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趣味のデータ分析075_弱男 vs 弱女⑦_弱者男女の30年史c

前回は、配偶関係別所得別の所得分布を時系列で示し、さらに中央値と平均値の推移も時系列で示した。結果、以下のことが分かった。
・男性は未婚その他含め、1997年をピークに中央値、平均ともに2012年にかけ減少し、その後回復傾向にある。ただ、2022年時点でも、1997年レベルには回復していない。
・女性は、1997年以降2012年まではほぼ横ばいではあるものの、中央値、平均ともに、総じて上昇傾向にある。

今回は、これまでの分析をベースに、弱者男女を改めて定義したうえで、弱者男女の数、構成比、質の変化を時系列で調査していく。

<概要>
・人口は経時的にも男女間も大きな変化なし。
・構成比は女性のほうが多いが、差は縮小傾向。
・弱者男女内での平均値、中央値も、男女格差があったものの、差は大幅に縮小(データによっては消滅)。
・弱者男女間の差異は、平成の時代は、特に質的に一定の差があったが、漸次縮小し、令和に至ってほぼ消滅したといえる。

弱者男女の生息数(年齢制限無し)

定義と視角

弱者男女の定義は、071072で定めた。今回はデータの制約、特に年齢での仕切りを利用できないことを踏まえ、分析の視角と合わせ下記の通り方針を定める。

(分析の視角)
命題1:弱者女性の数>弱者男性の数

命題2:「女性全体に占める弱者女性の割合」>「男性全体に占める弱者男性の割合」
命題3:弱者女性の所得分布が、弱者男性に比して低所得側に分布している(平均と中央値のいずれも低所得側にある)

(弱者男女の定義)
・未婚である(ただし、1997年の定義は「有配偶ではない」)。
・所得が各年の男女全体、配偶関係全体の中央値以下
(1997年:320.86万円、 2007年:277.03万円、2012年:264.08万円、2017年:275.55万円、2022年:301.19万円)

少し補足しておこう。まず、再三述べてきたとおり、配偶関係のデータは、1997年以前は有配偶か否か、2007年以降は未婚か否か、の形でしかデータを取得できない。よって、1997年以前は、配偶者と離死別した者が未婚、それ以降はその他の側に含まれる。
また、低所得の基準は男女全体、配偶関係全体の中央値を用いる。以前はほかにも基準の定め方を挙げたが、今回は男女比較という観点から、この基準だけを用いる。なお、2022年の実数値が、071で示した2022年の347万円より低い、301.19万円となっている。これは、過去の分析では、ユニバースから学生と、60歳以上が除かれているためだ。よって、072の分析結果とは異なる結論となる可能性がある。

弱者の数と割合

弱者=所得が全体中央値以下かつ未婚の者の、各性別(高所得者も含む全体)に占める割合は、図1の黒線になる。棒グラフのほうが実数である。特に女性については、配偶関係の齟齬で、1997年から2007年にかけて、割合、実数ともに減少しているが、以降は比較的安定している。
1997年の女性を除くと、全体の所得中央値で定義した弱者男女の数は、1997年以降、概ね同水準で推移していることが分かる。生涯未婚率が増加していることと、基準所得の決め方的に、弱者男女があまり増えていないことは、それはそれでやや驚きだが、足元ではそれぞれ550万人程度がいるようだ。割合的には女性の方がやや多い(女性のほうが総体として低賃金なのが理由の一因)が、男性側で未婚構成比が上がっていることから、差は徐々にだが縮小傾向にある。弱者男女には、2007年以降、数では大差はなく、割合も縮小傾向にあると結論づけたい。2022年の分析とほぼ結論である。

図1:各年の所得中央値以下の人数と、性全体に占める社の割合
(所得データあり15歳以上)
(出所:就業構造基本調査)

弱者男女の質の変化

次に、弱者男女の質的差――弱者男女内での、所得中央値と平均の推移を確認してみよう。これについても、2022年の分析では差がない、としたが、時系列ではどうか。これを示すのが図2である。
弱者を定義づける、全体所得の中央値自体が、1997年をピークに2012年まで下落、その後また上昇している(図3)ので、弱者男女内での所得中央値、平均も、同様にU字になっている。ここで興味深いのが、弱者男女の所得格差が縮小していることだ。特に中央値では、弱者男女で45万円もの差があったのが、足元ではほぼ差が消滅している。1997年の全体所得中央値は320万円であり、45万円の差は、10%を超える程度だ。
再三述べたとおり、男女の賃金格差には、説明できない格差がまだ残っている(一応可能性として、「40万円の壁」仮説を提示している)が、低所得層については、男女格差が、2022年に至って、ついに消滅したといえるのかもしれない。

図2:基準以下所得の未婚者の所得平均値、中央値
(15歳以上所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

弱者男女の生息数(年齢制限あり)

さて、ここまでは、これまでの分析の連続性の観点から、年齢制限を設けていなかったが、実は、1997年以降のデータだけなら年齢別にデータを取得できる。以降は、前半で得た事項の確認のために、15~64歳までのデータに絞って分析をしてみよう。なお、1997年の配偶問題は依然残るので、分析対象には無業者を含めないことする。

