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趣味のデータ分析080_金があれば子どもを産むか?①_結婚の障害は金(昔から)

これまで出生率や子どもを持つこと、結婚することへの考え方など、色々分析してきた。そのなかで、一番の問題意識は「お金と子どもを持つことの関係」であった。例えば041042043では、その前段として、結婚と出産の関係について分析したりした。問題意識の詳細についても、042の前段でうだうだと書いている。
まあその後関心の変遷等もあって、「お金と子どもを持つことの関係」についてはあまり取り扱ってこなかったが、そろそろ一度、真面目にデータを揃えてみてみたい。ここ数十年の出生率や婚姻率の変化は、所得の変化とどこまで関係があるのか?

<概要>
■既婚者においては、所得と子どもの保有数には関係がなさそう。お金がないと複数の子どもを持てない、というわけではない。
■未婚者においては、結婚の障害であったり独身である理由に金銭的背景を挙げる者は、決して小さい割合ではないが、1990年前後からその構成比は変わらない。よって、直近の晩婚化や独身志向は、金銭面を結婚の障害に感じている者の増加が理由ではない(そもそもそんな事象はない)。
…かもしれない。

既婚者の動向――所得と子どもの数

分析としては、賃金水準と出生率の相関関係とかから取得しようと思っていたが、とりあえず相関とかではなく、簡単に取得できるデータから漫然と眺めていこう。漫然と色々データを見るのは大事。

最初は、夫婦の合計年収と子供の数の関係。時間軸的にはかなり限定的(なんで2021年のデータがねえんだよ!)なのだが、出生動向基本調査に簡単なデータがある。結果は図1。
結論的には、夫婦の合計所得と平均子ども数の関係は、少なくとも正の相関にあると言えない。全体像で見ても、結婚機関5~9年や、結婚期間15~19年(完結出生数のカウントする年代)で見ても、「所得が高いほど子ども数が多い」というトレンドは見受けられない(結婚持続で区分しない場合、同時に結婚持続期間∝夫婦の年齢夫婦∝年収の歪みが出るので、持続期間で仕切るほうが望ましい)。何なら2015年の結婚持続期間5~9年のグループとか、完全に負の相関である。

図1:夫婦の合計年収と平均子ども数の推移
(出所:出生動向基本調査)

もう一つは、家計構造調査のデータだ。こちらはある意味逆のデータで、夫婦と未婚の子のみの世帯について、子どもの数及び長子の就学段階別の平均年収を示している。そしてこれでも、どの就学段階でみても、子どもの数が増えても、平均年収は増えていない――ほぼ同じ水準である。というか、どちらかというと子が多いほど年収が低いように見える。なお、子の就学段階が上がるほど年収が上がっているのは、子の就学段階が上がる∝親の年齢も高くなっている∝年収が上がっているためと思われる。

図2:夫婦と未婚の子のみの世帯の、長子の就学段階別平均年収
(出所:家計構造調査)

ただ興味深いのは、子が中学生以上では、所得水準について、水準の変動はあるものの、1999年が最も水準が高く、それ以降も明示的なトレンドは窺われない一方で、未就学児と小学生の世帯では、近年になって平均所得水準が上昇している点だ。2019年の未就学児世帯は、1999年の小学生世帯、同じく2019年の小学生世帯は、1999年の中学生世帯とほぼ同水準まで上昇している。さらに、未就学児世帯では子の傾向が2014年からこの傾向が始まっている一方、小学生世帯では2019年にのみ上昇が発生している。
この上昇の理由としては、未就学児が平均3~4歳、小学生が9~10歳くらいだとすると、この(子どもの数にかかわらず)「子持ち世帯の平均所得上昇」は、逆算して2010年前後から始まっていると考えられる(ただし、これはそもそも子持ち世帯の平均年齢が上がったことが、平均所得の上昇につながっている可能性もある)。

未婚者の動向――結婚の障害と独身でいる理由

次は、結婚の障害と独身でいる理由に関する、単身者へのアンケートである。両者は似ているが、異なるデータ系列となっており、回答項目も異なるが、いずれも結婚に関する資金の項目があるので、それぞれ確認していく。

