趣味のデータ分析048_子どもを持つということ⑭_結婚と仕事と学歴a
前回は、学歴や職業の地位と、未婚女性の考えるライフコースの関係を検証した。結果、
・学歴が上がるほど、理想のライフコースについて、絶対水準として両立が増え、専業主婦が減少する。
・また、学歴に関係なく両立が増え、専業主婦が減少する傾向にある。
・予定のライフコースも同様だが、理想に比して絶対水準の差分は小さくなっている。
・職業上の地位別の理想については、学歴で見られたような地位別の絶対水準の差や傾向などは弱化している。
・職業上の地位別の予想は、正規職員より非正規や無職のほうが両立、再就職が少ない傾向はあるが、理想と同様あまり安定した関係はない。
ことが分かった。キャリアコースの考え方(キャリアを積むためなら子どもはいらないといった考え方)がライフコースに影響を与えているのでは、と思ったが、学歴はともかく職業上の地位がライフコースの考え方に与える影響は、相対的に小さく、いまいち読み取りづらい。学歴は相応の相関があることを踏まえると、学生時代にライフコースの考え方が決まっている蓋然性も高く感じた。
ところで、そもそも結婚と学歴の関係について、荒川氏の過去の記事で、男性は婚姻率が学歴に正比例している一方、女性は学歴が高いとむしろ未婚率が上がる、という指摘がある。
リンク先の画像を見たとき、あまりにきれいで結構衝撃的だったのだが、無断引用禁止ということなので、国勢調査で自前で(年齢を適当に絞った上で)同じグラフを復元してみた(図1)。
ちょっと主旨がわかりにくいグラフなのだが、y軸の0ラインは、「同性同年代の平均値」であり、そこから上に伸びていると、その学歴の人は、「(学歴横断で見た)同性同年代の平均より未婚率が高い」ことを示す。荒川氏はここから、
・男性は学歴が上がると未婚率が下がるが、
・女性は学歴が高いほど未婚率が上がる
・婚姻数の減少という観点では、特に高卒男性の未婚率の高さが問題だが、高学歴女性の未婚率も問題
としている。
今回はこれをヒントにして、結婚と学歴についていくつかデータを漁ることにする。
学歴と未婚率
最初に、上記の荒川氏のグラフの再構成をもうちょっと進めてみると、もう少し面白いことになった。図1のとおり、女性の場合は大卒の未婚率は同年代平均より高いのだが、離死別を含めると様相が変わる。
大卒女性も未婚率は平均を下回り、かわりに高卒以下の未婚率が上がる。要するに、「離婚等で現在未婚」(1回以上結婚している、現在未婚者)を未婚に含めると、大卒以上も平均並み(以上)に結婚しているのだ。現在未婚の女性、というだけで「大卒の可能性がより高い」とは言えない(若いうちは別)。
※ちなみに荒川氏の指摘は、出産の話に寄せる形で初婚に注目しているだけである。
ややわかりにくいグラフの気がしたので、図3のように比べてみた。オレンジが青の差分=灰色の棒グラフが、離死別を経験した単身者の割合を示す。
さらに参考までに、離別率(死別は含まない)をみると図4。
高卒以下女性の離婚率、たけぇ~。ちなみに総じて女性の方が高いのは、男性の方が再婚数が多い(=バツ1(以上の)男性が初婚女性と(何度も)結婚する)からである。再再婚等までは示すことができないのだが、図5のように、男性再婚-女性初婚の組み合わせは、男女逆パターンより+1~3%で推移している。
更に、図1(初婚の意味での未婚率)を2000年以降の時系列で見ると、これまた興味深い事象が浮かび上がる。
女性大卒以上の未婚率が高いのは過去からそうだが、徐々に乖離が小さくなっているのが分かる(特に若い年代)。一方で、男性高卒以下の未婚率の高さも過去からそうだが、2020年になってその乖離が跳ね上がっている(2010年までは35歳以上から平均より高くなっていたが、2020年には30歳以上から高くなっている)。2000年以降高校への進学率が大きく変化したということもない(図6。ただ、進学率なので卒業率とは別だし、大学進学率は経時的に上昇しているので、大学等の卒業男性を相手とするハードルは下がっているかもしれない)。
高卒男性は魅力がない?
