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小説:54歳マイクエで奇跡をみた【6-前編】「呪い」がいよいよ明かされる。

第1話はこちらから

54歳マイクエで奇跡をみた【登場人物】

シュン 主人公  54歳独身 サラリーマン
クトー 旅の仲間 小中学生のラグビーコーチ
アンリ 旅の仲間 心理カウンセラー
ホリアーティ 旅の仲間 占い師
ナスちゃん 旅の仲間 看護士
ニバミン 旅の仲間 ダイエット指導者
神林(株)ゴールデン•スパイラル 開発担当
千川部長 シュンの出向先の元上司
籠井先生 シュンの小学校の恩師(担任)
平山先生 シュンの中学校の恩師(陸上部顧問)
魂の指南役 正体不明
少年 シュンの小学生時代
片次 シュンの描く漫画の主人公
もやい様 片次の旅仲間

【呪い-前編】

6:30、目覚まし代わりのラジオがなる。ラジオ英会話の放送が設定されている。4年ほど前、食事会で国際結婚しているカップルが同席して、「ヤキニク」屋で英語と日本が飛び交う不思議な会話を目の当たりにした。カルチャーショックを受け、翌日、本屋へ英会話の本を探しに出かけた。カッコつけていうと、異文化と交流をしてみたい。平凡な生活を一変させるには、いいアイデアだと思った。彼らは県外に住んでいたが、僕の英会話学習にも理解をしめしてくれて、次も一緒に食事会とお誘いまでしてくれた。しかし、まもなくコロナウィルス感染拡大により、食事会はおろか、県外移動も難しくなった。月日を追うごとに英会話学習のモチベーションはすっかり下がってしまった。

自分を変えたい、その思いだけがくすぶっている。
しかし、変化そのものに対し、現在は混乱している。実際は少々、憂鬱だ。先日来のオズウェイでの出来事、つまりは自分の脳内で考えていること、人から見るとただの「妄想」が適切だろう。どうだっていいが、不安が具現化して襲ってくるのだ。事務局の神林さんからはその後連絡もない。さらには深堀りも加わって、嫌な意味で「限界を突破する冒険」の臨場感高まっているのだ。だからといって、今度ばかりは英会話学習のように辞めるわけにはいかない。そのためにセミナーに参加したのだ。

CDGをつけた。グランドメッセージをのぞきこんだが、これま以上にエネルギーに満ち溢れていた。 仲間の一人が作曲コンテストに応募していて、いいところまでいってるしい。それをみんなで応援しよう!とコメントが踊っていた。僕もそれに「いいね」をつけた。夢を追う!希望溢れている。ドリーム•スクラップの講座を受講するまで忘れていた気持ちだ。
でも一方でアンリさんの言葉が頭をよぎる。「エネルギーヴァンパイアは現実にも存在するし、あなたの心の中にもいる。 実際、あなたは人生の大半、夢を見るなんて無縁だと、自分に言い聞かせてきた。違う?」
そうだ。他人事でも、夢を追うのが素敵だなんて、僕にはなかった感覚だ。せいぜい夢を叶えた成功者への妬みくらいなもんだ。おめでとうと、素直に言えたことがどれくらいあっただろう。本物のアンリさんの書き込みを探した。「アンリです。なんか毎日へとへと。ワークすすんでなーい。みなさまどーされてるのかしら?☆★☆彡」
オズウェイの中での毅然としたアンリさんはどこだ。まるで別人だ。オズウェイの彼女は僕の妄想が作った人だもの。

僕は両親や学校の先生のいうことが正しいと疑問をはさまない価値観で幼少期から過ごしてきたことは事実だ。震え上がるような家庭環境で育ってきてないが、ルールを重んじた。一言で言うならマジメだ。だから、夢をみるのがバカバカしいだなんて、酷いことを言われた記憶はない。となると、いつ自分は自分を否定するような考えにたどりついたのだ?ホリアーティも、神林さんも妙なことを言ってた。
「自分を傷つけたことがないか?」思い当たることがなき。僕は目を閉じ、深い呼吸をして、オズウェイに問いかけてみた。

意外に早くリアクションが返ってきた。
「いわゆる深堀りよ。自分の感情を分析していくいい機会じゃない。シュンくん。」
目を開けて、声のする方を見た。隣にはホリアーティがいた。全身灰色のマントに身を包み、口元はしっかり覆われている。首元から胸にかけて、ネックレスが玉虫色に常に色が変化している。目の輝きも合わさって怪しさ満点だ。あくまでいい意味で。彼女だけじゃない。アンリさんとクトーくんもいる。アンリさんは大丈夫なのか?へとへとでワークもすすんでないと弱音をグランドメッセージに投稿していたのに。それにクトーくんはモンスターじゃなく本物なのか?本物って何だ。ここは僕のイメージが作った世界オズウェイだ。現実と妄想がごっちゃになっている。イカン、イカン。
とはいえ、三人ともゲームのキャラクターのような明らかに非日常なコスチュームを着用しており、みようによっては、まるでRPGのようなパーティーじゃないか。惚れ惚れした気持ちになる。

「で、シュンさん、ここはどこ?」

とアンリさんに聞かれた。ん?と周囲を見渡した。建物の中にいるのは確かだ。しかし分からなかった。僕の作った妄想なのに。かなり古るそうな建物の中だ。そもそも木造なのだ。天井も壁も床も木だ。どちらかとといえば日本。いや間違いなく日本。どこかの施設だろうか?
「ここは学校じゃねーの。廃校してるようには見えないけど。床でギシギシ音を立てるところもあるけど、オラの実家より造りがいいわ。ギャハハハ」
クトーくんが大笑いした。アンリさんもホリアーティも警戒がとけたようだ。クトーくんのこういうところがホントに好きだ。気持ちが前向きになる。