最初に、結婚の障害のデータを見てみよう。
回答項目の全体は補足で触れるが、報告書上で「経済的理由」として整理されているのは、「結婚生活のための住居」と「結婚式」「結婚式(挙式や新生活の準備のための費用)」の2つだ。諸般の理由で、まずは「結婚式(挙式や新生活の準備のための費用)」にのみ注目する。正直結婚式にフィーチャーされすぎてて、より一般的なお金の話になっていないのが非常に気になるが、実際のデータを見てみると、図3のようになっている。
これを見ると、「結婚式」を挙げた者は男女ともに40%前後で安定している(2005年を除く、後述)。決して低い割合ではない…というか、今回のデータ範囲では、この理由を挙げた者が常に一番多いのだが、約35年間、経時的にほぼ安定しているというのは重要である。
1990年の合計特殊出生率は1.54(図4)で、減少傾向真っ只中とはいえ、当代に比べれば全然高いし、テンポ効果もあってその後乱高下しているが、結婚の障害としてお金を挙げる割合は、ほぼ変化していない。というか、増えているのは(過去指摘した通り)「一生結婚するつもりはない」の者である。

図3:結婚意志、結婚の障害有無及び結婚の障害として結婚資金を挙げた者の割合(34歳以下)
(出所:出生動向基本調査)
図4:合計特殊出生率
(出所:人口動態調査)

さらに、もうひとつ「結婚生活のための住居」と「結婚式」をそれぞれ挙げた者の割合の時系列データを見てみよう(図5)。「結婚生活のための住居」は、男性で20%、女性で15%程度となっている。「結婚式」が男女ともに40%前後で、単純合算すれば50%前後が、結婚の障害として経済的理由を挙げていることになる。
多くの若者が、結婚の障害として金銭面を挙げているのは事実だが、それはここ30年以上ほぼ変わらぬ事実である。

図5:結婚障害として結婚式及び住居を挙げた者の割合
(34歳以下、結婚意志なし、障害なしの者を母数に含む)
(出所:出生動向基本調査)

では次に、独身でいる理由について確認する。このうち、お金に関する項目は「結婚資金が足りないから」と「結婚生活のための住居の目処が立たない」(資金面)を取り上げる。結果は図6のとおりだ。
最初のポイントは、結婚の障害と同様に、独身である理由に資金面を挙げる割合(上記2つの合算)について、経時的に極端な変化はない、ということだ。男性は概ね30%±5%pt、女性は20%±5%ptの範囲に収まっている。男性の場合、2002年から2005年で、「結婚資金が足りない」が+5%pt位、女性も1997年から2015年にかけて右肩上がりになっているが、男女合わせて大きな変化はここくらいで、さらに言えば、男女ともに、2021年は2015年より、経済的理由を挙げる割合が減少している。ただ、女性より男性のほうが、資金面を理由に挙げた者が多いというのは、「男性が家計を支えるべき」という規範の(男女ともに?)内面化の深さが窺われる。
2つ目のポイントは、「適当な相手にめぐり会わない」のほうが、資金面を理由に上げた者より常に多い、ということだ。なんというか、まあそうだよな、って思った。

図6:独身でいる理由(34歳以下)
(出所:出生動向基本調査)

まとめ

今回は、所得と結婚、出生の関係について、とりあえず簡単に取れるデータを調べてみた。結果、
・既婚者においては、所得と子どもの数には関係がなさそう
・未婚者においては、結婚の障害であったり独身である理由に金銭的背景を挙げる者は、決して小さい割合ではないが、1990年前後からその構成比は変わらない

ということがわかった。こう考えると、
・少なくとも一人の子どもを育てる資力があれば、三人の子どもを育てられる(お金がないと複数の子どもを持てない、というわけではない)
・直近の晩婚化や独身志向は、金銭面を結婚の障害に感じている者の増加が理由ではない(そもそもそんな事象はない)

ということは言えそうだ。
ただ、ツッコミどころがないわけではない。

まず既婚者についてだが、図2で見たとおり、(長子が)未就学児では2014年から、(長子が)小学生では2019年から、平均所得水準が、子どもの数にかかわらず上昇している。逆算すると、2010年前後に結婚し、それ以降に子どもを作った夫婦の所得は、それ以前に結婚した夫婦より高くなっている可能性がある。
そしてそれは、2010年頃から「お金がないと結婚できない、子どもを持てない」という思想が広まった、少なくともその前提で結婚が捉えられ、そうした「条件をクリアした者」のみが結婚するようになった可能性を示唆する。

