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小説:54歳マイクエで奇跡をみた【13】失敗するのは他人のせいだと、決めつけることで、自分を本能的に守ったんだ。でもツラい決断だ。

54歳マイクエで奇跡をみた【登場人物】

シュン 主人公  54歳独身 サラリーマン
クトー 旅の仲間 小中学生のラグビーコーチ
アンリ 旅の仲間 心理カウンセラー
ホリアーティ 旅の仲間 占い師
ナスちゃん 旅の仲間 看護士
ニバミン 旅の仲間 ダイエット指導者
神林(株)ゴールデン•スパイラル 開発担当
千川部長 シュンの出向先の元上司
籠井先生 シュンの小学校の担任
平山先生 シュンの中学校の陸上部顧問
魂の指南役 正体不明
少年 シュンの小学生時代
片次 シュンの描く漫画の主人公
もやい様 片次の旅仲間

【決意】

大量の熱エネルギー砲を浴びて、僕の身体も意識も遠のいていく。営業を終えた遊園地が思い浮かんだ。

ワクワクすることが夢の原動力?
チガウ。

楽しいアトラクションも絶叫マシンも全て来園者の輝く笑顔や楽しそうな笑い声、夢をエネルギーに動いているのではない。化石燃料から得られた力を変えた電力があって動くのだ。この旅の日々はなんだったのだろうと思う。忘れ切っていた過去の傷を発掘し、大きくえぐっただけだった。現実の有り様を理解した気がした。そうだろう。50年の人生を真っ向から自身で否定した力はあまりに強大だった。幼いころの決断の強さを前に、今自分が考えうる幸せ、いかなる希望も全く歯が立たない。僕はダメだ。そういえば、セミナー講師が言ってた。『ダメな自分がいますよね。それをとことん味わってください。』と。
教わった時は意味がわからなかった。ダメな自分を味わうって、どういうことだと。これなんだろう。絶望でもあり、心の中の虚無。言葉で表現しようとしたが、言葉も出てこない。で、うまくできない。。。いや、できなくていい。もうどうでもいい。

思考停止。

気がついて、最初に目にしたのは、リビングの壁にかかった時計だ。ちょうど18時をすぎたところだった。何時間呆然としていたのだろうか。CDGをかけてはいたが、何も反応がない。みるとバッテリーが切れていた。
窓ガラスに自分が写っている。もう何日も寝てないような顔つきだ。こんな顔も性格も考え方もキライだ。でも、他人が僕の人生を歩んでくれるわけでもない。だから、曲がりなりにも、上を向いて生きようとしてきたつもりだ。ヤツが言ったとおり、自分の感情を心の奥底に閉じ込めて、人生を選択してきた。進学も就職も。自分に嘘をついてきた。紛れもない事実だ。でも、どうしてもわからない。自分はこれほどまでに自分を許せないと呪うまでに決意できたのか、僕はむしろ被害者だ。ソファに横たわっても、変な考えばかりがよぎり、くつろぐこともできない。仕方なく散歩に出た。

出発した時はどんよりした曇り空だったが、図書館あたりまで来た頃には、小雨がちらついてきた。傘を忘れた。何時だろうか、スマホをおいてきた。ただもう暗い。こんなところまで来る予定はなかった。ぼんやりしすぎだろと、自分に突っ込む。