「ちょっとやだ!」
と先を廊下をすすんでいたアンリさんが声をあげる。壁にかかった張り紙か何かを注意深く見ている。
「昭和54年の学級新聞だって。私の高校入学の年じゃん。ヤバい~ヤバいって。」
「オラまだ生まれてないから、よくわかんね。」
とクトーくんが続ける。
「私はノーコメント」
とホリアーティも会話に参加した。さて、僕はと考えた時だ。一気に記憶が甦る。思い出した。ここはかつて僕が通っていた小学校の旧校舎だ。この先には職員室があるはずだ。僕は小学校を四年生から変わった。転校のようでそうじゃない。大きくなったので、分裂することになり、近くに学校ができた方に移ったのだ。ここは分裂前の3年生までいた小学校。3年の時の担任は籠井先生だ。年配の男性の先生で、授業のとき、小説を読み聞かせてくれたのは忘れもしない。江戸川乱歩の少年探偵団や、横溝正史の白蝋仮面等。かいつまんで読み聞かせくれた。学校での楽しみの一つだった。ただし、教室のみんなが静かにしーんとしてないとダメなのだ。マジメな僕には簡単なことだ。籠井先生、元気かな~。

チガう!

急に全身の毛が逆立つようにして僕に教えてくれた。軽くめまいに襲われた。交換神経が刺激され、副腎髄質からアドレナリンが大量に分泌されている。明らかに頭で考えるより身体が先に反応したのが分かった。懐かしいとか言ってる日の思い出などではない。壁がすけて見える。職員室の中には幼い日の僕がいる。隣には穏やかな表情の籠井先生だ。
辞めさせなくては!と同時に僕は走り出していた。
「シュン!どうした!?」
「止めるんだ!みんな一緒にあの子を止めてくれぇ!」

職員室に顔を出すのは、ケンカが始まった時に先生を呼びに行くときだけだ。呼びに行くのはほとんど女子や委員長だからなおさらボクが入ることはない。だから、この引き戸を開けて中に入るのはなかなか緊張した。
「先生、どうやったら、友達ができますか?」
ボクは勇気をふりしぼって聞いた。籠井先生は何でも相談していいと自ら言ってくれたが、友達ができない悩みなんて恥ずかしい。笑われたりしないかな?ボクの学年は10組以上もクラスがある。だけど1、2年で仲良くしていた岩川くんとか誰一人と同じクラスにいなくても寂しい。籠井先生ならどうにかしてくれる。

かつての僕は素直な思いを先生に伝えている。実家のある団地でもそうだったし、半世紀生きてきた今もそうだ。友達を作るのは本当に僕にとって大変なことなのだ。決して社交的な性格ではない。集団の一員のフリ、一人で大丈夫なフリができるだけだ。当時の僕はまだ自分が何者かも分かっていない。とにかく、逃げずに問題に向き合い、どうにかしようと頑張っているのだ。すごい。
籠井先生は「シュンくんは絵を描くのが好きなら、それをみせて友達になってみるのはどうだろう?」と、僕向けの提案を温かみのある笑顔でゆっくり示してくれた。幼い僕は大きくうなづき、何の疑いもなく受け入れている。

ダメだ!思わず見入ってしまったが、そうしている場合じゃないのだ。現在の自分は未来を知っている。普通一般なら好きなことをきっかけに友達を作るのは。いい手段だと思う。しかし、当時の僕は相手にもしてもらえず、まもなく心に深い傷を負うのだ。引っ込み思案で友達が少ない、対人免疫の少ないからだ。未来の僕だから言えることだ。
「何もかもダメになってしまう!やめるんだ!」

職員室の扉まで、1メートルの距離にまで来たときだ。
何かが僕らをさえぎった。
「ご主人様といえど、あの子に語りかけてはなりません。これから大事な儀式を行うところなのです。ここよりご覧ください。」
さえぎったもの、それは見たことない人、いや人じゃない。大きなコピー用紙を人型で切り抜いた形をしていて、正面から見ると、形にあわせた映像が写し出されたようなと表現すれば伝わるだろうか、側面からみると文字通り紙のような薄さだ。それが波打ちながら立って、僕たちの前にふさがっている。

敵、その理解で十分だ。

クトーくんが一歩前に歩みでた。
「こういう丁寧な口調のヤツって、弱そうに見えても、ドラマだと中ボス以上の強さなんだよな。さて、どーするかな。」
軽口を叩きながらも腰を屈めて戦闘モードに入っているのが伝わってくる。敵から視線はそらさず、僕に問いかけてきた。
「先に行かなきゃいけないんだよな!シュン」
僕はうなずいただけが、でも返事が伝わったかのように、クトーくんは背中から薙刀のような武器を取り出し、それを回転させながら力任せに振り下ろした。鋼鉄の刃と敵がぶつかったとき、凄まじい金属音が炸裂し、僕らも一瞬耳が聞こえなくなりそうだった。しかし、立ちどまってはいない。
「いまだ!」
僕らはクトーくんを盾とするように、廊下側へ迂回し、職員室の後ろ側の入り口を目指した。

《7-後編へつづく》

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