未婚者の方も、別の問題がある。
図3で指摘した「一生結婚するつもりはない」の増加だが、実は、「一生結婚するつもりはない」者は、単に(あるいは同時に)結婚資金不足の者であるのかもしれない、あるいは悪意を持って見ると、資金不足の問題を「自分の意志だ」とすり替えているのかもしれない。
ほかにも、これらの調査で調べているのはあくまで3番目までの障害、2番目までの独身でいる理由である。それより低位で、しかし多くの者で、結婚へのハードル等として金銭的背景を抱えている者が増え、そうしたデータに表れない範囲での影響が、婚姻率等に及んでいる可能性もある。
これについては、元々のアンケートが意識調査でもあり、他の側面からの検証が難しく、否定も困難だ。

データを素直に見れば、所得と出生数、結婚にはあまり関係がなさそうな気もするが、まだまだ裏取りは必要と考えられる。次回も引き続き、所得と出産、結婚との関係がわかるデータを確認する。次に確認するのは、「ほしい数の子どもをもてない理由」だ。

補足、データの作り方など

今回のデータは、出生動向基本調査、家計構造基本調査、人口動態調査から。これまでもさんざん使用したので、これらの補足は無し。各データの細かい点だけ補足する。

図1の、世帯年収と平均子ども数の関係で、2015年のデータは「なし」と「1~299万円」で分離しているので、2つを合体させた数字である。ちなみに「なし」のデータ数はごく小さい。ちなみにこのデータセットは、掲載していないが、やたら年収不詳が多い(母集団の1割以上)。年収不詳グループは別に平均子ども数が少ないというわけでもない。お互いしっかり稼いでいるが、その分お互いの正確な年収は知らない…という層なのもかしれない。
図3について、「結婚資金」と「結婚生活のための住居」の両方は棒グラフに表現していない。これは、「最大の理由」と「第二の理由」の2つを合算したいため。集計上2つ以上の質問項目で集計してしまうと、べき集合部分がノイズになる。同様に、図6の独身でいる理由については、最大~第3の理由として挙げた者の数のデータが取得できる。グラフ化されているのは、3つ目までに挙げた者の合算である。
また、図3と図5について、「質問が違う」という理由で、ありものでまとめられている時系列データでは、2005年分だけ欠損している。ただ、質問票自体を、2005年とそれ以外で比較しても、質問の違いはよくわからなかった。ただ実際、経済的理由を結婚の障害に挙げた者の割合は、2005年だけ妙に低くなってはいる。
ちょっと余談めいているが、特に図3と5については、デフォルトで公表されている数のユニバースが、「結婚意志があって結婚の障害が何かあると思っている者」になっている。図3で言えば、黄色と灰色の部分だけの数字が、既存の表として容易に取得可能となっていて、青とオレンジ部分の数字は、別の表から取得しなければならない形になっている。ただ、黄色と灰色だけ見れば、結婚の障害として資金面を上げる人は極めて大きいように見える一方、実際には、青とオレンジもいて、それを踏まえると、資金面が一方的に大きいわけでもないこともわかる。ちょっとデータの提供の仕方が不親切だな、と感じるところ。

最後に、結婚の障害と、独身でいる理由の回答項目一覧は、以下の通りである。

(結婚の障害)
・結婚生活のための住居
・結婚式(挙式や新生活の準備のための費用)
・親の承諾
・学校や学業上の問題
・職業や仕事上の問題
・年齢上のこと
・健康上のこと
・その他
・非該当(婚意なし・障害なし)

(独身である理由)
・結婚するにはまだ若すぎるから
・結婚する必要性をまだ感じないから
・今は、仕事(または学業)にうちこみたいから
・今は、趣味や娯楽を楽しみたいから
・独身の自由さや気楽さを失いたくないから
・適当な相手にまだめぐり会わないから
・異性とうまくつき合えないから
・結婚資金が足りないから
・親や周囲が結婚に同意しない(だろう)から
・その他
・不詳
・非該当(婚意なし・婚約中)

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