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趣味の読書001_百年の孤独(ガルシア・マルケス)

百年の孤独が文庫化された。正直なんで今更?という感じだが、「文庫化すると世界が滅ぶ」とか言われていたらしい。絶対Xでネタにしていた人がごく少数いただけだと思うけど。

まあ、今更百年の孤独の内容についてくだくだ書くことはない。日本語では、焼酎の名前で検索が非常にやりにくい(ちなみにガルシア・マルケスも、同名のファッションブランドがあって、昔は検索がやりにくかった)という問題はあるのだが、英語でもスペイン語でも解説は腐るほどあるし、日本語でも、下記のようなわかりやすい解説はいくらでもある。ていうか、鼓先生や筒井康隆氏の解説を読んでおけばだいたい分かる。

本当はスペイン語原本や英語版くらいは読んでおくべきだと思っているのだが(東京在住者なら、比較的容易に手に入ると思う)、いかんせん面倒なので読んでいない。やはり異なる部分は多いとも聞く。スペイン語って、英語よりはマシだが、それでも日本語にはあまりない感覚というか、日本語だと過剰/過少となってしまうニュアンスは結構多い気がする。まあ、言語が異なるということはそういうことなんだろうけど。

また、今回の文庫化で良かったのは、池澤夏樹氏による解説小冊子?が、フリーダウンロードできること。これの何が「読み解きキット」なのか、よく分からんが、家系図がしっかりしているのは良いと思う。ロシア文学が一番ひどいけど、登場人物の名前だけでも掲載されていると、だいぶ読みやすい。

あとこれは今回始めて知ったのだが、以下のような本もあるのね。これもちょっと読んでみたい。

百年の孤独を読むたび思うこと

百年の孤独は過去多分12回ほど読んでいるのだけど、毎回やろうと思ってできていないことがある。

一つは、鼓先生の解説の中で言及のあるとおり、作者自身が「42の矛盾と6つの重大な誤り」があるとしていること(鼓先生も、翻訳の中でこれらを修正していないらしい)。まあ12回読んでいたら、それなりに作中の矛盾や間違いには気づいているのだが、42個も流石に発見できていないし、「重大な誤り」ってなんやねん、というのは、毎回チェックしようと思って、結局面倒でできていない。
そもそもこの指摘自体が作者のジョークの可能性もあるのだが、実際に間違いがあるので、全部がジョークとも言い切れない。正直、何が矛盾で間違いなのか、よくわからないことも多い(17人のブエンディアの「最も長生きした者が35歳までしか生きなかった」というのは明確な誤りだが、ホセ・アルカディオがサンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダと結ばれたタイミング(そして、小町娘のレメディオスが生まれたタイミング)がかなり意味不明であることとか、「一族の最後の者」が実際にはレナータ・レメディオスであることとかは、「重大な間違い」なのだろうか)。過去、これらの誤りについての調査情報がネットに転がっていないか、調べたこともあるのだけど、当時は見つけることができなかった。そもそもスペイン語で確認すべきなんだろうが、知ってる人がいたら、教えてほしい。

もう一つは、作中の時系列。これまた鼓先生の解説によれば、物語の終焉は1928年であるらしく、物語の始点(どこが物語の時系列上の始点かは難しいが)は18世紀後半~19世紀初頭ということになる。ウルスラが120歳を超え、ピラル・テルネラが150歳前後で死んだことを考えると、そもそも本作で描写されている事象全体は100年を超えている(そもそも物語の始まりは、フランシス・ドレイクによるリオアチャ襲撃で、有に数世紀を超える)と考えるべきだと個人的には思っている。あえて言えば、100年というのは、作中の一行目、アウレリャノ大佐の処刑(未遂)から数えてなのではないか。
ともあれ、具体的に描かれる正確な時系列は不明であるが、作中で時系列、というか、少なくとも無数にあるエピソードを時系列に並べることは可能である。それが可能な程度には、この小説は割とはっきりした構造を持ったわかりやすい話であるはずなので、再構成したいと思っているのだが、これまた面倒で、ホセ・アルカディオの帰還くらいまでしかできなかった。これも誰かもうやってたりしないかなぁ。

なんで今更流行ったのか??

さて、なんでこの百年の孤独、今更流行ったのだろうか。ガルシア・マルケス没後10年という、一応の節目の年での文庫化だが、その前に全集も出てるし、ノーベル賞を受賞したのは1982年である。マルケスを始めとするラテンアメリカ「ブーム」は、さらにその前。今更欠品するほど文庫が売れた理由が分からない。というか、そのせいで文庫の初版が入手できなかったのがムカつく。「百年の孤独 売れた理由」とかでググると焼酎が出てくるのはもっとムカつく。

まあ、事前のプロモーションがどうとかの話もあるようだが、そんなんでバカ売れするような小説だろうか。浅田彰の「構造と力」がバカ売れしたのと比較するコラムも見たが、流石に違うと思う。「構造と力」は面白くないし。
ちょっとソースを出せないのだが、ヤフコメかなんかで、38歳くらいの男性が、「学生時代に読もうと思って挫折したが、文庫化で改めて読もうと思った」という評価があって、実際これがメインじゃないだろうか。1970年代後半のラテンアメリカ「ブーム」を生で体験した人は、現在結構なご高齢であるだろうが、まだまだ現役世代な気もするし、腐ってもノーベル文学賞受賞者の最有名作品、当時読もうとチャレンジした人は多かったのだろう。
あと、個人的なマルケスとの出会いは、学生時代の教科書に掲載されていた、「光は水のよう」(「12の遍歴の物語」のうち、11番目の挿話)で、その衝撃でそのまま家で紙魚に食われていた「族長の秋」と「百年の孤独」を読んだのだが、まあそこまでの衝撃を受けなくても、「ブーム」の後にずいぶん時間が経ってから、教科書等でガルシア・マルケスという作者の名前を知った人がぼちぼちいたのではないか(上記の挫折男性は、そのたぐいではないか)。挫折するほど難解な小説では全くないので、なんで挫折したのかはよく分からんが(「族長の秋」のほうが、よほど読みにくいと思う)。

文庫本がこんな売れ方をするのは珍しいと思うが、「泳ぐたいやきくん」にせよ「鬼滅の刃」にせよ、そういう事象が過去なかったわけではないし、個人の趣味が超多様化した2010年代以降でも、こういう事象が身近で起こるもんだな、というのは興味深い。
実際の購買データの詳細がどれくらい取得可能なのか、実店舗で買った人も多かろうので難しいとは思うが――そもそも「(販売後1ヶ月も満たずに4刷になる程度には)予想以上に売れた」というだけで、具体的に何冊売れたのか、それがどれくらい特殊な現象だったのか、という確認も必要だが――この「百年の孤独」ブームがどういったものなのか、いつかどこかで誰かが定量的定性的に分析してもらえると嬉しいなぁ。

今回、全部他力本願だな。以上。

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