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趣味のデータ分析047_子どもを持つということ⑬_学歴とライフコース

046では、出生動向基本調査のデータの更新を行った。これまでライフコースについては、年齢ごとでしか分析していなかったが、ほかにも職業の地位や学歴ごとの分析が可能である。
046で感じた、女性のライフコース選択における「出産してもキャリアの中断はしない」「キャリアの中断になるくらいなら子どもを産まない(≒結婚しない)」という可能性について、年齢以外の目線ではどのように見えるのだろうか?なお、時系列的な傾向をざっくりと再確認しておくと、以下の通り。
・理想としては、専業主婦は減少し、両立コース、再就職コースが多数派になっている。特に2021年には、両立コースが理想の一番となっている。
・予定としては、25歳以降でも未婚就業が一番多いという状況。専業主婦は絶滅危惧種。
・2021年では、未婚就業を理想とする者が、絶対数はまだ多くはないが、急増している。

学歴別ライフコース

さて、グラフの作り方等は散々やったのと同じなので、早速グラフを見ていこう…と思うのだが、その前に言い訳をしておく。ライフコースの分析は、基本的に34歳以下の女性を対象にしている(年齢別の分析においても、昔はそもそも34歳までしかデータがなかった)。学歴等のライフコースの分析についても、原則34歳までの女性がユニバースなのだが、2021年だけ唐突に、50歳までの女性のデータになっている(しかも学歴等×年齢のクロスは取得不可)。なので、理想・予想のいずれも、非婚就業等がかなり多くなっている可能性が高い。一方で、35歳以上の女性はせいぜい全体の35%くらいだし、そういう女性が具体的にどういうライフコースを理想・予想しているかを断言することもできない。連続性という意味では、かなり扱いづらいデータになってしまった。というわけで、2021年のデータは参考程度にとらえてほしい。
では、まず学歴別のライフコースを確認しよう(図1)。

図1:未婚女性の最終学歴別理想のライフコース
(出所:出生動向基本調査)

冒頭に上げた、理想のライフコースにおける、経時的な専業主婦の減少と両立、再就職の増加は、概ねどの学歴でも見られる。ただし、学歴が上がる(と、高卒以下→短大・高専等→大学以上への段階を、以降便宜的に記載する)ほどに、専業主婦の水準が低く、両立の水準が高い傾向が見られる(図2)。

図2:未婚女性の理想のライフコース構成割合の、大卒女性との差
(出所:出生動向基本調査)

大卒は正社員で育休制度等が整った企業に勤めている可能性が高いから、両立の理想水準が高い(自身の今の可能な環境=両立コースが実現しやすい環境に、描かれる理想が誘導されている)可能性もあるのかと思ったが、2000年前後に育児休業を取得しているのは、女性ですら50%程度である。そんな状況で、両立コースの割合が高止まりするだろうか、とも思う。

次に、学歴別の予定のライフコースである(図3)。

図3:未婚女性の最終学歴別予定のライフコース
(出所:出生動向基本調査)

先述の通り、予定については、2021年の未婚就業の急上昇とそれ以外の下落は、どう見ても年齢ユニバースの拡大が一員になっていると思われるので、そこは差し引いて見る必要がある。そのうえで、
・両立の経時的増加は理想と同じだが、学歴ごとの絶対水準の差は、理想ほど大きくない。
・またそれ以外のコースプランについても、理想と異なり、傾向は概ね同じなものの、絶対水準に学歴差はあまりない。

図4は、全体的に図2を縦に潰したような感じになっているのが分かると思う。

図4:未婚女性の予定のライフコース構成割合の、大卒女性との差
(出所:出生動向基本調査)

職業上の地位別ライフコース

次に、職業上の地位別、つまり正社員かアルバイトか無職か…といった属性別に、描くライフコースの違いを見てみよう。同じく、理想から見てみる(図5)。

図5:未婚女性の現在の職業上の地位別理想のライフコース
(出所:出生動向基本調査)

両立コース理想が高いのは、正規職員、自営、学生の3種である。なお学生については、元々の調査対象が18歳以上なので、学生≒高卒より上、とみなして良い。そのうえで、年齢別や学歴別で見られた、両立の経時的上昇及び専業主婦の経時的減少が、ここではあまり見られない。正規職員と学生における両立の上昇と、非正規、自営の専業主婦の低下くらいだろうか?(自営も低下しているが、正直自営はサンプル数が少なくブレも大きい)
また、学歴で見られた、差に関する関係はいまいち弱まっている(図6)。未婚理想は概ねどの地位でも正規職員より高いし、両立理想は非正規、無職で低く、学生で高いが、専業主婦についてはそこまで明示的ではないし、プラスマイナスの幅も狭い。

図6:未婚女性の理想のライフコース構成割合の、正規職員女性との差
(出所:出生動向基本調査)

最後に、職業上の地位ごとの予定のライフコースを確認したい。

図7:未婚女性の現在の職業上の地位別予定のライフコース
(出所:出生動向基本調査)

2021年には、学生さんですら30%が非婚就業予定というのは興味深いが、こちらでは、(2021年以前では)両立の増加、再就職の減少、専業主婦の減少、という経時的な変化が概ねどの地位でも伺うことはできた。
一方で、絶対水準の差分に関しては、理想と同様いまいち安定した関係が窺われない(図8)。特に学生については、差に関する安定性がほぼ消滅している。

