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「就職活動で人生が変わった話とESの書き方(6200字)」 (株)カラス-牧野圭太の就活

こんにちは。株式会社エードット取締役副社長/カラス代表の牧野と申します。渋谷で広告を中心としたデザイン会社を経営しています。

僕は2009年に新卒で博報堂に入社し、2015年に退職して自分で会社を始めるまで6年の間、制作局に所属していました。先日 #就活ONLINE の番組に出演させてもらったのですが話しきれなかったのでnoteに書かせてもらうことにしました。

ざっくりした経歴だけ話すと、順風満帆のように思われるかもしれませんが、僕の就活は決して楽なものではありません。あまりにパッとしない大学生活を送っていたからです。大学3年の終わりに就活をはじめ、一度諦めて大学院にいくという選択をしています。何を考え、どう行動したのか、少しでも参考になればうれしいです。

就職活動で人生が変わった

僕は大学という環境にほとんど馴染むことができず、ほとんど無意味な学生生活を送っています。そこそこに授業を受け、そこそこにバイトをし、そこそこにバスケ(サークル)をしていました。とても無気力で、将来の夢もやりたいことも特にありませんでした。シンプルにダメな大学生だったのです。

大学3年の終盤に差し掛かった頃、周りが就職活動をとっくにスタートしている中で「俺もそろそろ就職というものを考えなくちゃいけないのか」と遅いスタートを切りました。ひとまず大学の本屋に行き、就職関連の雑誌をいくつか書いました。そこで初めて「博報堂」や「電通」といった会社を知り、広告業界の存在を知りました。「ずいぶんと古風な名前なのに、やたら人気があるんだなぁ」と思ったのですが、調べていくうちに「広告」という仕事はなんだか面白そうだと思うようになりました。

しかし、僕がそう思ったタイミングですでに就活は佳境です。1ヵ月後にはESの締め切りが待っていました。そこで必死に広告業界のことを勉強し、急いでツテを辿ってOB訪問をしたりしました。広告業界、博報堂への興味はどんどん強くなり「この会社に入りたい」という思いは強くなる反面、エントリーシートを書くことがまったくできない日々が続きます。

その頃の博報堂のESには「自分の強みを5つ書き出しなさい」というようなものがあったのですが、どれだけ自分を好意的に捉えても、誇れるようなものを見いだすことができませんでした。ロクでもない大学生活を過ごしていた僕は自分にまったく自信がなかったのです。

僕は一度そこで就職活動を諦めました。

「(自分の中に)何もないのだから仕方がない。それは作るしかないのだ」と腹をくくり、大学3年の3月頃から、大学院の受験へと切り替えました。そこから確か夏までの数ヵ月、死ぬ思いで勉強をし(大学に入ってから初めて勉強しました)、大学院に入学することが決まりました。

大学院の1年目では、きちんと「自分の成果」だと思えるものにひたすら挑戦しました。大学のプログラムを利用して、シリコンバレーでプレゼンする機会をもらったり(プレゼンは散々でしたが)、情報処理推進機構が行なっている「未踏エンジニア」に挑戦し参加させてもらうなど、いくつか人に語れるような実績を作ることができました。

無気力で無力だった僕は、就活をきっかけに息を吹き替えしたのです。就活は楽ではありませんが、少なくとも僕にとっては、自分を変える大きなきっかけになりました。社会を知り、会社を知り、素敵な社会人と出会い、はじめて将来に希望が持てるようになったのです。

就職活動は簡単なものじゃないかもしれません。望みが高いほど、悩みは深くなります。だからといって、それをウダウダ言ってもはじまりません。望むものにむかって懸命に堅実に努力をするか、望みを捨てるほかないのです。

ここには僕がESや志望動機に関して行った努力について書いていこうと思います。何かすこしでも参考になったらうれしいです。

ESへのこだわり

僕はESに相当な労力をかけました。誰よりも業界や博報堂のことを調べ、オリジナルな内容を作ることに時間を使っていたように思います。

博報堂が第一志望で、唯一入りたいと思えた企業。他のことはあまり考えず「どうすれば博報堂に内定できるか」を一直線に考えていました。そして実際に博報堂に内定したとき、他に一社も内定はありません。いま考えると、遠くから針の穴に糸を通すような危なっかしい就活です。

でもその時は「きっと入れるだろう」という確信めいたものがありました。なぜなら自分ほど戦略的にESを書いた人はあまりいないと思っていたからです。自分で考えて書いて書き直して練り続けた結果がものすごく大きな自信となりました。

ESの設計とは?(ESの書き方と面接での伝え方)

