三連連唱歌の調べ[2] 定義集
以下のすべてにおいて,k,nは正の整数(1,2,3,……)とする。
(1) 「拍節音価」および「単位音価概念」
「旋律中のどの長さが1拍の長さであるか」については,本稿で扱う曲ではすべて「聴感上明らか」としてよいと思われる。その1拍の音価を「拍節音価」という。原則として,歌詞の語句の一音節が乗る音価のうちの最短の音価を「単位音価」という。すなわち三連連唱を扱う本稿においては「拍節音価の3分の1の音価」を単位音価とする。拍節音価の3分の1よりもさらに短い音価に歌詞の音節が乗るような例外的な曲もいくつか扱うが,その場合でも「単位音価」は「拍節音価の3分の1」とする。
この(1) がやや回りくどい表現になるのは,各曲の楽譜が何分の何拍子で書かれているのかは一般には不明なためである。4拍子か2拍子かは聴いただけでは不明,実質2(4)拍子である8分の6(8分の12)拍子の可能性,速い3拍子を1小節1拍にとる場合,そもそも“分母”の音符の種類は今は本質とは関わらない…などなど,様々を考慮していった一つの着地点として,上のようなまとめになる。多くの曲では「4分の4拍子,1拍中の三連符は8分音符の三連符」として書かれているだろうから,以下では,「拍節音価」を「4分音符(の音価)」,「単位音価」を「3連符連桁内の8分音符(の音価)」に置き換えて読んでもらっても大方差し支えない。
(2) 「長音」
単位音価よりも長い音価の音符を「長音(長音価音)」という。
(3) 「拍頭」「拍央」「拍尾」
1拍の中の単位音価の3つの位置について,先頭位置を「拍頭(はくとう)」,中央位置を「拍央(はくおう)」3つめの位置を「拍尾(はくび)」という。拍頭の音を「拍頭音(はくとうおん)」,拍央の音を「拍央音(はくおうおん)」,拍尾の音を「拍尾音(はくびおん)」といい,それぞれの略称を「頭音(とうおん)」「央音(おうおん)」「尾音(びおん)」とする。
(4) 「連続音」
旋律の歌唱(の記譜)に「単位音価音ばかりが2個以上続いて並ぶ箇所」がある場合,次の(4-1)または(4-2)のいずれかの部分のことを「連続音」という。
(4-1) その箇所の直後が長音ならば,先頭の単位音価音からその長音までの(すなわちその長音自体も含む)部分
(4-2) その箇所の直後が休符ならば,単位音価音の並んだその箇所全体
(5)「開始音」「末音」
連続音の最初の音を「開始音」という。
連続音を形成する最後の音(すなわち(4-1)の長音または(4-2)の「休符」直前の単位音価音)を「末音(まつおん)」という。
(6) 連続音の「長さ」
1つの連続音に含まれる音の総数を連続音の「長さ」といい,長さがkの連続音を「長さkの連続音」または「k連続音」という。
(7) 「連唱」「k連唱」
頭音を2個以上含む連続音を「連唱(れんしょう)」という。k連続音である連唱を「k連唱」「長さkの連唱」という。
以下の「譜例」について。
◇末音を除き,拍頭の単位音価音を j,拍央・拍尾の単位音価音を i で表す。
◇末音だけは単位音価音と長音の区別をせず,拍頭なら j,拍央・拍尾なら i で表す。
(8) 連唱の「次数」
「『1つの連唱に含まれる頭音の総数』から1を引いた整数」を連唱の「次数」という。次数がnで長さがkの連唱を「次数nのk連唱」または「n次(の)k連唱」という。
例えば,以下の連唱の次数はいずれも2である。
(8-1) 拍頭からの長さ7以上9以下の連唱
j i i j i i j,j i i j i i j i,j i i j i i j i i
(8-2) 拍央からの長さ9以上11以下の連唱
i i j i i j i i j, i i j i i j i i j i ,i i j i i j i i j i i
(8-3) 拍尾からの長さ8以上10以下の連唱
i j i i j i i j, i j i i j i i j i ,i j i i j i i j i i
(9)「単連唱」
「次数1の連唱」すなわち「頭音をちょうど2個だけ含む連唱」を「単連唱(たんれんしょう)」という。すなわち単連唱には,開始位置と長さによって区別すると次の9通りがある。
(9-1) 拍頭からの長さ4以上6以下の連唱
j i i j,j i i j i,j i i j i i
(9-2) 拍央からの長さ6以上8以下の連唱
i i j i i j,i i j i i j i,i i j i i j i i
(9-3) 拍尾からの長さ5以上7以下の連唱
i j i i j, i j i i j i,i j i i j i i
(10)「多連唱」「重連唱」「複連唱」
「次数が2以上の連唱」すなわち「頭音を3個以上含む連唱」を「多連唱(たれんしょう)」という。(8-1)(8-2) (8-3) からもわかるように
(10-1) 拍頭からの長さ7以上の連唱
(10-2) 拍央からの長さ9以上の連唱
(10-3) 拍尾からの長さ8以上の連唱
は多連唱となる。多連唱のことを「重連唱(じゅうれんしょう)」ともいい,nが2以上のとき,n次の連唱を「n重連唱」ともいう。nが2以上のとき,以下はいずれもn重連唱である。
(10-4) 拍頭からの長さ3n+1以上3n+3以下の連唱
(10-5) 拍央からの長さ3n+3以上3n+5以下の連唱
(10-6) 拍尾からの長さ3n+2以上3n+4以下の連唱
2重連唱すなわち2次の連唱を特に「複連唱」ともいう。
(11)「準連唱」「準連唱の次数」
「長さが3以上の連続音のうち,頭音をちょうど1個だけ含むもの」を「準連唱(じゅんれんしょう)」という。すなわち準連唱には,開始位置と長さによって区別すると次の6通りがある。
(11-1) 拍頭からの3連続音 j i i
(11-2) 拍央からの長さ3以上5以下の連続音
i i j,i i j i,i i j i i
(11-3) 拍尾からの長さ3または4の連続音
i j i,i j i i
準連唱にも次数を与える。準連唱の次数は0と定める。
(12)「拍頭連唱」
「開始音と末音がともに拍頭音である連唱」すなわち「拍頭からの3n+1連唱」を「拍頭連唱」という。例… j i i j i i j (長さ7の拍頭連唱)
(13)「切分的」「切分連唱」
末音が頭音でない連続音を「切分的」と形容し,切分的な(準)連唱を「切分(準)連唱(せつぶん(じゅん)れんしょう)」という。
準連唱は,「拍央からの3連続音」を除き,すべて切分的である。
切分的な連続音は2種類ある。末音が央音(〜 j i )であるとき「拍央切分」,末音が拍尾音(〜 j i i )であるとき「拍尾切分」という。
例… j i i j i (拍央切分の切分5連唱)
補足1 「連唱および準連唱の個数」
ある曲の中の連唱や準連唱の個数について言及する場合は,特に断らない限りその曲の「1番(初めの1コーラス)」の中の個数のこととする。
補足2 「連唱の認定」
ある曲のある部分の連唱の成否・種類は主にその曲を歌う代表的歌手の歌唱の聴感によって行う。ただし,いわゆる「くずし」については,代表歌手が常にくずして歌っている箇所でも元の記譜は連唱と推定できる,などの場合はそこを連唱と見做すこともありえる。
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