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アミロイド仮説の光と影—アルツハイマー病新薬に対する期待と現実のギャップ

 認知症の発症率は、年齢が6歳増すごとに倍増し、60~64歳では1,000人年あたり3.9人、90歳以上では1,000人年あたり104.8人です。人口の高齢化が進む現代社会において、2050年までに世界で1億3,150万人が認知症を患うと推計されています(Frisoni GB, et al.2022;PMID: 34815562)
 
 レカネマブドナネマブのような抗アミロイドβ抗体薬は、アミロイド仮説と呼ばれる理論に基づいて開発されたアルツハイマー型認知症の治療薬です。アミロイド仮説は、アルツハイマー型認知症の発症メカニズムに関する合理性の高い理論仮説といえますが、絶対的な正しさが検証された理論ではありません
 
 歴史を振り返れば、天動説から地動説への転回、ニュートン力学から相対性理論への転回など、有力な理論仮説が新しい理論仮説に置き換わった事例はいくつも見出すことができます。
 
 生物医学的な探求の進歩によって、アルツハイマー型認知症の発症を、極めて合理的に説明する(現象を救う)仮説が新たに生み出される可能性もあるでしょう。その時、抗アミロイドβ抗体薬の存在意義は少なからず揺らぐことになります。
 
 今回の記事では、アルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー病)におけるアミロイド仮説の妥当性を整理したうえで、抗アミロイドβ抗体薬の臨床試験の歴史を振り返りたいと思います。

アルツハイマー病におけるアミロイドβ仮説を支持する根拠

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