ESの設計とは、自己PRと業界への志望動機、会社への志望動機をどう文章で組みたてるか、ということです。「自分はこういう人間なので、広告業界にいきたい(むいている)」といったことです。これがきちんとできていれば、ESだろうが面接だろうがうまくいくだろうと思います。自分の就活時の設計メモをそのまま載せます。(今見るとかなり恥ずかしいのですが…)

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◆「情報は、人の情けを報じること」(業界志望動機)
僕は理工学部の情報系をでて、情報系の大学院にいきました。それなりの成果は残してきた自負がありますが、最終的に情報系の社会に希望を見出すことができませんでした。巨大なシステムの末端で指示書どおりのプログラムを書く人が大勢います。そのような日本の情報社会に、人間らしさが失われているような気がしてなりませんでした。

情報というのは「情けを報じる」と書きます。こんなに機械的な世界に「情」があることが不思議になりました。自分は、人の感情や、ひとらしさ、人間味、というものを大切にする仕事につきたいと感じていました。

そう考えたときに、本当の情報は「広告」にあるのではないかと考えるようになりました。なぜなら、誰かがものづくりやサービスに込めた「情」を社会へと伝え、それでされに社会の人の情も動かす仕事だからです。人の「情」を大切にするビジネスの一つが広告業界かもしれない。僕は、人らしさ、人間味、そういったものをビジネスに活かしていく広告マンになりたいと考えています。

なぜ博報堂なのか?(電通ではなく)
例えばスポーツで見比べてみると、電通は、オリンピックやW杯といった「巨大なもの」を動かす力を持っています。それはとてもかっこいいことだと思います。そう言った意味で、電通は「力」を持った会社です。

それに比べて博報堂がやっているのは「箱根駅伝」「Jリーグ」や「プロバスケリーグ」の立ち上げです。一見地味ですが、いずれも立ち上げから関わり、ずっと寄り添って続けている素晴らしいコンテンツだと僕は思います。パワーよりも、「情」を持ってやっているように見えるのです。そのような気持ちを大事にする仕事をしたいと思い、僕は博報堂を志望したいと思います。

具体的にやりたい仕事は?
僕は今、iPodを使っています(この頃はiPhoneが出たばかり)。とても使いやすくて、便利で、そしておしゃれです。でも裏面をみると、そこにリンゴのマークがあることに、少し悲しくなります。なぜなら「初めて音楽を持ち運べるようにしたのは、日本のsonyという会社だったはずだ」からです。

それにもかかわらず、いまはアメリカのアップルに取られてしまいました。それは「技術力」の差ではなく、ちょっとした違いだと思うのです。例えば、appleのイヤホンが白いことで、電車で見かけてもapple製を使っていることがわかるようにしたりしていることです(その頃イヤホン=黒というのが常識だった)。

広告業界こそ、そういった部分をサポートできると考えています。僕は、広告会社という立場から、Sonyのような日本を代表する企業をサポートする仕事をしていきたいと思います。

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他に細かいネタも用意しましたが、大枠のメモはこれで以上です。

就活において、とても大事なのは「伝える内容に芯があるか」です。なくてもうまくできる人はいますが、あるとESも面接も格段にやりやすくなると思います。

POINT 1 相手が言われて嬉しいことを伝える
「人の情けを報じる、人の情を動かす、本当の意味での『情報』を作っているのは博報堂である」「博報堂は"情"の会社」と、言われて嫌な気がするわけがありません。「人の気持ちをもっとも考えている仕事」と言われたら面接官だって嬉しいにきまってます。

POINT 2 ちゃんと調べたことを伝える
例えばスポーツのくだりです。箱根駅伝やJリーグを長年やっていることなど、少し調べただけではわからないもので、OB訪問を通じて知ったネタでした。それを使い、「力の電通」と「情の博報堂」という対比をしました。

POINT 3 面接は、面接ではなく、会話だと思うこと
自分は面接において、「僕は今iPodを使ってるんですが」というような、個人的な話で、かつ口語的に話をしました。それは「面接はできるだけ会話であるべき」だからです。友達や先輩と話すときと、本質的には同じなんです。だから「はい!私は、御社の強みである・・・・」みたいな普段使わない言葉や言い回しは極力使わないようにしました。「とにかく会話である」ことを忘れないといいと思います。面接官だって、悪い人はなかなかいないので「どんな人か知りたい」だけです。例えば、"あ、自分変なこと喋ってるかも"と思ったら「すみません、なんかとんちんかんなこと喋りました(笑)」とか言って、ちゃんとその場で対応することが、本当のコミュニケーションだと思います。