図書館には時々通う。本がたくさんある景色そして独特の臭い。それだけで人類の叡知に包まれ、知的好奇心が満たされるからだ。営業時間外ですでに閉ざされた入口。 こども向けの企画展示のチラシが貼ってある。
「神さまっているの?」と題されたものだ。 古今東西の神様、宗教の本が集められるらしい。 最近の情報だと量子力学の本も一緒に並ぶらしい。
「神様・・・か。神様!いるのはわかってる!」 僕はつぶやいた。
周囲は自動車の往来だけ。しっかり周囲を確認してもう一度言った。今度はボリュームをあげた。
ツラい感情を感じるがじわじわと全身にひろがってくる。それを打ち消すように強い叫んだ。
「あーーーーーーっ!」
そして続けた。
「神様!助けてよ!」
「神様!どうにもできない!」
「神様!助けてよ。助けろよ!」
「バカやろーーーーっ」
誰へのものかわからない怒りをさけぶ。何度も何度も何度も。
しばらくその場にたちつくした。幼い頃、家族と出かけてはよく迷子になった。迷子センターにさえたどり着けば、必ず両親が迎えに来てくれるを知っていたからだ。でも、迷子センターもなければ、両親も迎えにきてはくれない。頬に熱いものをかんじる。出せる言葉がなかった。自分は何も変わらない。つまらない中で朽ち果てていくのだ。次第に怒りの熱を持ったドス黒い悔しさが湧き出してくる。そして、宙に向かって怒鳴りあげた。
「何が限界を突破する冒険の旅だ!人を無責任に焚き付けやがって!呪ってやる!!!」

すると、遠くに不思議な光が遠くに現れた。ぼんやりとした光だ。優しい暖色の光だ。まさかと感じながら思わず言葉が出た。
「神様?」
すると、まるで呼応するように揺れた。間違いない。僕は確信せずになどいられなかった。奇跡が起こったのだ。いわゆる神の光を見たのだ、興奮するあまり「神様! 神様! 神様!」激しく連呼した。
手ごたえはない。でも願いが届いたという感覚は全身で感じていた。「ありがとう!」 その場で座りこみ祈った。さらに光がだんだん近づいてくる。感動の一瞬が訪れるはずだ。

しかし感じたのは違和感だった。様子がおかしい。左右にわずかに揺れてはいるが、人類を救済するようなエネルギーの象徴にはおよそ感じない。そもそも未知のエネルギーが歩道の水溜まりに影を映すだろうか?

正体はただの自転車のライトだ。
自転車は歩道をそれて、車道に出て、僕をおおきく交わした。自転車を運転していた人からチラ見された。僕はよほど危険な人物と思われたに違いない。妄想と現実のギャップに笑わずにはいられなかった。吹き出した。小雨の中、「神様!助けてよ!」等と中年のおっさんが泣きながら絶叫しているのだ。それを終始、聞かれていたのかと思うと、かなり恥ずかしい。生きた心地がしないほどだ。と同時に笑いがこみあげてきた。そして声をあげて笑った。とにかく笑った。こんなにも笑えるのか?と思うほど、久しぶりに笑った。これが自分なのだ。他人の視線ばかり気にする自意識過剰で、その上思い込みが激しい。でも、人目もはばからず、バカけたことをためらわずにできてしまう。それこそ愛すべき自分の側面だ。世界は自分のとらえか方次第なのだ。自分を認めることができそうと思った瞬間、本当に奇跡が起きた。一つの考えが浮かんできたのだ。さっき「呪ってやる」と叫んだことだ。どうにもならない自分の運命を呪ったのではない。明らかに自分以外へのことだ。そこから、もう一度「呪い」をキーワードにこれまでのオズウェイでの出来事を組み直した。

結論がでた。

おそらくミッシングリングというものだろう。全ての出来事、感情が繋がった。しかし、得た結論は今までのものとは違う悲しさと苦しさに満ち溢れていた。強烈な思いは言葉でも行動でもなく、涙となって、雨と路面の水溜まりに落ちたが、瞬く間に判別できなくなった。

