津軽海峡・冬景色 三連連唱歌の調べ[3](短調編)
では、いよいよ三連連唱歌の紹介と解説に移ります。今回からしばらくは「短調編」です。
☆印を付けて五段階に分け、☆の多い順に挙げていきます。あくまで私の主観に基づいて、“連唱の度合い”が高いものほど☆を多く付けています。
また、☆の数毎に、(〜連唱歌)などと名付け、その特徴について説明を付けました。が、これらは前回のような「定義」とは異なり、ざっくりまとめた一つの目安であって、必ずしも互いに排他的に類別する呼び名にはなっていません。
☆☆☆☆☆(多連唱歌)
長さ10以上の連唱が複数箇所に認められるもの。
[01] 津軽海峡・冬景色☆☆☆☆☆
(阿久悠/三木たかし、石川さゆり)
歌い出しから怒涛の拍頭多連唱。多連唱日本歌謡・短調曲の代表といえば、知名度も考慮するとまずは何といってもこの曲でしょう。「非連唱+準連唱」部分を巧みに挟みながら、「上野発の…」「北へ帰る…」「凍えそうな…」と同じ長さの多連唱が3回も歌われます。1コーラス中唯一の拍頭単連唱「連絡(船)」も力強く効果的です。「曲先」か「詞先」か知らないんですが、どうみても「曲先」ですよね。そこに、3音節、6音節の語句ばかりで15音つなげ、最後に4音節の語句を持ってくる拍頭19連唱!の歌詞を乗せる。その内容も、ほぼ具体的な叙事叙景のみによって普遍的な情景情感を導いている。みごとです。あるいは、もしこれで「詞先」なら、三連連唱の旋律に乗せることはむしろ必然になってきます。そうしない作曲家はもはや「才能ナシ」でしょう。
以下は細かい話になりますが…
長母音と連唱について。
「夜行列車」の「こう」は長母音で、「こ」と「う」の音程も同じ。よって厳密にはここで連唱が切れるともいえます。──日本語の歌のエスペラント訳やエスペラントの歌の作詞作曲を手がけていた父が「長母音はあくまで長母音、送り仮名をそのまま発音するのではない」と言って譲らなかったのを思い出します。── 今の例だと、「やこう」とは書くが発音は [yakou]ではなく [yako:] だということですね。そうだとしてもこの歌のここは「や」「こ」「ー」の3連続音に聴こえるともいえ…微妙です。2番の「竜飛岬」は文句なしの連唱ですね(次項参照)。
「ん」「っ」と連唱について。
「『ん』や『っ』は連唱を切ると見做すのか」という、「単位音価に乗る『ん』や『っ』」の認定問題というのもあります。「ん」については、聴感上独立音価として扱える場合も多くあります(→注)。ただ、前項とは反対に1番の「上野」に対応する2番の「ごらん」の「ん」は、単なる[n]なのか独立音程(独立音価)なのか微妙ですね…。「っ」については、音程不定としての×印の符頭を与えて音価と認め、他の音と同様に扱うことにしましょう。つまり休符ではないと捉えるのです。この曲だと「列車」は連続音と見做せます。加えて、「津軽海峡・冬景色」の「列車」の「っ」はどうかというと、「れ」「えっ」「しゃ」という具合に「えっ」にも音程(しかも直前の「れ」と異なる音程)を設けて歌われているともとれ、十分に連唱と認定できます。
注…単位音価音に限らず、日本語の歌における「ん」は、独立(と見做せる)音価が与えられることが少なくありません。ここが欧米語の[n]とは違うところで、「日本語の歌には、旋律だけを取り出しても曲として美しいものが多い」ことの理由の一つになっていると考えます。この辺りは後に詳述しようと思っています。
https://www.youtube.com/watch?v=JHAinNVcQW4
↑これは採譜例です。「原譜」(があるとしてそれ)は不明なままの、あくまで一例です。歌なので本来は符尾を非連桁にすべきですし、拍子も採譜としての可能性の一つに過ぎません。その辺りご了承頂きたく。
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