん。できてるじゃん。終わった後サボらずに繰り返して復習すれば、絶対すぐに自分のものにできるじゃん。なんで1週間何もせず、またゼロからになるわけ?ずーーっと同じことして、進まなくて、時間勿体ない。なんで復習しようという志を持てないんだ?」
彼は言った。
「えーっと、 I want you to join our team…」


彼は、
自分に都合が悪くなると、次の問題を読み始める。

こっちが怒って問い詰めると、
いつもワークの次に解く問題の文章を音読し始めるのだ。



家庭教師を経験して

私はそんなに多くの生徒を見てきたわけではない。
家庭教師で担当したことのある人数は、まだ片手で数えられるほどだ。

無料塾は、生徒が固定ではないし
いろんな会場にヘルプで行ったりするので
多くの生徒と会えたが
家庭教師ではあまり多くの生徒は担当できない。

それでも、生徒はひとりひとり全く違う。
できること、できないこと、好きなこと、嫌いなこと、
みんな違う。

あの子に1回言ってすぐに伝わったことも、
別の子には10回説明しても理解してもらえなかったりする。

それは仕方のないことだ。

全然理解してもらえなくても、
「なんで分からないんだ!何度も説明してやってるのに!!」などとは言わない。

1度理解させたのに生徒側が復習を怠って完全に忘れた場合は
生徒が悪いので問い詰めるが、
そもそも理解してもらえない場合はこちらが悪いので、
理解してもらえるまで、契約の時間を多少過ぎても根気よく説明する。

わかってもらえた感じがしたので、似た問題を提示して
「はい、じゃぁこの問題どうやって解けばいい?」と生徒に聞いてみると
トンチンカンなことを言われて、
伝わってなかった!ということもあったりする。

生徒は基本的に、
こちらの説明を聞いて何もわかっていなくても
頷いてしまうし、
わかっていなくても「わかった?」と聞くと
「わかった」と言ってしまう。


全然テストの結果が良くなくて
「いや!でも、頑張ったって!努力は認めてほしい」
「いや!これは問題文の書き方が悪い!」
「ここの計算ミスさえなければ平均点取れてるから!」

言い訳が飛び出すことも多々ある。


勉強はあまり得意ではないかもしれないけれど、
生徒はみんな、ダメな奴じゃない。

素敵な子ばかりだ。

人間関係なんかを構築するのは、
私よりもよほどうまかったりする。

「先生、彼女と別れた~」と報告を受けた1か月後に
「先生、高校生の先輩と付き合った」と言われたこともある。

21歳になったのに、未だに彼女はおらず
マッチングアプリで何人もにブロックされ
誰からもメッセージの返信を貰えない私とは大違いだ。


普段は言い訳ばかりで生意気な奴だが、
「先生、お土産買ってきたよ!」と言って
修学旅行で私のためにお土産を買ってきてくれた子もいる。

可愛いとこあるじゃないか。


ふだん全然必要なプリントを持って帰ってこないくせに、
授業参観の案内のプリントを持ってきて
「先生、授業参観来てよ!」
と言ってくれた子もいる。

さすがに保護者でもなんでもないし
20歳そこそこの奴が1人で授業参観に紛れ込んでいたら変だし
そもそも平日の昼間なので大学に行かなければいけないし、
授業を観に行ってあげることはできなかったが、
来てほしいと思ってくれたことがとても嬉しい。


家庭教師として、
もちろん給与という形で金銭を受け取ってはいるが、
それ以上に私は生徒から
たくさんのエネルギーを受け取った。


私は人と人との対話というのは
魂・エネルギーの交換会だと思っている。

小学生や中学生は、エネルギーに満ち溢れている。

家庭教師としては、勉強のエネルギーをたくさん持っていてほしいところだが、
生徒の持つエネルギーは
友達と遊ぶためだったり、
彼女とデートするためのものだったりすることのほうが多い。

でも、みんな生命力がある。
エネルギーに満ち溢れている。

家庭教師として指導する短い時間のなかで、
生徒と存分に生命力を交換する。

生命力は内から湧き出てくるものだから、
与えたからといって無くなるものではない。

私はバイトを始めて間もない頃は、
「ごめんね!ちょっとキリ悪いしほとんど進んでないけど、時間来ちゃった…。続きはまた来週ね。」と言って
授業を決められた時間通りに切り上げていた。

しかし、途中から
親御さんの許可が下りる場合はキリの良いところまで
数分から数十分くらい延長するようになった。

定期試験前は、少しでも多く復習させてあげたくて
1時間延長したこともある。

もちろん延長ばかりして親御さんに金銭面で迷惑をかけるわけにもいかないので、サービス残業。

なぜお金が増えるわけでもないのに延長してしまうのだろうか。
延長したいと思えるのだろうか。

大学の知り合いで塾講師をしている奴がいるが
「生徒のためにわざわざプリント作ったりなんかしないし、延長も絶対しない。お前働きすぎ」と言っていた。

しばらく不思議に思っていたのだが、
私がサービス残業も苦ではないのは、
生徒からたくさんのエネルギーを受け取っているからだと気づいた。

お金は実体ではないのだ。
まるで実体であるかのように見えているだけである。
ちょうど最近、大学の教授もそのように言っていた。


生徒からエネルギーを、生命力を受け取るから、
私もそれに応えてエネルギーを与えよう与えようとするのだ。

生命力は内から湧き出てくるものだから、
与えたからといって無くなるものではない。

だから私は
給料が変わらなくても
授業を延長することもできるのだ。


人と人の対話、関わりというのはエネルギーの交換会である。

このことに気づけたのは大きな収穫だ。

危うく、今後就職して働いていくときに
お金だけに拘って
「この時間も給料払え!」
「1分でも残業したらお金!」
と言ってしまう人間になってしまうところだった。


たくさんの人間から生命力を受け取って、
それをきちんと相手に還元しよう、
自分からもたくさんの生命力を与えよう、
そういう心意気を持てる人間で居続けたいと思う。


大切なことに気づかせてくれた生徒たち、
心からありがとう。

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しゅんき
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