私のLINEを未読無視した美容師へ

昔は千円カットに行っていた。
理由は、千円だから。
美容院と比べるとかなりお安い。
それに、美容院では1時間くらいかかるのに比べ、
千円カットは15分くらいで切り終わる。
だが、よく考えると、
千円カットは予約の制度が無いせいで行列ができてしまい、休日は1時間近く待たされる。
これでは、待ち時間とカットの時間を合わせると美容院のほうが早い。

そして、千円カットは15分で切るだけあって、雑だ。

基本はハサミで、耳周りだけはバリカンで切られるのだが、
バリカンで耳まで切られたことがある。

散髪の途中で理容師が小声で
「あ、これが当たったんだ」と言って
私の耳をティッシュで拭き始めた。

私は耳が切れたことには気づいておらず、
その時は特に何とも思っていなかったが

家に帰って、母から
「あんた、耳から血出てるよ」と言われて初めて
「そういえば、アイツ、なんか『当たったんだ』とか言ってティッシュで耳拭いてたぞ!」と気づいたのだ。


そして、その後も何回か耳を切られるなどして、
大学生になったとき、
美容院に行こうと決めたのだ。


だが、美容院は高い。千円では済まない。

どうにか安くできないかと思っていると、
母が素敵なスマホアプリを紹介してくれた。
「minimo」というアプリ。

このアプリでは、
美容師の研修生がカットモデルやパーマモデルを募集している。
カットモデルと言うと聞こえが良いが、要は練習台だ。

お店の営業時間が終わったあと、
研修生が、練習台を使ってカットの練習をするのだ。

研修生なので、腕前は少し劣るかもしれないが、その分お安い。
人によっては、無料だ。

家の近所に無料でカットをしてくれるところを見つけたので、
行ってみることにした。

初めての美容院。

私を出迎えてくれたのは、
いかにも美容師らしい、
前髪を真ん中で分け、分け目の髪の毛数本だけを染めた、よく分からない染め方の若い男だった。

まず最初に
「後ろは?」「もみあげは?」など、事細かく髪型の注文を聞いてきてくれたのが新鮮だった。

いつもの床屋は
「眉出して、耳も出す?」と聞かれて
私が「ハイ」と答えたら
もう切り始めるのに。


美容師の男は、
ツーブロックにしようと言い出した。

高校生の頃までは校則違反になるのでツーブロックにしたことは無かったが、
大学生になった今なら、することができる。

私は、初めは断った。 
「ツーブロックは、人間として軽く見られるんですよね~。チャラい感じがして。だからやりたくないです。普通にこのまま短くしてほしいです。」

彼は、そんなことはないと否定してきた。

私がなぜツーブロックに関してこのような認識なのかというと、高校の頃私が信用していた英語の先生がそう言っていたからだ。
それに、中学や高校で禁止されるような髪型なのだから、良い髪型なわけがない。

彼は
「ツーブロックにしないと毛量が多すぎる。このまま短くするのは難しい」
などと、いかにツーブロックにしたいかを力説し、
最終的に「ツーブロック以外方法がないね」と締めくくった。

私は「いや、でもやりたくないです」と否定した。

だが、彼は負けじとヘアカタログのツーブロックの写真を見せ続けるので
最終的に
「ツーブロックにするが、他人が見たときにツーブロックだと分からないようにする」ということで合意した。

上から被せる髪を多めにして、ツーブロックだと分からないようにさえできれば、他人から軽い人間に見られる心配は無い。

そうして、ようやくカットが始まった。

美容師の彼は、髪の毛を切りながらも私とよく話してくれた。

千円カットのおっさんは、ずっと黙って切っているのに。

そして、切り終わると、
「長さとか量とか、こんな感じでいい?」などと聞いてもらい
「よし!まぁ、こんなもんだろ」と答えると、
その日は終了。

私は母から
「みんな研修生の人だけど、ちゃんと最後に店長が出てきて手直ししてくれるから、最終的な出来は大丈夫だよ」と聞いていたのだが、
私が切ってもらった彼は、カットが終わると店長を呼ぶことなく私を家に帰そうとした。

