趣味のデータ分析002_資産所得倍増①_問題意識と資産所得の定義
資産所得って何?
というのをまず整理しておこう。今日の記事で分析までは多分いかない。
資産所得倍増とは、岸田首相、の(自称)参謀的な人が勝手に作り出した概念である。意味は言ってる本人も岸田さんも含め誰もわかっていないので、周りの人が一生懸命つじつま合わせをした概念でもある。
初出は下記。発言に修正が入っているってところは要注目ですよ。
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0505kichokoen.html
ま、政治家の人が振り込んで事態を動かすの必要だし、つじつま合わせ≒各種調整は官僚のお仕事ですが、もっとやり方あっただろうし、何よりワーディングのセンスがクソダサというのが率直な感想。いやマジで、資産所得とかどうでもいいから、給料増やせよ。
そもそも心ある人なら皆思うだろう。
「資産所得って何?」
定義はないです。
この言葉は「家計金融資産が2000兆円で~半分が現預金に偏っていて~」といういつもの議論の流れで利用されたのが初出のため、新聞等では、なんとなく株や債券からの「利子所得、配当所得」を「倍増」させる、というイメージで紹介されることが多かった。ただ、大門先生とかの国会質問とかを調べてもらえばわかるけど、政府としてはここを全く明言していない。実際のところ、「資産所得」にも「倍増」にも定義はない、というか、定義するとこの言葉の考案者のバカがバレるので定義ができない、というのが実際のところ。定義するとそれが具体的な達成目標になってしまい、むしろ政策立案の手足を縛るというKPI設定上の困難もある。
まあそもそも、まともな金融財政的直感のある人なら、「資産所得」には明らかに不動産収入が含まれると感じるだろうし、それを「倍増」させるなんて、格差拡大の匂いを感じるだろう。最低限、マルクス主義(あるいは現代的な左翼言説の少なくとも一部)の議論は、こうした不動産収入を持つ「資本家階級」による搾取を問題視していたのだから、この議論の正しさは別にして、「こういう議論が搾取や格差に対する懸念を惹起しうる」というリスク感覚は必要だと思う。
ていうか、この辺の感覚がない人間が霞が関の坂の上にいるってなんかすごいよね。このへんのピントがずれているってことが、数十年の役人人生で問題視されてないってことだもん。その分実務的には優秀だったんですかね。だったら実務家に徹して、標語作りからは足を洗っていただきたいですけどね、そこのセンスはないんだからさ。
それでも数字は存在する。
話が逸れた。ただ政府がどう言おうと、「資産所得」は、勝手に定義することができる程度には具体的で、かつ想像力を掻き立てる余地がある言葉である。
実際日経新聞は、資産所得倍増という言葉が出たあと割と早々に、独自にそれを定義し算出している。ソースは国民経済計算(GDP統計)のフロー編「制度部門別所得支出勘定」の「家計(個人企業を含む)」から引っ張り出した、その名も「財産所得」というデータで、「利子所得」と「配当所得」を取得できる。おお、それっぽい。それを復元したのが下記。
直近値は2020年度末、つまり2021年3月時点で、利子所得と配当所得の合計は13.9兆円。1億人で割ると、国民一人当たり13.9万円の「財産所得」を得ていたことになる。参考に載せたが、賃貸料は案外安かった。
ちなみにこれはフローのデータで、いわゆるキャピタルゲインは含まれていない。データリンクと定義は下記を参照。
(データ)https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2020/tables/2020i5_jp.xlsx
(定義)https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/2020/sankou/pdf/term.pdf
さて、個人的にはこれって結構良いデータだと思うんだよね。国民経済計算という超基本的な統計から得られたデータで、定義も明確。まあマクロデータなので統計上の調整項目等が紛れている可能性もあるし、政策上のKPIに直接設定するのは個人的には気持ち悪さがあるけど、「資産所得って何?」と聞かれたら、「GDP統計にある利子と配当の合算値です」と言うのは明らかに答えになると思う(加えたければ賃貸料も加えられる)。
で、「資産所得倍増」っていうのは、この「13.9万円を倍増=13.9万円国民の所得を増加させる」てことになる。年間14万円の所得増加は若干しょぼくも見えるし、まあしょぼいんだけど、海外旅行1回分の所得が増えると考えれば、悪くない規模感な気もする。月一万円給料増えると見てもいいだろう。
ていうか、他の数字もある。
で、まあこれで終わってもいいんだけど、少なくともあと2種類、「資産所得」を定義というか推計できるデータを見つけているので、これについては次回以降の記事で考えてみる。