平均所得と中央値の推移

まずは、弱者男女の定義の前提である、所得の状況を確認しよう。結論を言えば、グラフの形状には差はほとんどなく、特に1997年以降、平均も中央値も、男性ではU字、女性は単調増加、という事実に変わりはない。
ただ、水準感は若干上昇しており(高齢者は、有業でも低所得であることが多い)、弱者定義に用いる、全体の所得中央値でいえば、1997年:332.69万円、2007年:291.44万円、2012年:280.13万円、2017年:297.91万円、2022年:328.20万円となっている。15歳以上全体と比較すると、10~20万円ほどの上昇である。

図3:15歳以上64歳以下所得データあり有業者の所得中央値の推移
(出所:就業構造基本調査)
図4:15歳以上64歳以下所得データあり有業者の所得中央値の推移
(出所:就業構造基本調査)

弱者男女の数と割合

次に、この定義による弱者男女の数と割合は、図5の通りである。基準となる中央値が上昇したことで、人数が変化している部分があることに留意。
人数ベースでいえば、男女ともに未婚は、おそらく水準が上昇したことを背景に、人数が増加した。一方で、その他の数が大幅に減少(特に男性)したことで、割合は男女ともに上昇している。ただ、男性の上昇トレンドがさらに強化され、2022年の差は3%ptまで縮小した。

図5:各年の所得中央値以下の人数と、性全体に占める社の割合
(所得データあり15歳以上64歳以下)
(出所:就業構造基本調査)

弱者男女の質の変化

最後に、弱者男女の平均と中央値の変化を見てみよう。
男女、平均中央値ともに、きれいなU字型になっていることに変わりはない。男女差も縮小しているが、一点違いがあり、2022年に至っても、中央値平均ともに、差分はゼロにまでは至っていない。縮小はしており、2022年時点で5万円、元の水準が200万円程度、よって差は2.5%程度なので、十分小さいともいえるが。

図6:基準以下所得の未婚者の所得平均値、中央値
(15歳以上64歳以下所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

まとめ

今回は、1997年以降、弱者男女の数と割合、質について分析を行った。年齢制限の有無で2つの分析を行ったので、比較的な意味で二つを並べてみよう。

まず所得中央値と平均については、男性はU字女性は総数ではU字だが未婚その他を個別にみれば緩やかながら増加傾向にある。64歳以下で制限したほうが所得は高い。なお、男性未婚の中央値≒300万円が、所得あり有業者全体の中央値とも近い水準である。

図7:15歳以上64歳以下所得データあり有業者の所得中央値の推移
(出所:就業構造基本調査)
図7:1所得データあり有業者の所得平均の推移
(出所:就業構造基本調査)

次に実数と構成比だが、64歳以下で絞ったほうが、特にその他の人数が男女ともに減少している。未婚はほぼ変わらないので、結果として、時を追うごとに弱者割合は増加している。男女比較としては、弱者の人数は、1997年以降500万人超で、大きな違いも経時的な変化もない。割合については、2007年時点で4~7%ptだったが、64歳以下は特に男性が近年大幅に伸びており、結果4%程度まで差分が縮小している。

図8:各年の所得中央値以下の人数と、性全体に占める弱者の割合
(所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

最後は質(弱者男女内での平均と中央値)だが、男女ともに、1997年のピークから2022年まで、きれいなU字型となっている。特に男性のほうが顕著。また、平均も中央値も、1997年には、中央値で40万円近く差があったが、その後着実に減少。弱者男女間の格差はほぼ消滅したといえる。ただ、15歳以上全体では、2022年で差は0となっているが、64歳以下に絞ると5万円の差分が残ってはいる。

図9:基準以下所得の未婚者の所得平均値、中央値、男女差
(所得データあり)
(出所:就業構造基本調査)

弱者男女の男女差を時系列で追えば、以下のような形となった。
・人口は経時的にも男女間も大きな変化なし。
・構成比は女性のほうが多いが、差は縮小傾向。
・弱者男女内での平均値、中央値も、男女格差があったものの、差は大幅に縮小(データによっては消滅)。

072では、弱者男女は、未婚であるというだけでなく、所得的な意味でもほぼ同質の存在であるという結論を出したが、それは(少なくとも)1997年以降の差の縮小の結果到達した事象であることを、今回示した。一般的に、男女格差が縮小することはあれ再拡大することはない、あったとしても稀であろう。経緯論はともあれ、低所得未婚男女間の格差問題は、令和に至りほぼ消滅した。
となると、男女格差の残る問題は、それ以外のところ(未婚高所得または既婚者)に残ることになる。そして、この男女格差の解消は、結果的に、弱者男性を救うものになる可能性すらある。だって、両者は、所得でも恋愛でも、同じような地位にあるのだから。
弱者男女よ、団結せよ!

補足、データの作り方等

出所は就業構造基本調査から。やっぱり、2002年のデータ欠損と、1997年以前の配偶データの不連続性が気になる…

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