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送辞。

ロールカーテンの紐を引くと、その朝の日差しが春めいていて、そうか、今日から三月だもんな、と気づき、階下のカレンダーをビリビリと捲った。大きな数字の3はふくよかに笑う。

土曜日なのに、お弁当を作ったのは、今日が卒業式だからで、次女は在校生の席で、幼い頃から兄妹のように育ってきた従兄の卒業を見届ける。
従兄が新聞紙の棒を作れば次女も欲しがり、その棒を杖のようにして、二人でおかしな踊りを踊っては笑いこけていた。二人にしか見えない世界がそこにはあった。

小中は隣の学区で学校は別々だったけれど、同じ高校へ進学し、男女別ではあったけれど、同じバレーボール部に入り、初心者の次女は従兄の熱心な指導のおかげもあって、経験者に混ざっても一見わからないほどにまで上達した。

体育祭で団長を務めた従兄は、次女の周りの女子からも人気が出て、そんな彼を次女は誇らしいやら照れ臭いやら複雑な思いで、それでも帰りの電車で一緒になって改札を出てくる顔は、ニコニコと嬉しそうで、やっぱり二人は気が合うのだ。

数日前から次女はこぼしていた。
「あの◯◯従兄呼び捨てが卒業なんてなぁ…」
実感が湧かないのだと。

卒業したら、彼は東京の大学へ行ってしまう。

次女は朝から、すでに手に持っているものを探していたり、定期を忘れそうになったり、インナーを着忘れたりと、どこか上の空だ。

卒業式の日、そういう厳かな節目の日を、ともに過ごすうちに、心は歩み出すのかもしれない。
大丈夫、三月は見届けてくれる。

今日は、ぽかぽか陽気になるという。

「俺、根拠のない自信があるんだよ」
と明るく言い放つ彼に、とても似合う門出だ。

卒業、おめでとう。

寝ぐせのまま、まだ淡い青空に。

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