図8:未婚女性の予定のライフコース構成割合の、正規職員女性との差
(出所:出生動向基本調査)

まとめ

学歴別に見た理想のライフコースから整理しよう。まず、学歴が高いほど、両立理想が高く、専業主婦理想が減る傾向があった。また学歴の低い層を含め、両立の上昇、専業主婦の減少が見られた。
学歴の高さがキャリア志向の高さを示すとすれば、女性のライフコース選択における「出産してもキャリアの中断はしない」「キャリアの中断になるくらいなら子どもを産まない(≒結婚しない)」という考え方は、以前から大卒女性ではメジャーであり、近年それ以下の学歴の女性にも広まるようになった…と考えるのはやや牽強付会だろうか?いずれにせよ、大卒女性は専業主婦としてキャリアを「終わらせる」という理想像は昔からあまり掲げていなかったことは事実のようだ。
また予定については、未婚女性の予定のライフプランは、相対的に学歴ごとの差が小さい。理想の方は相応に違いがあったことをみると、理想とは別の、女性が実際に走るだろう(と考える)ライフコースには、何らかの制限がかかっていて、さらにそれは学歴に依存していない可能性を示唆する。ただこの制限が、女性の「働き方」等の社会的要因であったり、「女性だから」と期待される社会的圧力により産まれた考え方(の偏り)か、出産(そしてそれにまつわる身体的変化等)という生物学的要因を単純に念頭に置いた結果生まれた考え方(の偏り)によるものか(あるいはそれ以外か)、臆断は避けるべきだろう。

一方で、キャリアそのものである現在の職業上の地位については、特に理想のライフコースについて、学歴や年齢のようなはっきりした傾向が相対的に弱いように感じた。予定についてはもう少し傾向がはっきり出るが、それでもとはいえ、という程度である。
また、正規職員を基準にした差分でも、違いの明瞭性が弱まる。職業上の地位でこうした差が弱まるというのは、いかにも不思議である。

このように、学歴別では生まれるライフコースに関するトレンド、格差が、職業上の地位では弱化していることについて、説明しうるロジックの一つは、学歴の違いが職業上の地位とあまり対応していない、ということだ。正規職員の多くが大卒であるなら、正規社員のライフコースの選択も大卒と概ね同じになるはずだが、その傾向が弱いということは、正規職員には大卒も高卒も両方含まれているし、パート等でも同様である、ということだ。少なくとも2000年以降の女性の職業上の地位に関し、メリトクラシー的なものは働いていないのかもしれない。
これについては、出生動向基本調査の学歴×地位のクロスがないので正確には検証できないが、実際学歴と職業上の地位の関係は、明確でない。図9、図10にあるとおり、正規職員に大卒以上が多く、非正規には高卒以下が多いのは事実だが、割りと多様であり、正規職員が大卒ばかり、ということはまったくない(ちなみに既婚でも割合は変わるが、ぼちぼち多様ということ自体に違いはない)。
ライフコースに関する(大まかな)考え方は、概ね学生時代までに形成され、その後実際に働いてからあまり変化することがない、言い換えると、高卒だろうと大卒だろうと、正規社員として(?)その後のライフコースを再検討する…という目線はあまりないのかもしれない。
それはつまり、046で示した未婚就業というライフコースの急増(特に、未婚就業を理想とする24歳以下の増加)は、今後簡単に減少しない可能性も示している。

図9:未婚正規職員のうち、学歴別に占める割合(2022年)
(出所:就業構造基本調査)
図10:未婚非正規職員のうち、学歴別に占める割合(2022年)
(出所:就業構造基本調査)

今回検証できれば、と思っていた「出産してもキャリアの中断はしない」「キャリアの中断になるくらいなら子どもを産まない(≒結婚しない)」という考え方は、いまいち検証できなかった。2021年のデータ、34歳以下で仕切り直すか、年齢別のクロスのデータを出してくれねぇかなぁ。

補足・データの作り方等

今回は出生動向基本調査に加え、最後の2つは就業構造基本調査を利用した。5年に1度の大規模調査で、かなり使い応えのあるデータで触っていて楽しい…のだが、例によって2012年以前はデータを取るのが結構面倒くさい。

出生動向基本調査の方だが、こちらのカテゴライズについて、本当はもうちょっと細かく取れるが、グラフ化やサンプル数の関係で、今回はやや丸めている。具体的には、
・中卒+高卒 = 高卒以下
・専修学校(高卒後)+短大・高専 = 短大・高専等
・パート・アルバイト+派遣・嘱託・契約社員 = 非正規職員
としている(さらに、調査年の一部は、高校が女子高か共学か、大学が女子大か共学かでも細分化されており、ここも合算している)。また、これ以外に学歴/職業上の地位が不明等の回答者もいるが、これは一切図示していない。ちなみに基本出生動向調査における、回答者属性の全体の構成比は図11のとおりである。

図11:未婚女性の学歴・職業の地位別構成比
(出所:出生動向基本調査)

また、「短大・高専等」という仕切りは、就業構造基本調査の方でも使用しているが、こちらは「専門学校+短大・高専 = 短大・高専等」と仕分けている。専修学校(高卒後)=専門学校であり、事実上同じと思うが、学制は結構マイナーな区分があったりするので(高専自体マイナーだし)、厳密には違うかもしれない。でもマイナーなので、たぶんマクロな影響はないと思う。

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