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年上の、彼は。
そっと、布団の中に忍びこむ。
まっすぐ真上を向いて眠る彼の胸に、耳を当てると、眠ったまま無意識に彼は、右手を私の背中に乗せる。
私はそのまま、彼の規則正しい寝息のもれるカサついた唇に口づける。好きなだけ、好きなように。そうして眠っていた唇に少し力が入って、
「ん?」
と、瞼が開きかけるまで。
「ん??」
何も答えずに、ただそのまま唇を喰んで、頬に触れ、熱をこめる。そのころには私の勝手な口づけは、寝ぼけ眼の彼とのキスになる。
寝込みを襲うとか、不意打ちのキスとかに、抗わない彼は、私の手がTシャツの裾から入ってくるのがわかると、塞がれた口の端で笑う。
シャツを捲り上げながら、這わせる唇の意味を、ようやく彼は理解したみたいに、
「するの?」
と聞くから、私はもこもこと布団から出て、
「するの」
と、やっと視線を合わす。
「したいの?」ではなく「するの?」と聞くことや、それからの彼の手つきや身体を返すタイミングやリズムの、そのシンプルさが心地よい。
たとえば、手を洗っている間の背中とか。
着替えの途中でテレビに気を取られている間のお腹とか。運転中にギアに乗せた左手とか。
彼の身体の無防備な部分を、私はときどき、自分のものみたいに思う。好きにしていい部分のように。そこは、私が好きなように抱きついたり、触れたり、握ったり、なぞったり、齧ったりしてもいいものだと。
だから、だと思う。
彼の脳みその指令がそこに行き届き、意思をもって動きはじめると、「あ〜あ」と思う。そうなるとだって、もう、それは私のものではないもの。
気付かれないように触れてたかったのに。
ギュッとしてたいだけだったのに。
それなのに、ずっと反応がないのもつまらなくて、結局は、彼が応じるまでしてしまう。
かまってほしい、とかじゃなくて。
あくまでも、好きなようにした延長線上のこと。
覆い被さる彼が、何も聞かないでいてくれるのが心地よくて。黙ったまま、私は好きなように彼を味わう。深い息と、交じる声を読む。
くしゃくしゃになった布団を集めて、裸ん坊で平和そうに大の字になった彼の腕に頭を乗せる。
「寝込みを襲われた」
「襲ってやった」
どうしたの?とか、なんで?とか聞かれなくてよかった。心当たりはあっても、それは彼には関係のないことで、どうしてでも、なんでかも知らないまま、こうして襲われてくれるのだから。
まんまと襲われて、すぅすぅと寝息をたてはじめる彼のシンプルさに、私はいつも救われている。
「すべてを知りたいとは思わない。
知らなくていいことは、知りたくない。」
彼のその言葉を、とても寂しいと思っていたころがあったけれど、今ならわかる。その距離感を。
いつも、十年後。
私は年上の彼の思いを知るのだ。