翌朝。リビングのカーテンの隙間からまぶしい日射しが差し込んでいて、快晴な1日となるだろう。お天気なら、いつもはカーテンを真っ先に開けて、新鮮な空気を部屋に取り込むのだが、今朝は何もしない。ぼんやりしたままリビングの椅子に腰をおろす。グラスに注いだ水を一気に飲む。そして、充電器から取り外したCDGをかけた。「「がる。今日は賑やかだ。自動車や飛行機、大型船舶といった近代物流が登場する前の世界。たくさんの荷物を抱えた商人や荷馬車が街を行き交う。いたるところで売り子たちが声をあげている。せわしそうに買い物する人、露天の珍しい品々に目をキラキラさせる旅行客。街は活気に包まれ、熱気にあふれかえっていた。僕もその一人として、街を歩いていた。仲間たちを街の中で見つけた。夫婦で肉屋を経営するベルさん。キミさんが先生をしている語学教室は、建物に入れない生徒であふれかえっている。建物の別の階からは、ピアノの音が聞こえる。きっとナスちゃんだ。
通りをさらにすすんだ。向こうからニバミンさんが歩いてくる。みんなでナンバ歩きをしているようだ。ニバミンさんは笑顔なのだが、後からついて来る人たちは疲れてきった表情だ。クトーくんや子供たちだ。吹き出しそうになる。ニバミンさんは僕とすれ違いさまに「シュンさん、いってらっしゃい」と声をかけてくれた。僕は笑顔でうなずく。
中心部から少し離れたところに、いかにも、いかにも近寄りがたい建物がある。「ホリアーティの占い館」と看板が掲げられている。今は心強く感じる。「いってきます」と呟き、その脇を右へ折れた。人気が一気に少なくなった。細い路地が続く。延々と続く路地を抜けると、深い森が左右に大きく広がっている。さっきまでとはまるで別世界。禁忌の森とでも言おうか。
入り口には立て看板。「ナンビトモハイルコトナカレ」。僕は看板を抜き去り、草木をしっかり踏みつけ、森へ入った。奥にはツタやコケ、シダに覆われた廃墟といってもおかしくない建物があった。

例の小学校だ。
いつもの教室へ一直線で向かう。義務教育だから、皆勤賞が輝いて見えてから、そんな理由で以前は通うことに重きをおいていた。マジメ、それが僕の代名詞だったことを思い出す。教室の扉を開ける。そこには何もない。ただ闇が広がっていた。真っ暗すぎて、どこが床で壁なのかすらわからない。だが今の僕には行くべきところがわかっている。
歩をすすめた時、あのデジタル生成されたような声がした。
「ご主人様?」
魂の指南役は驚いた様子だった。
「なぜここへ。何を考えていらっしゃるのですか?前回でご理解いただけたものとばかり思っておりました。過去を掘り返してなんになるのです。あなたが決意された生き方です。過去は変えられず、決意はなにものにも打ち砕くことはできないのです。それなのに今日のあなたの心には不安さえ覗かせているではありませんか?どうぞ過去からお帰りを。」
僕はそれをかまわず、突き進んだ。
魂の指南役は止めたが、僕はそれを全く介さず、するりとかわした。
「なぜ? 私をかわすことが・・・」
僕はその言葉に答えなかった。

幼い自分がいた。ぐっと涙をこらえている。近づくたびに例のものすごい重力が襲ってくる。だが、今度はそれほどではなかった。
僕は近寄り、隣に膝まづいた。
「えらいな。。。」
少年はただこくりと縦に首をふる。
「本当に、本当にツライ決断をしたな。」
少年は肩を震わせながらうなづいた。僕は続けた。
「一人で決めたんだよな。」
少年は肩で大きく呼吸している。
「だって、お母さんに話したって『一回うまくいかなくたって気にするな』とか『友達なんかすぐできるわよ』っていうけど、お母さんのようにはボクには無理だよ。できないよ。お父さんは、いつも遅くまで働いて疲れてるから、心配させたくない。」
僕はただうなづいた。
「でも、ツラい決断したな」といいかけようとして、先に嗚咽がもれた。
「なんでおじさんが泣くの?」
「本当に...こんなツラい決断しかできなかったんだな。ごめんな。」
少年は微動だにしないが、全身から苦しさの気があまりあるほど、あふれている。
「おじさんが泣いたら、僕まで泣けてくるよ」
「・・・」
二人ともただ泣いた。

