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なぜ、人はありもしない因果関係を信じてしまうのか?~因果の錯覚、疑似科学、そして科学との境界問題~
合理的な根拠がないにも関わらず、正当化されてしまう信念は、epistemically unwarranted beliefs(以下、認識論的に不当な信念)と呼ばれます。超常現象や陰謀論、疑似科学的な主張を、科学的な根拠が存在しないにも関わらず、強く信じてしまう状態のことです(Emilio, et al.2014: doi: 10.1002/acp.3042)。
陰謀論とはやや大げさですが、僕たちは日常生活の中でも「縁起が悪い」「不吉な兆候」などと言った迷信めいたことを信じ、時に存在しない何かに祈りをささげることで日常の不安から逃れようとします。
欧州では、ラッキーナンバーを信じている人が人口の40%にも上り、米国人の37%が占星術を科学的だと考えているとも言われています(Torres MN, et al.2022;PMID: 36084028)。
認識論的に不当な信念が形成される条件について、これまでに数多くの研究が行われてきましたが、その認識論的な基盤は未だよく分かっていません(Susan. B, et al.1985;DOI: 10.1111/j.2044-8295.1985.tb01969.x/Peter.B , et al.1990;DOI: 10.1111/j.2044-8295.1990.tb02372.x/van Prooijen JW, et al.2017;PMID: 29695889/Wiseman R, et al.. 2006;PMID: 16848946/Rodríguez-Ferreiro J, et al.2021;PMID: 34934119)。
ただし、認識論的に不当な信念が形成される背景には、因果関係の錯覚(Causal illusion)と呼ばれる現象が密接に関わっています。因果関係の錯覚とは、無関係な二つの出来事の間に、因果関係が存在するという誤った印象を指す概念です(Matute H, et al.2015;PMID: 26191014)。
因果関係の錯覚は、偶然性を検出するタスクの文脈で、実験的に誘導できるとされています。例えば、被験者に対して、検討候補となる原因と結果の二つの出来事がどれほど関連しているかを判断させるような実験を行うのです(Barberia I, et al.2019;PMID: 30733692)。
むろん、検討候補の原因と結果の2つの出来事は単なる偶然的事象であり、そこに因果的な繋がりはないものとして実験を行うわけです。
今回の記事では、因果関係の錯覚と認識論的に不当な信念の関連性を整理したうえで、様々な情報に対する解釈や情報の検索プロセスが、認識論的に不当な信念にどのような影響をもたらすのかについて考察します。
因果的な錯覚と認識論的に不当な信念の関連性
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