【ビジネス教養としての簿記・会計(第7回)】量的拡大に依存した成⾧の終焉:カルビーとジャガリコの海外戦略
ある業界に新規参入しようとする企業にとって、参入を妨げる障害のことを参入障壁と呼びます。米国の経営学者、マイケル・ポーターによれば、参入障壁を測る具体的な指標の一つに、規模の経済性を挙げています(Porter,M.E. 2003)。
大量生産が可能な大企業において、事業規模が大きくなればなるほど、単位当たりのコストが小さくなり、競争上有利になる効果を規模の経済性(Economies of scale)、もしくはスケールメリットと呼びます。
例えば、カルビー株式会社(証券コード:2229)は、2000年代の初頭に、主に規模の経済性によって原価を抑え、商品知名度を武器に収益性の改善をはかってきました。
その年に買える量のジャガイモはすべて買う……という企業努力は、同社のEPS(1株当たりの当期純利益)やROE(株主資本当期純利益率)の推移をみれば明らかです。
ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社代表取締役社長だった松本晃氏がカルビーのCEOに就任した2009年以降、2017年にかけてEPSおよびROEは継続的に上昇してきました。
一方で、カルビー株株式会社の株価は、同業である株式会社湖池屋(証券コード:2226)の株価とは対照的に、2017年以降は右肩下がりとなっています。むろん、その要因は【図1】を見ても明らかなように、EPS成長の鈍化とROEの低下に起因しています。
カルビー株式会社は、規模の経済性とブランド力によって参入障壁を築き、競争有意なポジショニングをとってきました。しかし、近年の業績低迷は、皮肉にも自ら作り上げた参入障壁によってもたらされたと考えられます。
規模の経済性の確立などにより、参入障壁に守られた業界に安住していると、経営が保守的・硬直的になりがちになってしまうからです。参入障壁自体が足かせとなり、経営の柔軟性が失われていくのです。
カルビー株式会社は、2024年2月21日付で、「カルビーグループ成⾧戦略企業変革のこれまでとこれから」という資料を公開しました。
PDF🔗https://www.calbee.co.jp/ir/pdf/2023/growthstrategy_20230221.pdf
同資料には、「組織・仕事が守り・内向きになっており、変化への対応力が弱く、変革を実行する事業基盤や仕組みが不足」という企業課題が明示されており、まさに参入障壁に安住した結果、付加価値創造のための取り組みが阻害されてしまった状況を物語っています。
このような企業課題を踏まえ、カルビー株式会社は「2030年には持続的に成⾧できる事業ポートフォリオへと転換する」と宣言しており、特に同社の人気商品である「じゃがりこ」の海外展開を模索しているようです【図4】。
企業の成長戦略を俯瞰するフレームワークとして、アンゾフの成長マトリクスを挙げることができます。米国の経営学者やアンゾフは、成長戦略を「製品」と「市場」の2軸におき、それをさらに「既存」と「新規」に分け、4象限のフレームワークを提唱しました【図5】。
カルビーの成長戦略である「じゃがりこ」の海外展開は、既存製品×新規市場=「新市場開拓戦略」に該当します。
既に国内市場は飽和しており、市場新党戦略が頭打ちとなった今、カルビーが目指すべき戦略は新市場開拓戦略なのかもしれません。ただ一方で、もう少しだけリスクをとりつつ、多角化戦略への注力も必要かもしれませんね。
その意味で、カルビー株式会社の成長戦略が確かな軌跡を残すためには、【図6】の新規領域のKPI、新規領域売上高比率5%を大幅に上回ったときと言えるかもしれません。
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