そういえば、周りを見渡しても彼以外に店員はいない。
私と新人の彼、2人きりだ。
店内にはBGMがかかっているが、
有線とかではなく、彼がスマホから曲を流しているだけだった。

「あの、店長とかちゃんとした人間に仕上げてもらいたいんだけど」と言い出すわけにもいかず、そのまま帰宅することにした。

帰り際、
「またカットしたくなったら、LINEしてね」と言われて
彼とLINEを交換した。

帰宅すると、私の髪を見た母が「もみあげが変」などと言ってきた。
私が床屋や美容院から帰ると、母は「○○が変」などと言ってくることが時々ある。
私はいつも、言われてもピンと来ない。
自分で鏡を見ても、髪型が変かどうかなど、わからない。

ツーブロックは人間として軽そうに見えるとか、
日本人なのに明るい色に髪を染めるのは似合わないとか
それくらいはわかるが、
「前髪のココがちょっと変」とか「もみあげのココが変」とかそういう細かいところは全く分からない。

店長の仕上げこそなかったが、私自身は出来に不満は特になかったため、今後も同じ彼にカットしてもらうことにした。


3か月後、彼に「またカットしてほしいです」とLINEして、
再びカットに行った。

店に入ると、前回と違い、たくさんの人がいた。

もうお店の営業は終わっているはずだが、
たくさんの人が居る。

お客さんと思われる人たちは、
多分私と同様にminimoで集められたカットモデルだろう。

何人かの新人たちが、練習で髪を切っている。

私が席に着き、彼に髪型の注文を伝えると、
ベテランらしきおじさんがやってきた。
多分店長だろう。

店長は彼に
「じゃあ、また設計図書いて~」などと指示した。

そして、彼は「ちょっと待ってね」と言い、設計図を書きに行った。
私の髪型をどうするか設計図を書かなければならないらしい。

これは後から聞いたのだが、
土曜日は営業終了後、店長がまとめて研修生たちの面倒を見る日になっているらしい。
私は前回は平日にカットをしてもらったが、今回は土曜日だ。
平日は彼が勝手に自主練でやっていたのだ。
だから店長の手直しもなかったのだ。



設計図を書き終わると、ようやくカット開始。

まだ2回目だが、彼は私が前回喋った話を結構覚えていた。

カットの途中、前回よりも話も盛り上がる。

「俺もねぇ、しゅんき君ほどじゃないけどお笑いは好きだから、M-1は3回戦の動画から見るよ」
「へ~!そうなんですね!結構ちゃんと見てるんですね」
「そうそうそうそうそう。あれ、誰だっけ?あのほら、○○のネタしてた…」


「しゅんき君はさ、あんまり何にも食べれないんだっけ?」
「あ~、そうです。よく覚えてますね。寿司とかダメですね。白ご飯を濡らすのが嫌いなんでね。卵かけご飯とかお茶漬けも絶対NGですね」
「白ご飯濡らすのダメって、聞いたことないけどね(笑)」
「逆に、なんか食べれないものとか無いんすか?」
「俺はね~、アツアツのご飯がダメなんだよね~。熱すぎるやつ。」
「どういうことですか?ちょっとフーフーするか待つかすればいいんじゃないんですか?」
「いや、みんなそう言うんだけどね?最初からちょうど食べやすい状態の温度で提供してほしいじゃん?すごいアツアツで出してきてさ、食べさせる気ないじゃん?」
「でも、やっぱり出来立てをすぐ提供するほうが良いんじゃないですか?」
「また分かってもらえなかった…。共感してくれた人、今までひとりもいないよ」

などと、楽しいトークを繰り広げた。

高校時代まで友達ゼロでほとんど喋らず生きてきた私は、
彼と喋るのが楽しかった。
美容師は、髪を切り終わるまでずっと話し相手になってくれる。
中学や高校の知人なんて、3分も話せば飽きてどこかへ行ってしまうのに。
長い時間私の話を聞いてもらえるのが、とにかく嬉しい。楽しい。
私は最近就活していて面接を何度か受けたが、楽しかった。
面接官が私の話をたくさん聞いてくれるし、興味ありげにいろいろ聞き出してくれるから。
雑誌やWebメディアのインタビューを受けたことが数回あるが、それも楽しかった。
記者が私の話をたくさん聞いてくれるし、興味ありげにいろいろ聞き出してくれるから。