僕は立ち上がり、魂の指南役を振り返る。何が起きているのかわかっているのは僕だけだ。
「もう戦いは終わった。勝負はついた。よく体をみてみるんだ?」
指南役はわき腹にヒビが入っていたことに気が付いて、あわてた。
「ヒビ・・・なぜ? 揺らぐはずのない決意にヒビが・・・」
僕は涙を右手でぬぐいながら答えた。
「思い出したんだ・・・あの子、 いや僕はあの時「人に声はかけない!」「誰にも頼らない!」と決意した。自分の人生を呪って、一人で生きる覚悟かと思っていたがそれは違ってた。」うまく説明する必要はなかったが、言葉を探した。ただ、当時も今もだ。僕はホントは苦しい胸の内をただ聞いてほしかっただけなのだ。それに人に頼らないといったのは、ほかでもない大人のことだ。魂の指南役は何かを発言しようとしているが、何かをもちあわせていないようだ。
「アテにしない、、、本当に呪った相手がいた。それは」
その先を言うの少し躊躇した。そして心を決めた。
「籠井先生だ。籠井先生を呪っていたんだ。」
声が上ずり、震えている自分を感じた。
「あんなアドバイスを聞かなければよかった。あんなアドバイスした先生が悪い!悪いのはこうなったのは全て先生のせいだ。」と。

ツライ決断。当時の自分と籠井先生を思うと、涙がとまらない、優しくてあたたかくて、本を読んでくれたり、大好きな先生だった。何より家族に次いで頼れる大人だった。でも大好きだからこそ、両親に言えなかったように「先生ダメだった~」とも言えなかった。先生の言うことはマジメな僕にとっては神の言葉そのもの。うまくできない自分が問題だと考えていた。だから相談にも行けなかった。「その後どうだった?」のフォローもないことに、自分は無視されてると感じ、やがて恨み、呪いに至ったのだ。
「それ以来、うまくいかないのは他人のせいで、自分を誤魔化してやり過ごすように生きてしまった。苦しい感情をどこかで他人に打ち明けられることができていたら。。。そう単純なことだ。気が付くのに40年もかかるなんて。僕は本当にキングヒッピーだ。ハハハ」
今なら先生の立場も分かる。その年を最後に学校が分裂するという大行事が迫っていて、籠井先生にもやらなきゃいけないことが山のようにあったのだろう。フォローまでは手が回らなかったのかもしれない。
「そうでしたか。」
「鉄壁な決意にもわずかなほころびがあったのですね。さすがご主人様。だからといって、それに気づいても、らしくもしない台詞を口にしたところで何が変わるというのです。過去からお立ち去りください。」
魂の指南役がこちらに突撃してくる。身体を無数の槍に変えて、すさまじい勢いで猛追してくる。すさまじい破壊音がした。破壊は槍でおこった。
「いったい、いったい、これはどういうこと」
魂の指南役が動揺している。
「決意したんだ。」と僕は答えた。
「決意?」
「そうだ。お前が教えてくれたんだ。揺るがない決意は誰にも破壊できないと。」
「二度と自分を裏切らないって。そう決意した。」
魂の指南役は過去の記憶をみせて、さらなる猛攻に出てくる。だが僕は何もしない。ただ、悲しかったことをそのまま受け入れるのみだ。一人で大丈夫なフリをする、失敗したら反省ではなく、他人のせいにする、自分と向き合わない思い出は切り捨てたかったが、これも自分なのだ。
『数えきれないほど自分や他人に嘘をつき、自分を騙してきた。だからこそ過去を受け入れる。もうどんなに傷ついても、安易に自分を欺きウソはつかない。二度と自分を裏切ったりしない。」
魂の指南役に手を伸ばす。真実というものがあるかはわからないが、そこに向けて手を伸ばすイメージだ。そして、魂の指南役に触れた。腕は何の感触もなく相手の身体を貫いた。そこから魂の指南役の体の崩壊が進んだ。

《つづく》次回最終回


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