心、しずめて。
水色の小さな真四角の箱。
丁寧に薄紙に包まれた短いお香を一筋、そっと金魚の形の香立にたて、火を。
すーーん、と風のない部屋に香煙がのびる。
白檀の香り。
たくさんの人の表情や言葉、そこに乗る思いが、時に身体に頭にまとわりついて、孫悟空の輪っかのように、ギューーっと頭を締め付けて。
深く、深く、吸い込むと、その輪っかはゆっくりゆっくりと、ほどけていった。
緊張していた立ち耳が、しおんと垂れさがり、肩の力も抜けていく。
ゆっくりと目を閉じる。
ゆっくりと丁寧に息を吸い、細く長く、吐いていく。
落ち着いていく。
忙しく金魚が餌を欲しがって、底砂をつついて、じゃりっじゃりっと呼んでいる。
パラパラ。
真ん丸なお口をグイッと水面から出し、カプカプと食べる。食べる。食べる。
そういえば、
私も朝ごはんがまだだった。
よく食べて、働こう。
心も頭も、楽にして、今日は今日のことをする。
今日は今日の私でいる。
心の場所を知っている。