カットが終わると、今回は店長のチェックが入る。

彼が店長を呼ぶ。

「どれどれ~?」店長がやってきて、
私の髪を切りながら彼にダメ出しをする。

「なんでココ切ってあげないの」
「あぁ…そこは…ああ…そうですね…」
「ここグラでやった?」(グラ は髪の切り方を表す専門用語らしい)
「はい..そうですね…」
「これは○〇でやってあげないと、ホラ。見て?ココ。」(〇〇は専門用語。なんて言ってたか忘れた)
「そう..ですね…はい…」

結構詰められている。

つい5分前まで私と軽快なトークを繰り広げていたのに。

美容師界の厳しさを感じた。

そして、結果、かなり修正された。

店長にハサミで結構カットされたが、
私から見れば、
修正前と修正後で何が変わったのか分からなかった。

どうせ家に帰ったらすぐシャワーを浴びるのに
髪型を無駄にワックスでセットされ、写真を撮られ、終了。
(セットも美容師の研修のうちだ。セットしたあと、セットまで手直しが入っていた。)


その後も毎回、同じ彼にカットを頼み続けた。

私は平日に予約するようにした。

土曜日に頼めば店長に直してもらえるが、
私には直す前と後の違いが分からなかったし、
余計に時間を取られるので
美容師の彼の腕前を信用することにした。


私の散髪は3ヵ月に1度くらい。

毎回彼にお願いして切ってもらった。


そして、2年以上が経った。

ある日のこと。

私が散髪から帰ると、母が言った。
「最近はどこで切ってもらってるの?」

私は答えた。
「え?いつもの人だよ。前からずっと同じ人にやってもらってるよ」

母は言う。
「まだやってるの!?あの人、いつになったら自立するの?もう何年やってる…?3年は超えてるよね?」

そういえば、以前聞いたのだが、
私が今カットしてもらっている研修生の彼は、
私がカットしてもらうようになる前、毛染めの研修をしていて
そのとき私の母の白髪染めをしたことがあるらしい。

家の近所なので、母もminimoで見つけて白髪染めをお願いしていたのだ。

そのときから考えると、彼はかれこれ5年近く研修していることになる。

確かに、彼はいつになったら一人前になれるのだろうか。


いつまでも自立できず研修生、彼、大丈夫かな。。。
そんなことを思いつつも、また次も彼にカットをお願いした。

営業終了後の夜19時に約束した。

私は最近、家庭教師や塾のバイトでほとんど夜が空いていない。
一方、大学の授業はもうほとんど終わっているので、
美容院営業時間中である平日の昼間のほうが空いている。

昼間は普通に有料で来ているお客さんたちがいるので、カットしてもらうことはできない。営業終了後の夜しか無理だ。

夜なかなか時間が取れず、スケジュールを合わせるのが大変だった。

でも、思い返してみると、
そういえば今までで1度だけ、昼間に切ってもらったことがある。
何曜日だったか忘れたが、平日に定休日が1日あって、その日に切ってもらった。

また、平日の昼間に切ってもらいたい。

そう思い、私はカットの途中、彼に聞いた。
「最近夜がなかなか空いてなくて。。昼間とかカットいけないっすか?」

彼は言った。
「いつも夜しか来ないじゃん(笑)」

????

意味がよくわからなかった。


話を聞いてみると、衝撃の事実が発覚した。

なんと彼は、もう一人前になっていて、
昼間は普通にお客さんからお金を取ってカットしているらしい。

知らなかった。。

昼に頼めば有料で普通にお客さんとして営業時間中にカットしてくれるらしい。

彼は私を昼間の有料のカットに誘ってきた。

「昼間だったらもっと丁寧にやるよ~。終わった後帰るときに、店員みんなで”お疲れさまでした~”って言うし」
「いやいや、今みたいな感じで充分ですよ(笑)。」
「お金払えるから、推しに課金できるよ!」
「いや、しなくていい!別に推しじゃないし!俺、推し美容師とかいないですよ。なんですか、美容師で推しって!そんなのないでしょ。タダで良いならタダの方が良い!絶対!」
「えぇ~?推しじゃないの~?」
「美容師に推しとかないですから!」
「ドリンクも貰えるよ」
「別にいらないですよドリンク!(笑)飲むタイミングなさそうですし」
「持って帰れるよ」
「いらないいらない(笑)。家すぐそこなんだから、帰ったら冷蔵庫に何か入ってますし」

