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第40回 構想の膨らみ・仮説

香子は、祖母が語ってくれたいろいろな話を思い出していました。
昔、延長の折の葵祭りで、祖母の父定方の車の従者と別の貴族の車の従者がひどい喧嘩をして怪我人が出たこと、醍醐の帝の弘徽殿の女御と呼ばれ、朱雀の帝の母でもあった穏子という方がとても気が強かったこと。
そして最近話題となった東宮妃綏子(やすこ)が源頼定と密通した話はそれとなく入れようと思いました。
しかし現実の東宮妃では語弊があるので、昔の書を調べてみました。
すると醍醐の帝の皇子で東宮のまま二十一歳の若さで亡くなられた保明(やすあきら)親王がおられてその妃・仁善子(にぜこ)はあの左大臣・時平の娘で「前東宮妃(さきのとうぐうひ)」と呼ばれていました。また皇子を産んでいたので「御息所」とも呼ばれていました。

六条の河原院(現在は五条に址【あと】があります。豊臣秀吉の区分替えで)で源融の怨霊がよく出ると噂でした。香子は「嫉妬に苦しむ女」を書きたいと思っていました。前東宮妃を嫉妬深い女として光源氏の正室を憑り殺してしまう・・・「六条の御息所」を誕生させました。父は大臣で財産がたくさんあります。やがて光源氏の情人となり、正室と対立します。
葵祭りで出会ってしまい、二人は争う。辱しめを受けた御息所は生霊となります。正室は生霊に殺される。葵祭りが原因なので正室の名は「葵」としました。

香子は『伊勢物語』が好きで、初段の「若紫」を女主人公にしたく思いました。曽祖父の北山の山荘で少女・若紫を発見する。構想はどんどんと膨らんでいきました。(続く)

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