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第23回 リーゼ・マイトナーの脱出(2)

リーゼと同じくユダヤ系で5年前にアメリカに亡命した以前の同僚、ノーベル賞も受賞しているジェームズ・フランクに手紙を出すと誘いの返事が来ました。「シカゴ大に勤務しているが、きちんとした待遇をすると約束しよう」
けれどジェームズからの暖かい誘いにももうじき60歳になるリーゼは、
「やっぱりアメリカは遠いわ」と乗り気ではありませんでした。
6月6日になって心配したデンマークのボーア夫妻がベルリンまで来てくれました。
「オランダは外国人を教授としないというし、スウェーデンのシーグバーン教授がもうすぐ研究所を立ち上げるので研究員を募集していると聞いた。ビザも発行してくれそうだし」
ボーアは自分の母がユダヤ人である事もあって、ユダヤ人の亡命お手伝いを多くしていて、ジェームズ・フランクの亡命も彼によるものでした。リーゼはシーグバーン教授とそう親しくはなかったけれど、顔見知りではありました。ボーアは更に言いました。
「前に私の所にいたオランダのコスターが貴女の事を心配している。私と同じ様にユダヤ人の救出に一生懸命だから力を貸すと言ってくれている」
リーゼはコスターの事を覚えていました。
「コスターとはスウェーデンのルンド大学で一緒だったし、15年前の私のオランダ講演の時には興行主をしてくれたわ」
男気のある信頼できる人でした。(続く)

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