有料で昼間に来店するメリットといえば、
・いつもより気合い入れて切ってもらえる
・推しに課金できる
・お疲れさまでした〜って言ってもらえる
・ドリンクがもらえる
くらいだった。

いくら推し活を楽しんでいる私といえども、美容師を推すという概念はない。
最近は何でも「推し」という風潮がある。
私のバイト先で塾の生徒に
「先生は中学の時、推しの先生いました?」と聞かれたことがある。

最近の中学生女子は、学校に推しの先生がいるらしい。
廊下で見かけたりすれ違うときに手を振るのが推し活らしい。
それで学校生活が少しでも楽しくなったり、学校に行くモチベーションになるのなら、学校で先生を推すのも良いかもしれない。
私は、塾で推してもらえる先生に慣れるように頑張ろうと思う。

それはさておき、
私は美容師の彼を推してはいない。

私は、これからも夜に無料で切ってもらおうと思った。

昼間に来ることをちょっと勧められただけであって、
もう夜にタダではやってあげないぞと言われたわけではない。

そもそも私が「昼間とかカットいけないっすか?」と聞き出さなければこの話がされることはなかったはずだ。

別に、課金しなければいけないなんて言われていない。



そして、つい先日。

私はいつも通り、
彼にカットをお願いするLINEを送った。

「今月○日~△日の間で、また夜にカットお願いします。」

いつも返事が素早い彼だが、今回は珍しく、なかなか既読が付かない。

3日経っても、4日経っても読まない。

大人がそんなにケータイを見ないことがあるだろうか。

そんなにLINEを見ないことがあるだろうか。

私は焦った。

私は最近就活をしていて、数日後に面接がある。
面接の前に髪を切らなければならない。

こんなに髪が伸びた状態で面接に行けば、印象はダダ下がりだ。

面接まで、残り1週間。
この1週間の間に、絶対に髪を切らなければならない。

早く返事が欲しい。

昼間に有料でやりたいなら、きちんとそう言ってほしい。
私は母も一緒に家族ぐるみで
彼の研修生時代の練習台になってあげたのだから、
その恩でもうしばらくタダでやってくれてもいいような気もするが、
自立したならお金を取りたいという思いも分かるし、それはごもっともだ。

minimoで代わりの美容師を探したが、なかなか無料で良い人が居ない。
ロングヘアーの女性しか募集していなかったり、3cm以上カットしなければいけなかったり、いろいろな条件がある。


私は母に相談してみた。
「いつもの美容師のアイツ、何日経ってもLINE読まないんだけど!!面接の前に髪切りたいのに!!」

母が言った。
「私、明後日、切りに行くから、その人にちょっと聞いてみるわ!」


そして、
母が切ってもらっている新人の男の子が、私の髪も切ってくれることになった。

そして、私は未読無視する彼にLINEで
「別の人に頼みました。」
とだけ書いて送信した。


10分後、

「ごめんねー!!全然見れてなかった!またお願いします」
と返ってきた。


カットをお願いしたら何日も無視され、
別の人に頼んだ瞬間返事が来る。

これは、どういうことだろうか。

2つの可能性がある。

①前回のLINEだけを本当に偶然見逃してた。
②もうタダで髪切るのは嫌だから未読無視してた。昼間に有料でやってるって説明したのだから、今後は昼間に来るべきだ。私が別の人に頼んで、自分が切らなくて良くなったから、一応社交辞令的に返事を返した。


今までの私なら、①しか考えなかった。
②のような 捻くれた考えなど、頭に思い浮かぶことすらなかっただろう。

だが、なぜか今回は
「もしかしたら、もうタダで営業時間外にやるの嫌なのかもな…」
「またお願いしますって書いてあるけど、本当はもう来ないでほしいのかもな…」とも思った。


