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暮らす。馴染む。
ひとり暮らしをして一年半の長女の部屋へ、家族で遊びにきた。いや、掃除しにきた。
服が溢れ、物が散らばり、集められるべき資源が滞り、フランス語やら英語やらの資料やライブのチケットや、アゴが細すぎるプリクラや、美容室のお友達紹介やらが乱雑に積み重ねられ。
「だから部屋きたないよって言ったじゃん」
うん、そうだけど。
生活感があふれまくっている。ダダ漏れだ。
とにかく服を畳み、クローゼットにしまう。
ダンボールとペットボトルを回収BOXへ出し
排水溝の詰まりを取り、
紙の束から、いらないものを捨てる。
掃除機をかけ、クイックルワイパーをする。
親元を離れ、見知らぬ土地で、知り合いもおらず暮らして一年半がたち、友達もできて、バイトもしっかり入れてもらい、単位もそれなりに取れて、
「あの店のだし巻き玉子がおいしい」
とか
「そこを曲がったとこが友達の家」
とか
「この先にカラオケがあって」
とか。
ちゃんと暮らしてきたんだな、と思う。
こうやって馴染んでいくんだな、と思う。
熱を出して歩いて5分ほどの病院へいったり。
裏のドラッグストアで抗体検査をしたり。
近くのスーパーは火曜がポイント2倍で。
バス停は橋を渡った先で。
どうにか暮らしていく様子から、
学生に優しい街でよかったと思う。
ようやく片付け終わり、近くの焼き鳥屋さん(ここのだし巻き玉子が美味しい)に徒歩で行く。私の地元には、徒歩で行ける居酒屋などないものだから、それだけでなんて便利なんだ、と思う。生ビールが沁みる。
気分よく、少し遠回りをして帰る。
少し雨の匂いがして、鈴虫が大はりきりで鳴いていた。
学生生活は楽しいだろうな。
たくさんいろんな経験をして欲しい。
もう1本のブルーの歯ブラシと、ディズニーの空き缶の中の「オカモト」も、きっと彼女をうんと成長させるはずだ。
引っ越してきたときは、部屋が広すぎてさみしいと言っていた彼女だけれど。
もう大丈夫みたいだ。
「部屋、掃除しなよ?」
「はーい」
ホントかよ。