さて、前段で、30歳以上の高卒男性で未婚率が相対的に高いことを示した。この状況について、もう少し深掘りしてみたい。つまり、その背景に金銭的影響=稼ぎの多寡がどれほどあるか、ということだ。
まず残念なお知らせだが、配偶関係×所得×学歴の公的データは、瞥見の限り確認できなかった。(※後日就業構造基本データで取得できることを確認できたが、経時的にはとれないっぽい。)そもそも所得は、年齢、学歴、職業上の地位と強い相関があるのが明らかなので、上手く統制しないと検証できないのだが、データがなければどうしようもない。
今回は、就業構造基本調査を用い、所得の代理変数的な意味で、配偶関係×職業上の地位×学歴×性別でデータを取得した。国勢調査では、職業上の地位のデータをうまく取得できないので、前段とはユニバースとかが違うが、致し方なし。なお、事業所の規模別データでもデータが取れるのだが、そもそも事業所の規模と所得の関係性は自明ではないので、規模のデータは使用していない。
データの整理をしたところで、次に、就業構造基本調査で図5と同じデータを復元してみよう。配偶関係×職業上の地位×学歴×性別のデータについては、ユニバースが有業者のみだし、違いも多いのだが、データ上は作成できるはずだ。というわけで、作ってみたのが図2。
絶対水準はもちろん多少異なるが、そこまで外していないし、
・男性は学歴が上がると未婚率が下がるが、
・女性は学歴が高いほど未婚率が上がる
・男性の学歴未婚差は拡大、女性の学歴未婚差は縮小
という傾向は再現できた。まったく異なるユニバース、データにしては、非常に高い再現度だと思う。
さて、前置きが長くなったが、実際にデータを見てみよう。基本的な目線は、所得について、
・正規職員>非正規職員
・大卒以上>短大・高専等>高卒以下
ので、配偶関係もそれに準じているはずだろう、というものである(年齢は所得に強く影響するが、それ以上に配偶関係にも影響するので、今回は統制要素としてしか使っていない)。
図7をみると、いくつか興味深いことが分かる。
①男女ともに、全年齢的に正規職員割合が大卒以上>短大・高専等>高卒以下の順になっている。
②既婚男性では、どの学歴でも未婚より正規職員割合が高く、特に低い学歴の正職員割合が上がる形で、高学歴との差も縮小。年齢での変動は小さい。
③既婚女性は逆に、どの学歴でも未婚女性より正規職員割合が低い。さらに、年齢が上がるほど割合は下がる。既婚でも未婚でも、学歴間の正規職員割合の差が男性以上に大きい。
④未婚では年齢の変動は相対的に小さいが、それでも逓減傾向は男性より強く、絶対水準も低い。
大卒と高卒の差分は時系列でもかなり安定した状況で、図8のようになる。
まとめ
今回は、結婚と学歴に関する関係に手を付け始めてみた。結果、
・男性は学歴が高いほど、特に30~35歳以降未婚率が低くなるが、女性は逆に、大卒以下の未婚率が高い
・ただし、いわゆるバツイチ未婚等を未婚と整理すれば、女性でも大卒のほうが未婚率は低い
・正規職員割合は、学歴だけでなく既婚未婚で差がある。
・男性より女性の方が学歴間の正規職員割合格差が大きく、更に年齢を経ることでの減少幅も大きい。
ことが分かった。
さて、当然配偶関係から職業上の地位に直接影響していることはない≒採用の際に配偶関係を問われることは普通はない(べきである)にも関わらず、ここまで未婚既婚で差が出るというのは、非常に興味深い事実である。
既婚女性の正職員割合が低いのは要するに、子どもが産まれて退職した=ライフコースにおける再就職コースor専業主婦コースに乗った、ということが考えられるが、年齢別トレンドの男女差や絶対水準の差など、出産イベント関係では十分説明できない事項も多い。
次回以降、この点についてさらに深掘りしていこう。
補足・データの作り方など
今回のデータソースは国勢調査と就業構造基本調査、あと差し込みで学校基本調査。特に調べた配偶関係×職業上の地位×学歴×性別のデータについては、国勢調査でも近しいものが取れるのだが、その場合学歴が在学か非在学かなど非常に荒いレベルしか取れない。ミクロデータがないと難しいもんですなぁ。
また、年齢のキリについてだが、まず15-19歳については、短大・高専等や大卒以上については、定義的にそもそも「卒業」していないはずなのでデータがなく、サンプルが高卒以下のみかつ非常に少ないので、対象から落としている。上限を54歳にしているのは、結婚、出生周りの分析をするにはこれで十分だからだ。今回のデータはデータ項目が非常に多くてグラフにするのも色々難儀してしまう。
データの区分については、短大・高専等は、「専門学校+短大・高専 = 短大・高専等」という仕切り、大学以上は大学院等も含めている(調査年が上がると大学院修士か博士かなども取得できるが、丸めている)。非正規職員はそのままのデータ項目があるのでそのまま取得している。また、地位については正規でも非正規でもない「起業者」が存在するが、数%しか存在しないので、今回は無視している。
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