前に私が吉本興業の社員にライブ後に呼び止められて誓約書を書かされて、最後に
「ぜひまたライブお越しください」と言われて
「当然私は行く権利がある、またお越しくださいと言われたのだから。」ということをnoteに書いたとき、
「社交辞令に決まってる!!また来てほしいわけない!!」
「そのまま受け取るな!!」ということを言ってきた人たちがいた。

その後も私のnoteやTwitterに、
「言葉を自分の良いように受け取りすぎ!!」などと意見が来ることがあった。

そういった皆さんの意見を私は頭の片隅に貯め続け、
結果今回、
「これは、本当はもう来てほしくないのでは?」という考えが浮かぶようになったのだと思う。


とりあえず、今回は
母がカットしてもらっているという新人さんに切ってもらわなければならない。

当日、私は車で店に向かった。

店に着くと、迎えてくれたのは、
光沢のついた感じの黒の大理石みたいなデザインのジャケットを羽織った、
ちょっとだけ髪を紫に染めている若い男だった。

私は、ジャケットの感じがすごく嫌いだった。

あんなジャケット、どこで買ったんだろう。

いくつラインナップがあるなかから、あのジャケットをわざわざ選んで買ったのだろう。

髪の毛の紫も嫌だ。

まぁ、美容師なので多少カッコつけているのは仕方ない。

席に着き、髪型の注文を聞かれる。

注文は面倒くさい。
いつもの彼なら、もう何度も切っているので、
「いつもの感じでいい?」と言われて「そうね~」と返すだけで切ってもらえる。

髪型の注文をうまく伝えるのは、難しい。

なんとか頑張って注文する。

「面接あるから、あんまりチャラそうなカッコつけた感じにはしたくないんですよね。前髪は眉毛出して、横は大体いつもツーブロックにしてるんだけど、…」などと注文していると、
衝撃の事実が発覚した。

なんと、この新人美容師、
メンズのカットモデルは募集していなかった。

レディースしか募集していないらしい。

「この前お母さんに、息子が面接あるからどうしてもすぐ切らなきゃいけないからって頼まれて…まぁ、練習モデルとしてなら、って言っただけなんですけど…」などと言い出した。

そしてこの新人、バリカンが使えないらしい。

いつもの隠しツーブロックができない。

仕方ないので、ハサミでできる範疇で耳回りもスッキリさせてもらうことにした。

あぁ、いつもの彼がよかった。

いつもの彼が恋しい。

新人は、カットの注文を聞き終えると、まずシャンプーに誘導してきた。

いつもの彼の場合は、大体まずカットをしてしまってからシャンプーをして、髪を乾かして最後にちょっと前髪などを調整して終了する。

この新人は、切る前にシャンプーをする派らしい。

新人、シャンプーは上手だった。

久しぶりに美容院でシャンプーを受けた感じがする。

なぜだろう。

そうだ。
前回いつもの彼に切ってもらった時は、
彼が「シャンプー、しなくてもいい?ちょっとめんどくさくなってきちゃった…」と言い出したので
「いいよ。どうせ帰ったらシャワー浴びるし」と言って
「え?本当にいい??いいの?」と言われつつもシャンプーを本当に断って、シャンプーなしで帰ったんだった。

あぁ、いつもの彼が恋しい。

もう彼とは友達のような感じになっている。
シャンプーがめんどくさいときは、「しなくていいよ」と言ってあげる。

カットの途中で彼の電話が鳴り、結構な時間放置されたときも全然許した。

彼はカットの途中、ちょいちょいスマホをみる。
彼は「ちょっとごめん」と言ってスマホを確認する。
そして、スマホを持って店のどこか奥へ消えていってしまう。

そういえば以前、シャンプーのあと、
私の髪がびしょ濡れの状態で、
彼はスマホを見て「あ、ごめん!ちょっと待ってて!あ、自分で乾かす?」と言って
ドライヤーの電源を入れ、それを私に持たせて、どこかへ行ってしまったこともあった。