POINT 4 文章の展開で驚かす(伏線まで考える)
「やりたい具体的な仕事は?」と聞かれて、iPodの話から入ったのには別の理由もありました。僕はAppleが博報堂の巨大クライアントの一つであることを知っていたのです。すると面接官の人たちははじめ「あぁ、こいつはAppleを担当したいのかな」と考えるはずです。だけど話の流れはそこから展開し「Sonyのような日本の大企業を支えたい」という流れになるわけです。つまりiPodはただの伏線で、「なんだ、Appleか・・・」という「普通」から、「日本企業を支えたい若者」というポジティブな落差がつくれました。

POINT 5 なんども喋って練習する
大きなぶれない流れがつくれていたので、ESも面接もとても楽でした。この内容を、どう聞かれても答えられるように、壁に向かって喋りまくりました。夜に一人で壁に向かって話すのはバカらしいですが、それをやっているのとやっていないのでは大きな差がでます。スピーチと同じで、実は練習がモノを言う世界だったりします。

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博報堂の同期と入社後に話しましたが、みんなこんな風にがんばって書いてるわけではないようでした。ほとんどがもっと気楽に自由にしゃべって博報堂に内定していたように思います。

ただ、自分はそこまで人前でしゃべることが得意じゃなかったし、自分の能力に自信もなかったので、準備が必要でした。このやり方はそういった「うまく立ち回れない」人のやり方かもしれません。

大切なのは、「具体性」ではなく「固有性」

就活本なんかをみると、よく「具体性を大切に」みたいなことが書いてあります。そして「数字」や「固有名詞」を使え、みたいな話になります。でもそれは本質的ではないのです。

数字なんて聞きたいはずがありません。みんな勘違いして「サークルのイベントで何千人を集め・・・」とか言い出すのですが、数字は自慢になりがちです。

大事なのは、「固有性」のほうです。言い換えればオリジナリティです。自分でしか話せない、自分の本音を話すべきです。「ありのままに」といっているわけではありません。自分にしか話せない、自分の本音をひねり出すのは結構大変なことです。

僕の上司は博報堂の面接でこんな話をしたそうです。

面接官:どうして博報堂なの?
上司:博報堂の人のほうがおいしいものを食べさせてくれたからです。
面接官:え?(ふざけてんなこいつ・・・)
上司:それに比べて、電通は高いものを食べさせてくれました。博報堂の人はみんな安い居酒屋なんですけど、それがおいしいんです。それをみて、博報堂の人のほうが見る目があるのだと感じたし、好感を持つようになったのがひとつのきっかけです。

「自分ならではの体験」からきちんと語れると、相手の印象に残ります。でも簡単じゃありません。たくさんの人に会って、話をして、話を聞いて生まれるものです。どうか「固有的」な言葉を探してください。

入社できると信じた人が入社する

最後に、これは僕が思うもっとも大切な真理です。博報堂もそうですが、少なくとも10,000人が受けて、100人入社なので、倍率は100倍です。数字だけ見るとビビってしまいます。

だけど、その中で、本気で受けている人がどれほどいるでしょうか。「自分は本気でこの会社を目指している」と思ってる人って1,000人もいないと思います(感覚ですが)。ほとんどの人が、同じように不安を抱えているはずです。

僕は博報堂にいた6年間で、合計50人くらいからOB訪問をうけました。実は、その中から博報堂に内定し、今も働いている人間は「1人」しかいません。そいつは、大して「できるやつ」でもないし、博報堂の社員にはほとんどいない大学出身でした。もちろんコネもありません。

ではなぜ彼は内定したのか。それはたぶん、彼が僕の高校のバスケ部の後輩だったからではないかと考えます。「あの身近な先輩の牧野さんだって入れたんだから自分だっていけるはずだ」と思いながら、僕の話を真に受けていたのだと思います。僕のことを「雲の上の人」と捉えずに話を聞いていた。それだけでもだいぶ違うだろうと思います。そんな彼は今も、博報堂の営業として働いています(大変そうだけど) 。

最後に、一番言いたいこと。

とてもとても長くなってしまいました。
就職活動には、ネガティブな面もたくさんあります。でもポジティブに取り組めば大きな意義のあるものにもなります。「人に会える機会が多くある」からです。どんな企業の人も「就活」を使えばだいたい会ってくれます。出会いを楽しめば、就活は決して悪いことはありません。そして、楽しんでいる人がいちばん強いものです。

最後に、一番言いたいこと。社会人はめちゃくちゃ楽しいです。僕は学生時代の100倍、楽しんでいます。フィールドは広大で、ルールはフレキシブルです。それに比べたら、学生時代はいかに閉鎖的で苦しかったことか。だからどうか、そういう希望を持って、就活してみてください。広く楽しく愉快な未来が待っています。

キャリタス就活さんの「就活ONLINE」のデザインなどを弊社が担当させていただいており、一緒に企画なども考えています。Twitterを中心に様々な情報を配信していきますので、ぜひフォローしてください。



(執筆:牧野圭太