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笑ってはいけないと思えば思うほど。
休日の夕方にピンポーンとインターホンがなるのは、宅急便か、母か姉からのお届けものくらいで、私はつい先ほど缶ビールをプシュッとあけたところだし、娘たちも温め直したピッツァに齧り付いたところだった。
このクソ寒い中、朝っぱらからゴルフに出かけて、取引先からの接待を存分に受け(そのわりにはドライな仕事ぶりであまり接待のし甲斐のない男なのだけれども)、こたつにゴローンと(3時間)していた夫がムクリと起きて対応する。
我が家の玄関は、リビングダイニングの続きにあって、だから「こんばんわ〜」とお客さんが来ると、お食事中のわたしたちが丸見えで、やたらとウェルカムでアットホームな間取りとなっているため、今宵のお客さまもそんな場面に出くわすことになったのだけれど。
そのお客さまとは、置き薬の薬屋さんだった。
3ヶ月に一度くらいのペースで、置き薬箱の入れ替えにやってきていたのだけれど、なかなかタイミングが合わなくて、気がつけば1年以上も出会えておらず、風邪薬やら湿布薬やらがスッカラカンになっていた。
「こんばんわ〜、すみません、こんな団らんの時間に〜」
「いえいえ〜、こちらこそなかなかタイミング合わなくてすみませんねぇ〜」
なんていう挨拶をはさみながら、玄関先で置き薬の入れ替えをしてもらう。
「風邪薬、だいぶ使ってもらってますねー!」
「湿布薬ってだれが使うんですかー?」
結構な音量でときおり発言する薬屋さん。誰かに似ている…と思いはじめたのは私だけではなくて、夫も娘たちも若干ニヤついている。
「ちょっと車から薬とってきますねー!」
と薬屋さんが中座したとたん、堪えていた笑いを開放し始める家族。
「ねー、誰かに似てない?」
「ねっ、ねっ!パンクブーブーのメガネじゃない方の人に似てない!?」
「似てるーっ!!!」
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メガネじゃない方、佐藤哲夫さん。
車から戻ってきた薬屋さん、以降佐藤さん、入ってくるなり、唐突に元気に発言する。
「旦那さん、レフティーなんすかーっ!!」
ゴルフ帰りに玄関に置いてあったゴルフクラブを見てのことらしいのだけれど、もう夫もわたしたちもパンクブーブーの佐藤さんで再生されてしまうから、内心面白くてしかたない。笑ってはいけないと思えば思うほど、込み上げてくる。
「あぁ、そうなんすよ、ゴルフされます?」と、
かろうじて普通に答えるのだけれど、わたしたちはピッツァを片手にニヤついちゃって仕方ない。
「しますします!ボロボロっすけどねぇ〜!」
発言のいちいちの声のボリュームが、もうパンクブーブーの漫才の口調すぎて、笑いを堪えるのに必死だ。娘たちは玄関に背をむける向きで座っているからいいようなものの、私なんてもろに見えてしまって、なんなら会話もふられたりするものだから、笑いを堪えるのに必死で、ビールが一口も飲めない。
「今日、ゴルフだったんですよ〜」
なんて普通のトーンで夫が会話を続けると、
「マジっすかぁー!!」
とノリのいい相槌が返ってくる。
ノリのいい相槌だけ。
…だけ?笑
え、そのあとなんか続かないの?って肩透かしをくらったみたいなわたしたちに、またウケてしまう。もちろん、瞬時に顔を背け、サイレントで。
笑ってはいけないと思えば思うほどダメだ。
で、
「葛根湯ですけど、錠剤とドリンクとどちらにしますか?」
と、普通に薬屋さんトーンで返ってきた。ウケる。いや、ウケるとこじゃないんだけど、だってもうさ、わたしたちには佐藤さんに見えてるし、なんならネタに見えてきちゃってるから、急に薬?とか思っちゃって、だめで、笑。
「あ、錠剤で、お願いします」
「はーい、じゃ、とってきますね〜」
と、二度目の中座。ドアが閉まった途端、一旦、思いっきり笑う家族一同。
「マジっすかー!とかもう、まんまじゃん、ウケる笑笑」
「でさ、そのあとなんか続くんか思ったらさ、何も言わないんだよ、それだけ?ってなっちゃった笑笑」
「だめだ…笑っちゃう笑」
「めっちゃ似てる笑」
ヒィヒィ言って笑ってしまう。
再び佐藤さんが戻ってきたときには、またフッとみんな普通に戻って、もう片手に持ってるだけのピッツァを齧ったりなんかして、笑いをごまかして、団らんを装う。背を向けてるのをいいことに、三女とかはもう笑っちゃってるんだけど、肩ヒクヒクなっちゃってる。
と、
「ゴルフ、今日はどこへ行かれたんすかー?」
続ききたーっ!話題もどったーっ!ウケる。
「今日はね〜、◯◯高原だね」
「あー、あそこも難しいっすよね〜っ!ヘアウェイこんなんじゃないっすかー!」
「そうそう、難しいねー、あれ」
にこやかに会話してたかと思うと、手元のピッピッてハンディーで作業するときには急に真顔にもどる佐藤さん。もうネタにしか見えない。
「風邪薬は、糖衣錠と顆粒とどっちがいいですか?」
とまた、薬の話をふってきて、そりゃ薬屋さんだからそうなんだけど、なにも間違ってなんかいないんだけど、もうわたしたちには佐藤さんでしか再生されてないから、なに普通に薬の話しとんねん!くらいに思えてきちゃって、なんかボケなきゃいけないのか?とかばっかりグルグルしちゃう。
でも、ちゃんと、平静を保って(若干ニヤついて)
「あ、顆粒でお願いします」
「はーい。あ、ボクらはもう、風邪薬は風邪ひく前のやつなんで。なんか違和感くらいのときに食前に白湯で飲んじゃうんで、風邪ひかないんっすよ。風邪ひく前の風邪薬なんで〜。」
と、ノリよく、軽く頭でリズム刻むくらいしながらあの口調で語られて、
「そうなんですね〜、風邪ひく前の。もう予防に使っちゃう的な感じですか?」
「そうっすね、風邪ひく前の風邪薬なんで〜。」
なんのフレーズやねんっ!とツッコミたくなるんだけど、ただの薬屋さんのアドバイスで、彼は別にボケてるわけではないのだから「そっか〜」で正解なのだけれど、欲しがっちゃう私がいる。
「白湯でね」
「そうっすね、白湯で、食前に」
「筑前煮?」
「笑笑!食前に笑 お嬢さんノリいいっすね!」
次女がほんのりボケたのだけれど、普通に笑って、普通に返ってきた笑。そりゃそうだ、彼は薬屋さんなんだから、漫才師じゃないんだから。なんにも間違っちゃいないんだけどもさ。
「じゃ、身体に気をつけてお過ごしください、
お食事中すみませんした、ありやとっしたー!」
と、ご挨拶して彼が帰っていき、ドアが閉まったとたん、みんな堪えていた笑いを開放して爆笑。
やっと思いっきり笑えた!!はぁーおっかし!
そして、欲しがってしまっていたわたしたちの欲求を満たすべく、みんなでYouTubeで本物を観たのだった。
はぁー笑
しかし、そっくりすぎた笑
薬屋さん、また来ないかな〜。