ドライヤーを渡されて放置された私は、仕方なく自分で髪を乾かした。

懐かしい。

人の髪を切ったりドライヤーしなければいけないときにもスマホをチェックするような彼だから、やっぱり何日も既読が付かなかったのはおかしい。。

そんなことを思い出しながら、私は新人のシャンプーを受けた。

シャンプーを終えて、カット開始。

新人、鼻息が荒い。

開始3分で、くしを落とした。

途中で、
「難しい…」
「いや~~、できるよ?できるけどねぇ、難しいよね」などと言い出した。

「お母さんとかだったらね、全然余裕でいけるんだけどね…」
「うまい人のところ行ったほうが良いかもしれない…」
と、とにかく自信がなさそう。

美容師が切りながらそんなことを言うなんて、信じられない。

「いや、大丈夫大丈夫!最悪、変じゃなきゃ良いから」と、私も動揺しつつ必死のフォロー。

「いやまぁ、変にはならないから。できるのはできるから。”最悪”とかやめてほしいけどね?」と言われ、フォロー不発。

こちらからすれば、
切りながら「うまい人のところ行ったほうが良いかもしれない…」などと言うのをやめてほしいのだが。


いつもの彼のような余裕は全くないので、偏食の話とかお笑いの話など全くできず、基本黙ったまま、
時々「大丈夫?」「カッコよくしてっていうのは多いけど、カッコつけない感じがいいっていうのは難しい…」などの会話があるだけ。

私も髪型の細かいことはわからないので、「僕もね、うまいとか下手とかわからないし、どんな髪型が自分に似合うかも分からないし、うーん。。あんまり細かく頼めなくてねえ。ごめんなさいね。お母さんは結構できあがりに指摘してきたりするんだけどねぇ」などと言い、
お互い自信のない、ふわふわした感じでなんとなくカットが進んでいった。

最後のチェックのとき、
「耳回りもうちょっとスッキリできない?いつも刈ってるから、それになるべく近づけたいんだよね。ツーブロックと同じにしろとは言わないけど。ハサミでできる範囲でいいから」と言うと
「それがどれだけ難しいか知らんでしょぉ~」と言われた。
それでも渋々もうちょっとカットしてくれた。

そして、切り終わると
「こんな感じで大丈夫ですか?」と聞かれ、
「そうね。まぁ、こんなもんだろ」と言うと
「俺お客さんに『まぁこんなもんだろ』なんて初めて言われたわwwwww」と、新人はめちゃくちゃウケていた。

いつもの彼には毎回「まぁ、こんなもんか!」「こんなもんだろ」と言っているが、特に何も言われたことは無い。

今思うと、もしかしたら新人は
自分のカットの腕前に対して「まぁ、こんなもんだろ」と言われたと勘違いしたのか?

私は髪の長さや量に対して「このくらいかな」という意味で言ったのだ。

「お前のカットは、まぁこんなもんだろうな。この程度で妥協するか」という意味で言ったわけではない。

髪の長さとか量への質問をされているわけだから、
急に美容師の力量の話をするわけがない。

流石に勘違いされるわけはないか??


新人に「いやぁ~、マジで面接頑張ってください。ホント、これで落ちたら俺のせいだからなぁ~..」と言われ、
「がんばってきます!すみません。本来受け付けてないのにやっていただいて、ありがとうございました。ご迷惑おかけしました」と言って帰宅した。

帰ってから、新人に申し訳ないことをしたかなと思った。

受け付けてもないのに無理やりカットをお願いしていたうえ、

ハサミだけでツーブロックぐらい短くしろという無茶な要求をしたうえ、

頑張ってもらったのに「ま、こんなもんか」と言って帰ってきてしまった。


もう、次からこの人に頼むのはやめよう。

いつもの彼にまた頼みたい。



私のLINEを未読無視した美容師へ

あなた以外の美容師に切ってもらったことがなかった。
だから、私には、あなたが良いのか悪いのか判断できなかった。
他と比較できないから。
というか、特に考えていなかった。
なんとなく、伸びてきたから髪を切ってもらう、それだけで、
どの美容師が良いなどと考えていなかった。

私は今回、気づいた。

あなたは私にとって、推し美容師だということに。

本当は、タダでやってもらえたら嬉しいけれど、
推しのためにも、必要なら課金しようと思う。

推しに課金したいので、またカットお願いします。