能登半島 三連連唱歌の調べ[4](短調編)
連唱度の高さを☆の数によって五段階に分けています。☆の数毎の呼び名と説明は、「定義」や「類別」とは違って、もっと緩い、一つの目安として付けています。
☆☆☆☆☆(多連唱歌)
長さ10以上の連唱が複数箇所に認められるもの。
[02] 能登半島☆☆☆☆☆(阿久悠/三木たかし、石川さゆり)
「津軽海峡冬景色」の次にリリースされたのがこの「能登半島」ですね。
詞曲とも同一作家のこうした連続リリース曲のペアに対する、“二番煎じ”といった揶揄は、その作家たちが自嘲を込めて言うなら意義もあるでしょうが、自ら創作しない/できない者が言うのは通常は慎しみたいと考えます。作品の享受者としての我々には、作家一人の創作とはどういった行為なのか、その機微についての想像力が必要だと思います。似ていることはそれだけではけっしてマイナスにはなりません。知らない人にはハイドンの交響曲はどれも同じに聞こえるかもしれませんし、「ブルックナーは同じ曲を何回も書いた」というのもある意味当たっているともいえる。そのどれもが素晴らしいというだけです。
話を戻しますと、「津軽海峡・冬景色」より「能登半島」の方が曲のテンションはさらに上がっているというふうにも私には見えます。少なくとも「より売れた方/初めに出た方が、やっぱりよい」と単純には言えないのです。
「能登半島」は「津軽海峡・冬景色」よりも1拍少ない拍頭16連唱で始まります。…いえ、「荒く」が“揺らし”で歌われれば、すなわち「あーらく」の「あ」と「ー」の音程が異なれば、同じく19連唱になります。しかもこちらはその多連唱が、それに応じた長い非連唱を挟むことなく立て続けに2回現れ、その後も息つく暇なくほぼすべてのフレーズが連唱または準連唱となっています。「十九(じゅうく)」の準連唱も、いったん音域を沈ませてサビへの助走を付ける旋律線と相まって一度聴いたら忘れない印象を残します。目立つ非連唱部分はサビの「ゆく旅は」「能登半島」の2箇所くらいしかありません。他にわずかに「恋」の2箇所が連唱でも準連唱でもありませんが、これも「拍央音+長音」の2音から成り、拍頭の休符とセットになって拍頭からの準連唱のような聴感になります。いわば“準々連唱”なのです。そして、「あなた、あなた訪ねて」を聴くに至り、三連連唱の醍醐味は、何も多連唱の長さにだけでなく、こうした、歌詞としっかり連動した準連唱や拍頭複連唱のパワーにこそある、ということがよくわかります。
このように、「能登半島」はまさに三連連唱の鑑ともいえる1曲です。
ところで、この曲も曲先でしょうか。二匹目のドジョウ?(揶揄としてでなく(笑))を狙った作家コンビの間には、ひょっとすると「次も三連連唱で行こう」という事前了解があったのではないか、その上でなら今度は詞先ということもありえるのではないか…そういう想像も楽しいですね。
この曲には幸い、林あさ美の名歌唱が残されています。最後のリフレインのみカットの、ほぼフルコーラスというのも嬉しい。
歌謡曲の多くでは持ち歌歌手がいてこその歌作りになることはもちろん承知しています。この「能登半島」もそうなのでしょう。それでも、できあがった作品は、以後独立に一つの歌として存続します。“後世に残る”ものほどそういう存在だといえます。すると、作品自体の曲─歌としての普遍的魅力をピュアに見出すには、持ち歌歌手の個性をいったん脇に置くのもよい、聴き馴染みのみからの「やっぱり持ち歌歌手でないとね…」という先入観が大事なものの深い理解を妨げる場合がある、ということも、この機会にぜひ訴えておきたいと思います。──ただし上記本文のための「連唱認定」は石川さゆりの歌唱に依っています。──
https://www.youtube.com/watch?v=35YQrOYt7BU
↑写真は採譜例です。「原譜」(があるとしてそれ)は不明なままの、あくまで一例です。歌なので本来は符尾を非連桁にすべきですし、拍子も採譜としての可能性の一つに過ぎません。その辺りご了承頂きたく…。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?